《 10月30日 》

C.1( 5 8 0 0 m ) 〜 C.2( 6 0 0 0 m )

   10月30日、ありがたいことに風のない静かな夜だった。 B.Cよりも1時間早く6時半からテントに陽が当たり始めて暖かい。 喉の痛みは残念ながら治っていなかったが、悪くもなっていなかった。 酸素のおかげで頭痛は全く無く、起床後のSPO2は85、脈拍は61で申し分ない。 朝食のレトルトカレーと白米も一人前美味しく食べられた。 倉岡さんが衛星通信で貫田さんに天気予報を確認すると、予報は変わらずサミット・ディの明日は快晴無風で、今日もほぼ同じような良い天気とのことだった。 これから登るC.1からC.2までの間の岩稜の登攀はアマ・ダブラムの一般ルートで一番難しい区間だが、今シーズンはC.2までルート上に雪が全くないので、シェルパ達に高所靴を担いでもらい昨日と同じようにシングルブーツで登ることになった。 ここまでくると“大名登山”を通り越した“宮様登山”だ。 

   気温が上がって暖かくなった8時半過ぎにC.2を出発。 酸素は毎分2Lだ。 順応は少し不足しているが、5年前は高所靴で登った岩場をシングルブーツで酸素を吸って登ることになるとは想定もしていなかった。 今年はC.1に雪が全くないためか、5年前に比べてC.2方面に設営されたテントが多い。 フィックスロープはスイス隊の情報どおり新しい11mmのナイロンロープが使われていて頼もしい。 長いC.1のテント村をトラバース気味に斜上しながら抜けると、標高差ではC.1から僅か200mほどしかないC.2のある岩棚や、ダブラムと呼ばれる山頂直下の雪の瘤とその下のC.3、そして垂涎の山頂が間近に迫るようになった。 ルート上で一番の核心となるレッド・タワーと呼ばれる尖った岩塔が頭上に見え始めると岩壁の斜度が急になり、ユマールで強引に攀じ登る箇所が多くなったが、シングルブーツと背中の酸素がありがたい。 高度感とロケーションは抜群で、順番待ちの間に周囲の山々の写真を撮る。 レッド・タワーの直下では複数のパーティーの下りで少し渋滞した。 意外にも昨日は山頂付近の風が強かったようで、登頂出来なかったという声がすれ違った人達から聞こえてきた。 切り立ったレッド・タワーの登りは予想以上に厳しかったので酸素の量を3Lに増やし、先に登ったウォンチューに“お助け紐”を出してもらった。 レッド・タワーを登り終えると、目と鼻の先にC.2のテントサイトが見え、山頂はいよいよ手の届く所に見えてきた。 レッド・タワー以外での長い順番待ちがなかったので、予想よりも早く正午前に待望のC.2(6000m)に着いた。 テントサイトに偶然居合わせたシェルパのダ・デンディが温かい紅茶を差し入れてくれた。


C.1から見たC.2


朝食のレトルトカレーと白米


倉岡さんが衛星通信で天気予報を確認する


気温が上がって暖かくなった8時半過ぎにC.2を出発する


C.1に雪が全くないためか、5年前に比べてC.2方面に設営されたテントが多い


フィックスロープはスイス隊の情報どおり新しい11mmのナイロンロープが使われていて頼もしい


C.1からC.2へ


C.1からC.2へ


C.1からC.2へ


C.1からC.2へ


C.1からC.2へ


C.1とC.2の間から見たC.1


C.1とC.2の間から見たタウツェ(中央)とチョ・オユー(右)


C.1とC.2の間から見たカンテガとタムセルク(右)


C.1とC.2の間から見たマランプラン


ルート上で一番の核心となるレッド・タワーと呼ばれる尖った岩塔


核心部のレッド・タワーの登攀


レッド・タワーの登りは予想以上に厳しかったので、ウォンチューに“お助け紐”を出してもらった


予想よりも早く正午前に待望のC.2に着いた


シェルパのダ・デンディと再会する


   猫の額ほどの狭い岩棚の上のC.2は例年であればテントが数張しか設営できず、多い時は1つのテントに4人が入ることもあるという劣悪なキャンプ地らしいが、今年はC.1と同じように新しいテントがいくつか設営されたようで、その数は10張ほどあった。 私達の入るテントはルート工作のために最初に設営されたものらしく、その中でも一番良いテントだった。 キャンプ地としては劣悪だが展望はとても素晴らしく刺激的で、他の山だったら山頂に匹敵するか、あるいはそれ以上だった。 眼下に見えるC.1は近いが、B.Cは遥かに遠くなっていた。 明日は好天が約束されているが、予想よりも登るパーティーが多くないようだ。

   行動時間が予想より短かく、昨日から吸っている1本目の酸素がまだ残っていたので、昨日と同じようにテントに入ってからしばらくの間は1Lの酸素を吸う。 1時間ほどするとSPO2は86、脈拍は73となり、GPSで6022mという高度は全く感じない。 陽射しに恵まれたテントの中では下着だけでもいられるくらい暖かかった。  明日の山頂アタックは零時半の出発と決まり、4時半に夕食のレトルトカレーと白米を食べた。 もちろん酸素のお蔭で完食出来た。 喉の痛みはなくなったが、今度は鼻が詰まったりして風邪の症状に変化が出てきたが、土壇場にきた今となってはもう全て受け容れるしかなく、また何があってもあと1日のことなので乗り切れる。 むしろ一番の悩みは、昨日の朝からトイレに行ってないことだった。


C.2から見た山頂


C.2から見たB.C


劣悪な環境のC.2にはテントが10張ほどあった


私達の入るテントはC.2の中でも一番良いテントだった


C.2からの風景


テントに入ってからしばらくの間は1Lの酸素を吸う


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アマ・ダブラム