《 7月22日 》

カーリィー・タウC.1(4270m) 〜 カーリィー・タウC.2(4770m)

   7月22日、3時に起床。 昨日とは一変して夜中は動悸と頭痛で殆ど眠れなかった。 起床前のSPO2と脈拍は86と58で数値だけは良い。 テントの中は暖かいが手先は冷たい。 カップ麺を食べ、テントを撤収してから予定どおり5時にC.1を出発する。 すでに周囲は薄明るく、ハン・テングリの頂稜部も見えた。 氷河を10分ほど歩いてから大小の岩が堆積したモレーンのガラ場を登り始める。 昨日はとてもゆっくりだったワディムのペースが急に速くなった。 足元には浮石が多かったので、おそらくここは落石の危険があるのだろう。 田路さんと割石さんの70台コンビはワディムのスピードに合わせて登っていくが、私は息を切らしながらついていくのがやっとだ。 ガラ場を1時間ほど登った所に下からも良く見えた大きな岩があり、ようやくそこで一休みすることが出来た。 朝陽に輝くハン・テングリの頂稜部が神々しい。

   大岩から先では足元の岩が次第に小さくなり傾斜も少し緩んだ。 大岩から小1時間で足元の岩を雪が覆うようになりアイゼンを着ける。 ここまでC.1から標高差で300mほどだった。 間もなく氷河の取り付きとなり、私と田路さんがワディムと、割石さんは平岡さんとロープを結んで登った。 懸念していた雪の状態は悪くなく、ロープを結んでからはペースも落ちたので安堵した。 それほど勾配のない斜面を30分ほど快適に登っていくと、ちょっとした凹地にテントが見られた。 少し違和感を感じたが、その理由はすぐに分かった。 そこから目と鼻の先のセラックの基部が深いギャップとなっていて、ルートを遮断していたのだった。 ワディムがギャップに下りてその先のルートを偵察してから、フィックスロープを固定するのに1時間近く掛かった。 ワディムが気にしていたのは、このギャップのことだったのかもしれない。

   短いフィックスロープを懸垂で下ってギャップを通過すると、その先は純白の広い雪原になっていた。 眼前にはボリューム感たっぷりのカーリィー・タウと、5000m峰とは思えない重厚な面持ちのMt.カザフスタンが鎮座して威容を誇っていた。 振り返るとハン・テングリもさらに凄みを増して望まれるようになり、そのロケーションの素晴らしさに思わず歓声を上げた。 目標のカーリィー・タウのみならず、Mt.カザフスタンも本当に魅力的な山で、近くにハン・テングリがなければ、もっと登山者が増えるのではないかとさえ思えた。 もっともハン・テングリがなければ、B.Cまでヘリが飛ばないだろう。

   まだ時間は早いが、陽光に暖められた雪原の雪は柔らかく、またヒドゥンクレヴァスもあるようで、ワディムはロープを長く伸ばして慎重に前へ進んだ。 すぐに広い平坦地となったが、まだC.2には早過ぎると思ったのでワディムに尋ねると、さらに1ピッチ登った先にも同じような平坦地があり、どちらを今日のキャンプ地にしても良いとのことだった。 まだ時間も早いし、もともと順応のために来ているので、少しでも標高が高い上のキャンプ地まで行くことに異論はなかった。

   雪原の勾配はかなり緩やかだが、トレースが無いためペースはさらに遅くなった。 最初の平坦地から小1時間を要し、10時半にワディムが言った次の平坦地に着いた。 高度計の標高は4520mだったので、C.1からちょうど500m登ったことになる。 山頂方面から二人組のパーティー(先ほどのテントの主)が下ってきたので、ワディムがすかさずその二人に走り寄り、上のルートの状況について情報収集をしていたが、二人は順応不足でカーリィー・タウとMt.カザフスタンの間のコルで引き返してきたとのことだった。

   傍らに純白のカーリィー・タウが屹立するC.2は、ハン・テングリを眺めるのにも格好の場所で、まさに“百聞は一見にしかず”の諺どおり、飯塚さん夫妻がこの素晴らしいロケーションに大いに感動されたということが、ここに来てあらためて良く分かった。 一息入れてから足で雪を均してテントの整地をしたが、これがけっこうくたびれる。 テントを担いで登ってくるセルゲイ達の姿は全く見えず、暖かく風のないC.2で居眠り大会となってしまった。 C.2に着いてから2時間以上経った12時半過ぎに、ようやくセルゲイ達がC.2に着いた。 さっそくテントを設営して水作りを始め、一刻も早く脈を下げるために水分の補給に努める。 2時半頃にB.Cから登ってきたスペイン隊の男女二人のパーティーがC.2に着いた。 正午のSPO2と脈拍は80と80だったが、4時過ぎには85と68になり、気持ちよく昼寝が出来るほどになった。 

   夕方になると空が曇り始めたので、明日の天気が心配になった。 夕食は魚肉ソーセージとインスタントラーメンをケチャップでスパゲテイ風にして食べた。 夕食後にワディムから、明日は3時に出発するとの指示があった。 昨夜のように夕食後は消化不良で脈拍が上がり、SPO2と脈拍は78と78になってしまった。


5時にC.1を出発する


大小の岩が堆積したモレーンのガラ場への取り付き


ガラ場は足元に浮石が多かった


朝陽に輝くハン・テングリの頂稜部


大岩付近から見た北イニルチェク氷河


大岩付近から見た北イニルチェク氷河源頭の6000m級の山々


大岩から先では足元の岩が次第に小さくなり傾斜も少し緩んだ


足元の岩を雪が覆うようになりアイゼンを着ける


時々見られる大規模な雪崩


氷河の取り付きからはそれほど勾配のない斜面を快適に登る


ギャップの手前から見たハン・テングリ


ギャップの手前から見たバヤンコールとセメヨノーブ(左奥)


ワディムがギャップに下りてその先のルートを偵察する


短いフィックスロープを懸垂で下る


ギャップを通過する


広い平坦地から見たカーリィー・タウ


広い平坦地から見たMt.カザフスタン


広い平坦地から見たハン・テングリ


広い平坦地からC.2へは緩やかな勾配の雪原を歩く


陽光に暖められた雪原の雪は柔らかく、トレースが無いため時々踏み抜く


C.2から見た純白のカーリィー・タウ


C.2から見たMt.カザフスタン


C.2から見たハン・テングリ


明日のルートとなるカーリィー・タウとMt.カザフスタンの間のコルの手前の峠


暖かく風のないC.2で居眠り大会となる


12時半過ぎにようやくセルゲイ達がC.2に着いた


テントを設営して水作りを始める


B.Cから登ってきたスペイン隊の男女二人のパーティー


夕食のインスタントラーメン


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ハン・テングリ