《 7月30日 》

   ツェルマット(1600m) ⇒ シエール(500m) ⇒ シオン(500m) ⇒ フェルペクル(1885m) 〜 ルシエール小屋(3507m)

   7月30日、8時にアパートを出発し、妻と一緒にツェルマットの駅に向かう。 予報どおりの良い天気だ。 薬で熱は下がったがまだ体がだるく、山には行きたいが出来れば明日にしてくれという感じだ。 駅への途中で偶然田村さんとすれ違いエールを送られるが、カラ元気で挨拶するしか術がない。 シエールまでの切符(24.5フラン/邦貨で約2,800円・半額カード使用)を買い、8時37分の電車に乗る。 車内では景色を眺めることもなく、ひたすら寝ていく。 1時間ほどでフィスプに着き、20分ほど待ってジュネーブ行きの急行列車に乗り換える。 まだ頭が少し痛い。 急行だとフィスプから一つ目の駅がシエールだった。 乗降客は少なく、出迎えてくれたダビッドともスムースに落ち合えた。 駅はそれほど大きくないが、駅の隣に新しい大きな立体駐車場があった。

   シエールからは前回と同じように鉄道と並走する無料のハイウェイでシオンへ。 シオンは予想よりも大きな町で、そこから登山口のフェルペクルに向けてエランの谷へ入る。 前回と同じように山岳路の状態はとても良く、大型のポストバスが運行しているのも頷ける。 途中にはレストランやガソリンスタンドがある小さな町が幾つかあり、シオンからも近いためか観光客の車も多い。 車窓からは見慣れたツェルマット側からの山容とは趣を異にする白いダン・ブランシュが遠望された。 アローラへの道を右に分けると道路は次第に細くなり、シオンから1時間ほどでポストバスの終点のフェルペクルのバス停を通過した。 バス停の先へも舗装された車道が通じていて、1キロほど先に広い駐車スペースがあったが、すでに30台くらいの車が停まっていた。 その先の狭い道の両側にも車が停まっていたが、ダビッドは躊躇なく先へ進み、一番奥にあった車が5〜6台停められる小さな駐車場に車を停めた。 そのすぐ先が道標のあるトレイルの入口だったが、ルシエール小屋という案内表示は無かった。


ダン・ブランシュの地図


妻に見送られてツェルマットの駅を発つ


フィスプからジュネーブ行きの急行列車に乗り換える


ジュネーブ方面への無料のハイウェイ


車窓から見たシオンの市街


シオンから登山口のフェルペクルへ向かう道路から見たダン・ブランシュ


登山口の駐車場


   11時半に駐車場を出発。 天気が安定しているので傘は車に置いていく。 道標には標高1885mと記されていたので高度計をこれに合わせた。 傾斜の緩い癒し系の道だが、山小屋までの標高差1600mに気が滅入る。 見栄を張っても仕方がないので、前回と同じように今日の体調に合わせた自分のペースで登っていくと、ダビッドはどんどん先に行ってしまったが、その方がお互いに気が楽だろう。 草原状のトレイルには高山植物が咲乱れ、周囲の山々や氷河の景観が素晴らしい。 前回のバルソレイ小屋ほどではないが、前後を歩いている人がそれなりに見られた。 登山口から1時間ほど登ると、前方に現在は休業しているというアルペ・ブリコラ小屋が見え、予想どおりそこでランチタイムとなった。 ちょっとした平坦地になっているこの場所からはグラン・コンバンの頂稜部が頭上に仰ぎ見られ、その迫力に思わず息を呑んだ。 明日登る南稜の様子も良く分った。

   アルペ・ブリコラ小屋から1時間ほど緩やかに登っていくとモレーン帯に入り、岩にペイントされたトレイルの表示が赤(実線)から青(破線)に変わった。 ケルンに導かれて氷河の末端を横切ったり、沢を飛び石伝いに渡ったりしながら岩盤の上を登っていく。 標高が3000mを越えた顕著なモレーンの背(ロック・ノワール)の手前で2回目の休憩となり、ダビッドから「あと1時間で着きますよ」と言われた。 タイミングを見計らってダビッドに「明日は頑張るが、今日は風邪で体調が悪いのでゆっくり登りたい」と伝えた。

   モレーンの背を登り始めると間もなく右手に広大なフェルペクル氷河が見られ、その先にダン・デラン(4171m)の頂稜部が見えた。 日帰りで山小屋まで往復したと思われる10人ほどの年配のグループとすれ違う。 このままモレーンの背を登っていくのかと思ったが、最後は緩やかな氷河の上を三本の木の棒を組み合わせた道標に沿って登る。 前を登るパーティーはアイゼンを着けロープを結んでいたが、ダビッドは予想どおりそのまま何もせずに登り通した。 30分ほど氷河を登っていくと、前方に後退したモレーン上に建つ石造りの山小屋が見えた。 もっとゆっくり登りたかったが、結局は速く登りたいというダビッドに引っ張られる形で、登山口からちょうど5時間でルシエール小屋(3507m)に着いた。 私達は遅く到着した部類で、予想よりも多くの人達がテラスで寛いでいた。

 

フェルペクルと記された道標のあるトレイルの入口


トレイルは傾斜の緩い癒し系の道だった


休業中のアルペ・ブリコラ小屋


アルペ・ブリコラ小屋から仰ぎ見たグラン・コンバンの頂稜部


モレーン帯に入ると岩にペイントされたトレイルの表示が赤(実線)から青(破線)に変わった


ケルンに導かれて岩盤の上を登る


ロック・ノワールの手前から見たグラン・コンバン


顕著なモレーンの背(ロック・ノワール)を登る


ロック・ノワールから見たフェルペクル氷河


緩やかな氷河の上を三本の木の棒を組み合わせた道標に沿って登る


ルシエール小屋


ルシエール小屋のテラスでは多くの人達が寛いでいた


   常連のダビッドに宿泊の手続きをしてもらい、ベッドルームの場所を教えてもらう。 宿代は87フラン(邦貨で約9,800円)で、ガイドには専用のベッドルームがあるとのことだった。 三階建の比較的大きな山小屋は、バルソレイ小屋と同じように内部がリフォームされ、トイレも山小屋の中にあり新しくて清潔感があった。 荷物の整理を済ませ指定された二階のベッドルームに行くと、すでにベッドで横になっている人が何人かいた。 順応は出来ているので、ベッドで横になって夕食の時間まで休養することにした。 

   6時半にベッドから這い出して階下の食堂に行くと、30人ほどの宿泊者で食堂は賑わっていたが、その大半は登山者のように思え、マイナーだと思っていたこの山が意外と人気がある山だと分かった。 夕食はミネストローネに続いて、牛肉を煮込んだ塩味のスープにライスが入った料理だったが、薄味でそこそこ美味しかった。 夕食の席を共にしたスイス人のパーティーは唯一の東洋人の私に興味を持ってくれ、私の片言の英語に根気よく付き合ってくれたので、楽しい時間を過ごすことが出来た。 夕食後にダビッドから、「明日は4時に起床し、準備が出来次第出発します」という指示があった。


ルシエール小屋の食堂


ルシエール小屋のキッチン


ルシエール小屋のベッドルーム


夕食の牛肉を煮込んだ塩味のスープにライスが入った料理


夕食の席を共にしたスイス人のパーティー


ルシエール小屋から見たダン・デラン


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