《 3日 》

ワラス(3090m) ⇒ マルカラ(2750m) ⇒ ビッコス(3250m) 〜 B.C(4600m)

   8月3日、一昨日が好天のピークだったようで、今日は昨日よりもさらに雲が多い。 今日から予備日を入れて4泊5日の日程で滞在中最後の山となるコパ(6188m)を登りに行く。 初日の今日はマルカラからオンダ谷に入り、途中のビッコスの集落から4700m付近に位置するレヒアコーチャという湖まで登る。 7時半過ぎにスタッフ達がエージェントのワゴン車でホテルに迎えにきてくれた。 残念ながらラウルの姿はなく、コックは昨日市場で出会ったマヌエルで、ポーターはメシアスとノルベルトだった。 

   車窓から見えるワスカランに胸を躍らせながらカルアス方面に向かい、オンダ谷への入口にあるマルカラ(2750m)という小さな町で食料の調達をする。 マルカラの手前でコパが見え始めると、写真好きの私のためにアグリが車を停めてくれた。 オンダ谷への道とのT字路には小さな市場があり、スタッフが野菜や果物、そして雑貨などを買っていた。 マルカラから登山口のビッコスの集落へはオンダ谷への道をいく。 マルカラを出発してからすぐに、5年前に行った日帰り温泉施設の『チャンコス温泉』があったが、建物はリニューアルされ、さらにマルカラ川を挟んだ対面には新しいホテルもオープンしていて驚いた。 道路は未舗装ながらも路面の状態は良く、このまま好景気が続けば将来的には舗装されそうな感じだった。 ビッコスの集落からオンダ谷への道を外れて悪路の山道を登る。 運転手が村の人にどこまで車が入れるかを聞いていたが、そのすぐ先で車がスタックしたので、そこから歩き始めることになった。 ワラスで3090mに合わせた高度計の表示はまだ3250mだった。 

   出発の準備をしていると、下から数頭のロバを連れた馬方の親子がやってきた。 荷物の振り分けはスタッフ達に任せ、9時過ぎにアグリと三人で山道を歩き始めた。 天気は相変わらず高曇りで冴えなかったが、正面にはコパ、左手にはワスカラン、右手にはランラパルカの頂稜部が僅かに見えた。 30分ほど牧草地の中を通る幅の広い道を緩やかに登り、レヒアコーチャ(湖)に登るトレッキングルートに入る。 道標の類は一切なかった。 ユーカリの林を抜けると再び牧草地が広がり、ワスカランが正面に見え始めた。 天気は少し回復して青空が広がってきた。 牧草地の中の踏み跡は所々で薄くなるが、アグリは迷わず淡々と歩いていく。

   トレッキングルートの入口から1時間ほどで牧草地を通過すると、石を均して整備された道となり、勾配も増してきた。 陽射しで暑くなってきたので、道端の日陰で一休みしていると、上から二人の登山者が下ってきた。 登山者の一人はアグリの知り合いのようで、アグリに何やら長々と話しかけていたが、アグリは何故かあまり耳を傾けていなかった。 アグリの話では、その人は資格のないもぐりのガイドで、クレヴァスの状態が悪くてコパに登れなかったらしいが、ガイドの情報ではないので、話は半分にしか聞かなかったとのこと。 休憩を終えると同時に後ろからスタッフ達が追いついてきたが、いつものようにあっという間に見えなくなった。 樹林帯の中の涼しくて快適な区間もあったが、そこを過ぎると木々の背丈は低くなり、いわゆる森林限界となった。 正午過ぎに明るく開けた広い尾根の末端に着くと、先行していたスタッフ達がランチを用意して待っていた。 標高はようやく4000mほどになった。 ランチを食べて寛いでいると、私達の荷物を運んでいるロバ達が傍らを通り過ぎて行った。 

   1時間ほどゆっくり休憩していると冷たい風が吹き始めたので、スタッフ達と一緒に出発する。 木々の無くなった顕著な尾根はやや勾配が急になり、ジグザグを切りながら登る。 スタッフ達の速いペースに妻は引きずられていったが、私は意識的にそれまで以上にゆっくりしたペースで登る。 30分ほど顕著な尾根登ると、ルートはコパの氷河の末端に向けてやや水平にトラバースするようになり、間もなく登攀ルートとなる長大なコパの西稜が見えてきた。 モレーンの末端が近づいてきたようで、周囲には磨かれた岩が多くなり、大岩の下にある先住民が描いたリャマの壁画をアグリが教えてくれた。 今日の天気は不安定で、コパの山頂方面には、白い雲が見えたり消えたりしていた。 岩の間に咲いていた高山植物も徐々に少なくなり、モレーンの末端にB.Cと思えるテントが見えた。 テントサイトに近づくと、傍らには川が流れ、上の方に人工的な水路が見られた。 水路の上にはレヒアコーチャ(湖)があることが分かったが、B.Cはその湖畔ではなく少し手前の平坦地にあり、ビッコスの集落を出発してからちょうど6時間の3時過ぎに着いた。 

   整地されたB.Cの小広いテントサイトは、私達だけで貸し切りだった。 アグリは明後日の登頂日も私達だけだろうと言った。 アグリの話では、コパは近くにワスカランがあるため、易しい山ではあるが人気が無く、シーズン中でも数えるほどしか登られていないとのことだった。 その点は静かな山が好きな私にとってちょうど良かった。 B.Cの標高は4600mほどで、ビッコスの集落からは標高差で1350m登ったことになり、順応してなければ辛かっただろう。 1時間ほど快適な個人用テントで休んでから、ダイニングテントで炒りたてのポップコーンを頬張りながらティータイムを楽しんだ。 順応した体での山登りは本当に気楽だ。 テントのサイズは今までと同じだが、テーブルは4人用の小さなものになっていた。

   不安定だった天気は夕方以降は良くなり、明日の好天に期待が持てた。 夕食前のSPO2と脈拍は88と63で、この高度にしては申し分なかった。 今晩は初めてマヌエルが調理した夕食を食べたが、スープもメインディッシュもラウルとは違った個性が感じられ美味しかった。 夕食後はアグリと色々な話しをしたが、何故か山とは無縁のペルーの政治や経済の話をアグリが熱く語ったり、エージェントのエクスプロランデス社の経営方針を批判したりで、インテリらしいアグリの意外な素顔が分かって興味深かった。 夜には快晴の天気となり、南十字星が良く見えた。


マルカラ(2750m) ⇒ ビッコス(3250m) 〜 B.C(4600m) 〜 H.C(5200m) 〜 コパ(6188m)


スタッフ達がエージェントのワゴン車でホテルに迎えにきてくれた


車窓から見たワスカラン


マルカラの手前から見たコパ


オンダ谷への道とのT字路にある小さな市場


『チャンコス温泉』の建物はリニューアルされていた


マルカラ川を挟んだ対面には新しいホテルがオープンしていた


マルカラからビッコスへの道路は未舗装ながらも路面の状態は良かった


ビッコスの集落から悪路の山道をしばらく走ると車がスタックした


出発の準備をしていると、下から数頭のロバを連れた馬方の親子がやってきた


アグリと三人で山道を歩き始める


牧草地から見たランラパルカ(左端)


牧草地から見たワスカラン


牧草地を通過すると、石を均して整備された道となった


もぐりのガイドがアグリに何やら長々と話しかけていた


後ろから追いついてきたマヌエル達は、あっという間に見えなくなった


樹林帯の中の涼しくて快適な道


森林限界付近から見たワスカラン


明るく開けた広い尾根の末端でランチを食べる


シンプルなランチ


木々の無くなった顕著な尾根をジグザグを切りながら登る


コパの氷河の末端に向けてやや水平にトラバースしながら進む


先住民が描いたリャマの壁画


コパの氷河の末端と麓からも見える荒々しい特徴のある岩塔


整地されたB.Cの小広いテントサイト


B.Cから見たコパの西稜


ダイニングテントでポップコーンを頬張りながらのティータイムを楽しむ


ネグラ山脈の夕焼け


コックのマヌエル


マヌエルの料理はラウルとは違った個性が感じられ美味しかった


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