1  9  9  8  年    6  月  

《 12日 》    黒岳 ・ 北鎮岳

   層雲峡 ⇒ 黒岳 〜 五合目 ⇒ 七合目 〜 黒岳 〜 黒岳石室 〜 北鎮分岐 〜 北鎮岳  (往復)

   6月11日、未明の車窓から見た空は予報どおり雨雲が一面を覆いどんよりしていた。 山並みは見えているものの、天気の回復は望めそうもなかったので、残年ながら今日は次の山への移動日とした。 今後の行程を考え、明日は当初の予定にはなかった東大雪山系のニペソツ山を登ることにした。 旭川でラーメンを食べ、層雲峡で滝を見物しながらニペソツ山の登山口に向かう。 大雪湖を少し過ぎた所でようやく雲の切れ目から大雪山の稜線がチラッと見えた。 大雪国道から三股と呼ばれる所で林道に入ったが、入口はとても分かりづらかった。 林道に入るとすぐに数十頭の鹿が道路を占拠していて、車の音に驚いて右に左にピョンピョンと逃げていった。 林道を30分ほど走って終点のニペソツ山の登山口に着くと、新しい案内板と簡易トイレが設置されていたが、トイレの扉に印された大きな熊の爪痕が不安を募らせ、夜中にトイレに行くのが本当に怖かった。

   6月12日、夜中に降っていた雨は止んだが、空は相変わらずの曇天だった。 朝食を食べながらラジオの天気予報を聞くと、私達がいる東大雪周辺が一番天気が悪そうだった。 行動時間の長いニペソツ山は潔く諦め、藁にもすがる思いで車を走らせる。 大雪国道をどんどん北上し層雲峡のトンネルを抜けると、そこには青空が広がっていた。 今はまさに“時は金なり”とばかり、黒岳のロープウェイに飛び乗った。 13年前に新婚旅行で初めて北海道を訪れた時に、このロープウェイに観光客として乗ったことが思い出されたが、 当時はロープウェイの終点からただ漫然と名前も知らない周囲の山々を眺めていた。 その眼前の山はニセイカウシュッペ山。 あの頂に行ける日もそう遠くはなさそうだ。

   ロープウェイの終点から僅かに歩き、リフトを乗り継いで黒岳の七合目へ。 天気は不安定ながらも、何とか太陽は出ていた。 七合目から黒岳への道は所々に腐った雪が残る大きな石の階段が続く急坂だったが、山頂での景色を想像してか(本当はロープウェイとリフトを使ったため)足取りは軽かった。 七合目から1時間ほどで黒岳(1984m)の山頂に着くと、そこには期待以上の景色が私達を待っていた。 大雪山の火口の『お鉢平』の向こうには残雪が豊富な旭岳、そして左右には2000mを超える大雪の山々が“ようこそ”と言わんばかりに顔を揃えていた。

   山頂でゆっくり寛ぎたかったが、霧が湧き始めてしまったので、時計と反対回りにお鉢平の周遊を始めた。 山頂から10分ほど下った分岐に建つ黒岳石室の前を通り、『雲ノ平』と呼ばれるお花畑の脇の起伏の少ない道を北鎮岳に向かって歩いて行ったが、時期がまだ早いためか高山植物が少なくて期待外れだった。 道はやがて雪渓の急登となり、キックステップで登った。 予想どおり旭岳はだんだんと霧に飲み込まれてしまい、北鎮岳への分岐に着いた時には完全に姿を消してしまった。 この辺りはお鉢平の核心部が近いため硫黄臭い。 分岐から北鎮岳の山頂まではひと登りで北鎮岳(2244m)の山頂に着いた。 

   山頂から黒岳方面は見えているが、それ以外の山々は全て霧に覆われてしまった。 しばらく霧が晴れるのを待ったが、西側の比布岳が時々顔を出すものの、旭岳方面はとうとう見ることが出来なかった。 天気の回復が見込まれないためお鉢回りは諦め、来た道を引き返すことにしたが、不思議と無念さは感じなかった。

   ロープウェイの駅から近い『ホテル大雪』の大理石の豪華なお風呂に入り、ホテルに泊まっていきたいと思っている妻を車に押し込んで、明日登る予定の芦別岳の登山口へと車を走らせた。 旭川で夕食を食べている頃から降り始めた雨は、富良野へ向かう途中から激しさを増してきたが、意外にもラジオの天気予報は明日は好天になると告げていた。 今宵は一昨日も泊まった上富良野の千望峠のパーキングに泊まることにした。


北 海 道    ・    山 行 記    ・    T O P