《 7月25日 》

   ツェルマット(1600m) ⇒ フィスプ(660m) ⇒ ブール・サン・ピエール(1632m) 〜 バルソレイ小屋(3030m)

   7月25日、装備品のチェックを再度行い、9時半に妻に見送られてツェルマットの駅に向かう。 天気は予報よりも悪く雲が厚かった。 予定どおり10時13分発の電車に乗る。 時刻表では8時から夕方の6時の間は30分に1本電車があった。 フィスプまでの運賃は18.5フラン(邦貨で約2,100円・半額カード使用)だった。 車中では久々のアルプスでの登山でワクワクするという感じではなく、名前しか知らないガイドとの顔合わせに少し緊張していた。 1時間少々で待ち合わせ場所のフィスプの駅に着く。 駅前の写真を撮っていると、ガイドのダビッドが笑顔で声を掛けてきた。 サングラス越しの顏は予想よりも若く優しそうに見えた。

   ダビッドの車に乗り、登山口のブール・サン・ピエールに向かう。 すぐに道幅の広い道路に合流すると、そこから先はジュネーブ方面への電車の線路と並走する無料のハイウェイとなっていた。 制限速度は100キロのようだが交通量は少なめで、ダビッドはそれ以上のスピードで飛ばしていた。 車中では拙い英語とジェスチャーで自己紹介や山の経歴などをダビッドに話した。 単語や文法がなかなか思い浮かばないが、山に対する情熱だけは伝わったようだ。 ダビッドはまだ25歳という若さでフィスプの近くのシエールという町に住んでいるとのこと。 山岳ガイドの資格を取ってからまだ2年しか経っていないが、幼少の頃から相当山に通い詰めていたようだった。 春と秋はロッククライミング、冬はスキーと一年中ガイド業をしているとのことで、私が登山で行ったことがあるチリで一番大きなスキー場のインストラクターや、ネパールのチョラツェなど登攀系の6000m峰のガイドもやったことがあるとのことで話しが弾んだ。 今回彼と登る予定の三山のうち、ヴァイスホルンとダン・ブランシュは数回登ったことがあるが、グラン・コンバンは登ったことがないとのことだった。

   以前シャモニへ電車で行った時の乗換駅だったマルティーニにフィスプから1時間ほどで着いた。 車窓から見たマルティーニはブドウ畑に囲まれた町だった。 マルティーニからはジュネーブ方面への本線から分かれ、イタリアとの国境のグラン・サン・ベルナール峠(2469m)への山岳路に入るが、日本に比べて山が大きいためか、カーブは緩く道幅も広いため走行スピードが速い。 途中にはレストランがある小さな集落がいくつか点在していた。 予想よりも早く1時前に教会のあるブール・サン・ピエール(1632m)の小さな村に着いた。 どこに車を停めるのかと思っていたら、何の標識もない急勾配の細い山道に入り、さらにしばらく未舗装の道を進んで車が数台停まっている“登山口の駐車場”に着いた。 高度計の標高は1800mを越えていたので、車でアプローチしたメリットがあった。

 

グラン・コンバンの地図


フィスプの駅


フィスプからダビッドの車で登山口に向かう


ジュネーブ方面への無料のハイウェイ


車窓から見たマルティーニの町


車窓から見たブール・サン・ピエールの村


登山口の駐車場


   夕方には雨が降りそうだったので傘を持って1時過ぎに駐車場を出発。 日本ではすでに午後の時間帯だが、こちらでは2時間ぐらいの時間のズレがあるので、まだ11時ぐらいの感じだ。 付近には道標が無かったが、すぐ先でブール・サン・ピエールからバルソレイ小屋へ至るトレイルに合流した。 山はもちろん山小屋までのルートも全くマイナーだと思っていたが、周囲には予想以上に多くの人が見られた。 この辺りはスイスの中ではフランス語圏なので、挨拶は基本的に“ボンシュール”だ。 勾配の緩い牧歌的な雰囲気の道を氷河から流れる沢沿いに進んでいく。 先を歩くダビッドから、「ペースが速かったら声を掛けて下さい」と言われたので、明日のことを考えてマイペースでゆっくり歩いたが、ゆっくり歩き過ぎたのか、「明日はもう少し早く歩いてもらいます」と休憩した時に言われてしまった。 

   天気は予報以上に悪く展望は冴えないが、涼しいので助かる。 トレイルには色々な高山植物が途切れることなく咲き誇り、天気が良ければ山小屋までのハイキングでも充分に楽しいだろう。 前方に一瞬だけ厚い雲間からグラン・コンバンと思われる氷河を身に纏った山が見えた。 ガイドブックに記された『ヴェラン小屋』や放牧小屋のような『アモンのシャレー』を過ぎると間もなく小雨がパラつき始め傘をさして歩く。 大小の岩が堆積する山小屋直下のモレーン帯では野生のヤギ(アイベックス)の群れが見られた。

   登山口がブール・サン・ピエールから30分以上奥に入った所だったので、予想よりも早く4時半にバルソレイ小屋(3030m)に着いた。 アルプスの山小屋では一般的な石造りのこぢんまりとした山小屋は、内部がリフォームされていて清潔な感じがした。 トイレは外に2基あったが、氷河の水を使った“水洗トイレ”になっていて臭いは全く無かった。 ダイニングルーム(食堂)には大きなストーブがあり、予想に反して室内は暖かかった。 宿代は76フラン(邦貨で約8,600円)だった。 11年ぶりにスイスの山小屋に泊まるので、色々と独自のルールを忘れていたが、ダビッドの仕草を見ているうちに一つ一つ思い出してきた。 山小屋は二人のフランス人の女性がきりもりしていたが、そのうちの一人は昨年四国で2か月間“お遍路さん”をしたとのことで、片言の日本語で話しかけてきてくれたので嬉しかった。 山小屋の宿泊者は私達を含めて20人くらいで小学生くらいの子供もいた。 明日グラン・コンバンに登る登山者は全てガイドと一緒で、私達の他は若いドイツ人の夫婦と同年代のフランス人の男性だった。 夕食は6時半からと早く、カレー風味の鶏肉の料理は付け合せがライスだったので嬉しかった。 デザートの洋梨のコンフォートは驚くほど美味しかった。 夕食後にダビッドから、「明日は3時に起床(朝食の時間が3時ということ)し、準備が出来次第出発します」という指示があった。 夜になると再び雨が降り出し、明日の天気が心配になった。


登山口からしばらくは勾配の緩い牧歌的な雰囲気の道が続いた


前方に一瞬だけ厚い雲間からグラン・コンバンと思われる氷河を身に纏った山が見えた


アモンのシャレー付近の牧草地


バルソレイ小屋直下のモレーン帯


バルソレイ小屋


ダイニングルーム(食堂)には大きなストーブがあった


ベッドルーム


氷河の水を使った“水洗トイレ”


ガイドのダビット・ウィッキー


四国で2か月間“お遍路さん”をしたというフランス人の女性スタッフ


グラン・コンバンの登山概念図(4のルートを登った)


夕食のカレー風味の鶏肉の料理


デザートの洋梨のコンフォート


山小屋から見たモン・ヴェラン(3726m)


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