《 8月9日 》

B.C(4050m) ⇒ カルカラ(2200m)

   8月9日、6時半に目を覚ますと、夜中に少し雪が降ったようで、テントの周りが白くなっていた。 朝食後のフライトに備え、そろそろ起きて準備を始めようとした時、微かにヘリの音が聞こえてきた。 ヘリの音がテントの中からもはっきり聞こえるようになると、ボスのムハが「ヘリが来た!、ヘリが来た!」と大声で叫ぶ声が聞こえてきた。 何事かと慌てて飛び起きると、今度はセルゲイが血相を変えてテントに入ってきて、まだ鍵も掛けていない私のダッフルバックを勝手に持っていってしまった。 隣の平岡さんはまだ寝ていて、ヘリが来たことに気が付いていないようだった。 訳が分からないが、とにかく急いでこのヘリに乗らないと、カルカラに戻れなくなりそうだったので、ザックに寝袋や身の回りにあるものを詰め込んでテントの外に出た。 ヘリは氷河に着陸する寸前で、他隊のメンバーも急いでヘリに向かっていた。 4000mの高所にいることも忘れ、走ってヘリに転がり込んだ。 最後の一人となった平岡さんがヘリに乗り込んだのが7時で、扉を閉めた瞬間にヘリは氷河を飛び立った。 この間僅か15分という思いがけない逃避行のハプニングに、メンバー一同興奮が覚めやらなかった。 

   図らずも早朝の時間帯にヘリが飛んだお蔭で、快晴ではないものの機上からは素晴らしい北イニルチェク氷河周辺の山々の景色を堪能することが出来た。 寒さや高度は全く気にせず、窓を開けてもう二度と来ることは叶わない山々の写真を撮りまくった。 ヘリは順調にフライトを続け、予定どおり30分ほどでカルカラのヘリポートに着陸し、無事ハン・テングリへの登山は終了した。 最後は本当にドタバタだったが、結果的にはワンチャンスで予定より1日早くカルカラに戻れてラッキーだった。 国境では相変らず軍人による面倒な入出国の手続きがあり閉口した。 

   キャンプ場で首を長くして待っていた割石さんに出迎えられ、9時過ぎにようやく朝食にありつく。 朝食後にエージェントの社長のカズベクから、近隣のポベータ(7439m)で事故があり、そのレスキューに使うヘリとのやり繰りのため、フライト時間が急遽変更になったという説明があった。 今日中にアルマトゥイに帰れるかカズベクに聞くと、今日は車の手配が出来ないので明日以降になるとのことだった。 あれほど日本からの出国を楽しみにしていたのに、山が終わってしまえば早く日本に帰りたいという気持ちになるから不思議だ。

   今日のカルカラは雲が多く、3週間前に滞在した時と比べてかなり涼しい。 周囲の花々も盛りは過ぎたような感じで、代わりに秋の到来を告げるかのように、虫の音がうるさいくらいだった。 昨日の便でカルカラに戻り、昼前にアルマトゥイに出発するイラン隊のムハムからメールアドレスを聞かれ、そのフレンドリーさがとても嬉しかった。 お世話になったセルゲイ、イゴール、そしてアンドリューへチップを手渡すセレモニーを行う。 セルゲイとアンドリューはそれぞれ今日帰国の途に、イゴールは残って明日からポベータのガイドをするとのことだった。 C.2からの下山後にB.Cで4日も休養していたが、さらに高度が2000mほど下がったことで体が酸素をどんどん吸収し、眠くなってくる。 食事もB.Cより断然美味しく感じた。

   午後はキャンプ場から少し離れた所にあるシャワー棟に行く。 棟内に入ると、シャワーではなくお湯と水が別々の蛇口から出るようになっていたが、お湯の量がとても豊富で驚いた。 奥にはサウナ室もあった。 3週間ぶりの入浴がとても気持ち良く、夕食に呼ばれるまで個人用テントで昼寝を決め込んだ。

   夕食後は同じテーブルのフランス人からビールを奢られ、同じ日にアタックしたブルガリア隊やスイス隊のメンバーと一緒に夜遅くまで談笑し、最後は母国対抗の歌合戦となり大いに盛り上がった。 山に登れなかった悔しさもしばし忘れ、異国の同志達と一期一会の想い出に浸った。


テントの外に出ると、ヘリが氷河に着陸する寸前だった


出発直前のヘリの機内


寒さや高度は全く気にせず、窓を開けてもう二度と来ることは叶わない山々の写真を撮りまくった


ヘリの機上から見たハン・テングリ


ヘリの機上から見た北イニルチェク氷河周辺の山々


ヘリの機上から見た北イニルチェク氷河周辺の山々


ヘリの機上から見た北イニルチェク氷河周辺の山々


ヘリの機内


カルカラのヘリポート


トラックの荷台に乗って国境に向かう


国境の橋の手前で出国の手続きを待つ


カルカラのキャンプ場での朝食


フレンドリーなイラン隊のムハム(左)とレイラ(左端)


お世話になったガイドのセルゲイ(中央)・イゴール(右端)・アンドリュー


昼食のトマト風味の羊肉のスープ


昼食のサイコロステーキ


シャワー棟


シャワー棟の内部


夕食のスパゲティ


夕食後は同じテーブルの外国人と夜遅くまで談笑し、異国の同志達と一期一会の想い出に浸った


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ハン・テングリ