《 10月20日 》
C.2 ( 6 1 0 0 m ) ⇒ 高所順応 ( 6 4 0 0 m ) ⇒ C.2 ( 6 1 0 0 m )
10月20日、テント内の気温はマイナス8度。 単純に標高に比例して気温は下っていく。 水筒の水はカチカチに凍っていた。 予想どおり長く苦しい夜だった。 夜中のSPO2は59から65の間しかなく、昨年マナスルのアタックステージで泊ったC.3(6700m)と同じくらいの辛さだった。 この原因はC.1へ1泊するだけの順応を省略したためだけなのだろうか。 起床前のSPO2と脈拍は72と78だった。 気分が悪く、朝食はポタージュスープだけにしたが、コップ一杯の量を飲むのに30分もかかった。 今日はアタックステージでの練習も兼ね、アタック用の羽毛服の上下を着て登る。
今日も快晴無風の天気で、ラトナチュリが朝日に照らされて輝いている。 7時半にようやくC.2のテントサイトに陽が当たり始めて暖かくなる。 今日は6416mの前衛峰を越えた先にある最終キャンプ地のC.3(6400m)にタッチしてC.2に戻り、順応のためC.2にもう1泊することになっている。 8時前にスタッフ達が私達よりも一足早くC.3の建設に出発していった。 私達も8時に出発したが、意外にも一番高所経験が豊富な滝口さんは体調不良でC.3には行かず、今日中にB.Cへ下るとのことだった。 今日も昨日と同じようにガイドの平岡さんが先頭になり、パサンが殿(しんがり)に付く。 その間を私達5人の隊員が個々のペースで登って行く。 C.2の背後の高度差50mほどの急な雪壁をスタッフ達が張ってくれたフィックスロープを頼りに登りきると、そこから先は終始緩やかな登りとなった。 アンナプルナ山群の山々のみならず、ダウラギリ(8167m)やマチャプチャレ(6997m)といった垂涎の山々が見え、体調の悪さも忘れて夢中で写真を撮る。
平岡さんに泉さん、割石さん、藤田さん、そして少し遅れて私の4人の男性陣が続き、紅一点となったるみちゃんがパサンと一緒にしんがりを務めている。 風も無く穏やかな天気が本当にありがたい。 先行したスタッフの明瞭なトレースやワンドがあるので、体調に相応しいペースで登る。 ギャジカン(7038m)のみならず、隣のヒムジュン(7092m)の頂も指呼の間に見えてきたが、肝心のヒムルン・ヒマールの頂は未だ見えてこない。 途中から先頭の泉さんのペースが捗らなくなったが、誰一人追い越すことなく、そのままのペースで進む。 高度障害なのか、昨晩良く眠れなかったせいか、それとも羽毛服が暖か過ぎるのか、眠くて眠くて仕方がない。 C.2から2時間半登ってようやく6416mの前衛峰の頂が見えたが、このペースではまだ1時間以上掛かりそうだった。
11時半になって平岡さんが足を止め、そこで休憩することになった。 あと30分ほどあれば前衛峰の頂に着きそうだったが、時間切れでC.3まで行くことを止めたとのことだった。 後続のパサンとるみちゃんが到着するのを待ち、そこからトレースを外れて左手の稜線の方に向かって数10m上がる。 今日の最終到達地点となった稜線上には意外にも平らなスペースがあり、前衛峰の頂の左手に待望のヒムルン・ヒマールの頂が神々しく望まれた。 プー村からB.Cに上がる途中で見て以来一週間ぶりの対面に、それまでの辛さや苦しさも忘れて夢中で写真を撮る。 ヒムルン・ヒマールの頂はなかなか拝むことが出来ないので、仁王立ちしながらその雄姿を目に焼き付ける。 ここまで登ってきても、なおその頂は遠くに感じられた。 標高は6400m弱で、前衛峰を越えた先の広いコルに最終キャンプ地となるC.3のテントが小さく見えた。
正午に最終到達地点を後にしてC.2に下る。 カラ元気もすでに無くなったが、さすがに下りは楽だ。 C.2を見下ろす最後の雪壁の懸垂下降では、ATCにロープを正しくセット出来ないほど脳ミソが酸欠状態になっていたが、何とかごまかして2時前にC.2に戻った。 行動食もろくに食べてないが、テントに戻ってからも食欲は無く、そのうち頭も痛くなった。 3時のSPO2と脈拍は72と86だった。 今日も2人分の水作りに追われるが、明日は天国のようなB.Cに下れるので気は楽だ。 夕食はフリーズドライのスパゲティのみ。 昨夜と同じよう長く辛い夜になりそうだ。