《 9月6日 》

B.C  ( 4 7 5 0 m ) ⇒ C.1  ( 5 5 0 0 m ) ⇒ B.C  ( 4 7 5 0 m )

    9月6日、B.Cに来てから4日が過ぎ、そろそろこの高さにも順応したかと思ったが、夜中に軽い頭痛で3回も目が覚めた。 SPO2を測るといずれも70台前半だったが、起き上って水を飲んだりしていると2〜3分で80台まで上がるので、深呼吸はしないでまた横になる。 長期にわたる今回の遠征ではごまかしはきかないので、B.Cでは小手先だけの順応のための深呼吸はあえてせず、水分摂取に重点を置くことを心掛けた。

    今日は高所順応の第1ステージとして、日帰りでC.1(5500m)まで往復する。 6時起床で7時朝食と、いつもより1時間早いスケジュールで7時半にB.Cを出発する。 今日もまずまずの晴天だが、今までの天気の傾向からすると午後はまた天気が崩れるだろう。 テントサイトの背後のガレ場をケルンに導かれて登っていくが、意外と踏み跡はあまり明瞭ではない。 今日も外国人隊員達はどんどん先行し、すぐに姿が見えなくなった。 圧倒的な高さで聳えているマナスルを望みながら、彼らの速いペースに惑わされることなくゆっくりしたペースでモレーンの背を登る。 1時間ほど登ると大きな岩壁に突き当たり、左から回り込むようにして岩場に取り付く。 岩場にはフィックスロープが張られていたが、ロープは昨日の訓練で使ったものと同じ材質のナイロンだった。 ロープを掴むだけでも登れそうだったが、練習のためユマールをセットして登る。 氷河の融水が流れている滑りやすい岩場を通過すると、カトマンドゥからB.Cまで荷物の運搬に使われた青い樽が2つ置かれ、その先が氷河の取り付きになっていた。 ここは“クランポン・ポイント”と呼ばれ、この樽にアイゼンやピッケルなどの登攀具をデポすることになっていた。 また、ここはB.CとC.1の中間のチェックポスト(無線で本部に連絡する場所)にもなっていた。

    いよいよ山頂に通じるマナスル氷河に足を踏み出す。 氷河の取り付きからは、地形的にクレバスがない場所を除いて基本的にフィックスロープが張られていた。 取り付き付近の傾斜は緩やかだったので、フィックスロープにカラビナを掛けるだけで登る。 私と藤川さんと平岡さんは体力温存のため保温材入りのシングルブーツ、工藤さんとるみちゃんは本番を想定して高所靴にアイゼンを着けて登る。 フィックスロープのお蔭でトレースは登山道のようになっているのでとても歩き易い。 風もなく穏やかで、絶好の登山日和だ。 しばらくすると雲が湧き始めたが、強烈な陽射しを遮ってくれてありがたかった。 何らストレスのない登りだが、酸素の希薄さだけは正直に伝わってくる。 ゆっくり歩いているつもりでも息が切れる。 るみちゃんが一番順応が遅れているようでペースが上がらないが、今日は最後まで皆で一緒に行動する。

    B.Cを出発して4時間足らずで、チーフガイドのエイドリアンを先頭に外国人隊員達が次々に下ってきた。 たぶん彼らは3時間ほどでC.1まで登ってしまったのだろう。 C.1までは全般的に傾斜が緩く、ユマールを使う区間は殆どなかった。 B.Cから5時間弱を要してまだ建設途上のC.1に着く。 ナイケ・ピーク(6211m)との広い鞍部(ナイケ・コル)にあるC.1は風もなく穏やかだった。 意外にもB.Cにいると思っていた隊長のラッセルがC.1で私達の到着を首を長くして待っていた。 C.1からはマナスル北峰(7157m)が圧倒的な高さで望まれたが、サマ村から仰ぎ見ていたサムド(6335m)が、目線の高さまでになった。

    C.1では長居することなく、とんぼ返りでB.Cに下る。 クランポン・ポイントで樽の中にアイゼンとピッケルをデポする。 途中の岩場は懸垂で下りたが、ナイロンロープの強度が心配だった。 下りは速く、2時間足らずで霧に煙るB.Cに着く。 ダイニングテントでキッチンスタッフが作ってくれたラーメンと、藤川さんが知人から頂いた貴重な松茸昆布を食べて英気を養う。 夕方のSPO2は87まで上がり、高所順応の効果が少しみられた。


B.Cから日帰りでC.1を往復する


マナスルを望みながらモレーンの背を登る


モレーンの背から見たマナスル


B.Cから1時間ほど登ると大きな岩壁に突き当たった


岩場に張られたフィックスロープをユマールで登る


氷河の融水が流れている滑りやすい岩場


クランポン・ポイント(青い樽にアイゼンやピッケルなどの登攀具をデポする)


山頂に通じるマナスル氷河に足を踏み出す


風もなく穏やかな絶好の登山日和となる


C.1の手前はクレバスが無く、フィックスロープは張られていない


C.1直下から見たマナスル


C.1では隊長のラッセルが迎えてくれた


C.1から見たマナスル北峰(7157m)


C.1からとんぼ返りでB.Cへ下る


C.1までは全般的に傾斜が緩く、ユマールを使う区間は殆どなかった


岩場を懸垂で下りる


藤川さんが知人から頂いた貴重な松茸昆布


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マ ナ ス ル