《 プロローグ 》

   星の数ほどあるネパールの山の中で今一番登りたい山は、エベレストを盟主とする『クーンブ山群』の名峰アマ・ダブラム(ネパール語で“母の首飾り”6856m)だ。 アマ・ダブラムの存在を初めて知ったのは海外登山を始めてからだが、ルクラからエベレストに通じる通称“エベレスト街道”の途中にあるマッターホルンのように独立したひときわ印象的な山として、どのガイドブックや写真集にも必ず載っている有名な山だった。 ネパールには行ったことがなく、当時はヒマラヤの山々も殆ど知らなかったので、エベレストを始めとする8000m級の高峰と同じようにアマ・ダブラムを登山の対象とはしていなかったが、その後南米の6000m級の山々をいくつか経験し、いつかは同峰にチャレンジしてみたいと機会を窺っていた。 何人かの山の知り合いがアマ・ダブラムに登ったことを知って、2年前の秋にようやく同峰を登ることを決めたが、この時はガイドの平岡さんに、より標高の高いマナスル(8163m)を先に登ることを勧められ、昨年は参加を検討していた公募登山隊のHIMEXと日程が合わず、急遽寂峰のヒムルン・ヒマール(7126m)に登ることになり、3回目のネパールでようやく同峰を登る機会を得た。 

   今回のアマ・ダブラム登山の具体的な日程等については、昨年のヒムルン・ヒマールのB.Cで平岡さんと話を進め、ルクラ(2840m)を起点にエベレスト街道では最もポピュラーなカラ・パタール(5550m)の丘を登って高所順応を図り、アマ・ダブラムの近くに聳える人気のアイランド・ピーク(6189m)を登ってからB.C入りするという欲張りなプランとした。 これはエベレストはもちろんのこと、クーンブ山群の秀麗な山々を初めて見る好奇心に加え、仮にアマ・ダブラムに登れなかった時に一つでもクーンブ山群の山を登っておきたいという考えと、ネパールに行ったことがない妻を是非連れていきたいという思いがあったからだが、図らずも今回は山仲間の節子さんも妻と一緒にアイランド・ピークまでご一緒することとなった。 節子さんとは13年前のキリマンジャロ、8年前のヨーロッパアルプスに続いて3回目の海外山行となった。

   出発の1か月半ほど前に参加メンバーが決まり、9月の第1週に小川山の金峰山荘で親睦会を兼ねた説明会とユマールによる岩壁登攀の訓練が主催者のガイドの平岡さんにより行われた。 アマ・ダブラムの参加メンバーは昨年のヒムルン・ヒマールでご一緒した泉さん(JCC)と滝口さん、泉さんと同じ山岳会の先輩の岩野さん、2年前のマナスルのB.Cで知り合った工藤さん、広島山岳連盟の山村さん、各地の山小屋で働きながら世界の山を目指す20代の若い田口さんの7名となった。 田口さんとは昨年5月の塩見岳でお会いしていたことが分かって驚いた。


エベレスト街道の概略図(ルクラからカラ・パタール)


パンボチェからポルツェの間から見たアマ・ダブラム


小川山でのユマールによる岩壁登攀の訓練


アマ・ダブラム登山隊のメンバー(ルクラの飛行場にて)


N E X T  ⇒  《 10月12日 》

アマ・ダブラム