《 10月26日 》

C.2 ( 6 1 0 0 m ) ⇒ C.3 ( 6 4 0 0 m )

   10月26日、今日がアタック日なら良かったと思うほどの快晴の天気だ。 先行しているドイツ隊は今日がアタック日となっている筈なので羨ましい。 予想どおり軽い頭痛と鼻詰まりで昨夜も殆ど眠れなかった。 朝から水作りに追われ、食欲も相変わらずあまりないので、義務的にカップラーメンを食べる。 昨日からこまめにSPO2と脈拍はチェックしていたが、期待以上の良い数値にはならず、メモに記録することが煩わしくなってきた。 

   8時に最終キャンプ地のC.3(6400m)に向けて出発する予定だったが、アタック用の羽毛服の上下を着て高所靴を履いても足のつま先が冷たく感じたので、皆には先に行ってもらい、しばらくつま先を揉んだりして様子を見ることにした。 幸い10分ほどで症状が緩和したので、C.2の背後の急な雪壁をフィックスロープにユマールをセットして登り始める。 前回の記憶ではこの最初の雪壁が今日の核心部で、ここを登り切ればその後は終始緩やかな登行となるので、一歩一歩呼吸を整えながら意識的にゆっくり登る。 雪壁を登り切った所で一息入れていた皆が歩き始めるのを見送ってから最後尾で登り始める。

   今日も元気な割石さんと泉さんの男性陣が平岡さんと先行し、滝口さんとるみちゃんの女性陣がフィジョンと共にその後に続いている。 サーダーのパサンとプルテンバはC.2の撤収の準備をしているので、まだ後ろから登ってこない。 酸欠のため思うように足は上がらないが、足先の血行も良くなり、気分の悪さも無くなった。 天気は安定していて、C.3までは明瞭なトレースやワンドがあるので、写真を撮りながら今の体調に相応しいペースで登る。 眼前のラトナチュリ(7035m)はもちろんのこと、ダウラギリやマチャプチャレが良く見える。 指呼の間のギャジカン(7038m)とネムジュン(7139m)の眺めも圧巻だ。 6416mの前衛峰の頂が見え始めた所で皆が一息入れていた。 C.2からここまで約2時間半で、前回の順応時とほぼ同じペースだった。

   ここからは男性陣のしんがりで登る。 1時間ほどで6416mの前衛峰の山頂直下を右から巻くと、ようやく眼前に神々しいヒムルン・ヒマール(7126m)の頂稜部が望まれ、そのスケールの大きさと懐の深さに思わず息を呑んだ。 目を凝らすと登っているドイツ隊の人影が点々と見えたが、ルートの状態が悪いのかまだ山頂の肩にも達していなかった。 前衛峰から標高差で50mほど下った雪庇の上に最終キャンプ地のC.3が見え、その方向に尾根を緩やかに下る。 明日のアタックではC.3からさらに最低コルに向けて下らないと、頂稜部への登りには入れないことが分かり愕然とした。 ドイツ隊のサミットが遅れているのはこのためなのだろうか。

   12時半に最終キャンプ地のC.3(6400m)に到着。 私達の隊のテント5張りと、ドイツ隊のテント5張りが寄り添うように設営されていた。 C.1から先行しているアンドゥー、タシ、そしてカルディンの三人はルート工作に行っているようで不在だった。 今日も少しでも体力の消耗を防ぎたかったので、すぐにテントの中に転がり込み、スタッフが用意してくれた雪で水作りに専念する。 SPO2と脈拍は76と100で、この高度ならそれほど悪くない。 さすがに少し気分が悪いが、今のところ頭痛がないので嬉しい。

   ルート工作に行ったスタッフ達はまだ帰ってこないが、平岡さんから明日は3時半に出発するとの指示があった。 明日はスタッフとマンツーマンで行動するが、藤田さんがいないのでサーダーのパサンがフリーとなり、割石さんとタシ、泉さんとカルディン、滝口さんとアンドゥー、るみちゃんとプルテンバ、そして私は予想どおり控え目な性格のフィンジョと組むことになった。 早めの夕食にカップうどんを食べて横になる。 隣のテントからは相変わらず元気な泉さんの笑い声が聞こえてくる。 同室の割石さんも相変わらず体調は悪くないとのことで羨ましい。 昨年のマナスルのC.3(6700m)では、呼吸を意識的にするため敢えて寝ようとせず、なるべく起きていることを心掛けたが、今日はそれより300m低いので横になって寝ることにした。 案の定、脈が高くて熟睡出来ず、寝ている間は常にSPO2が60台だった。 鼻は完全に壊れ、鼻をかむと鼻血か血の塊しか出なくなった。


C.2の背後の急な雪壁を登る


C.2の撤収の準備をするパサンとプルテンバ


雪壁を登り切った所で皆を見送る


雪壁を登り切った所から見たC.2とラトナチュリ(7035m)


C.3へは最後尾で登り始める


C.3までは明瞭なトレースやワンドがある


ギャジカン(7038m)


終始男性陣が先行し、女性陣がそれに続く


6416mの前衛峰の頂が見え始めた所から男性陣のしんがりで登る


後ろに続く女性陣


前衛峰の山頂直下を右から巻くと、眼前に神々しいヒムルン・ヒマールの頂稜部が望まれた


雪庇の上に建設された最終キャンプ地のC.3


ヒムルン・ヒマールのスケールの大きさと懐の深さに思わず息を呑む


C.3には私達の隊のテントと、ドイツ隊のテントが寄り添うように設営されていた


C.3から見たヒムルン・ヒマール(左)


C.3から見た6416mの前衛峰


アタック前日も体調はあまり良くなかった


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ヒムルン・ヒマール