《 9日 〜 10日 》 エサオマントッタベツ岳
びれい橋 〜 林道分岐 〜 入渓点 〜 997m地点 〜 北東カール(泊) 〜 札内J.P 〜 エサオマントッタベツ岳 (往復)
北海道帯広市・新冠町のエサオマントッタベツ岳(1902m*日本の山1000)を1泊2日で登った。 昨年の残雪期に札内岳を登った時、その山頂から稜線の先に見えたエサオマントッタベツ岳にいつか登ってみたいと思い、今年の残雪期に北側の神威岳方面からの尾根ルートで登る計画をしたが諸条件が整わず、無雪期にエサオマントッタベツ川を遡行する沢ルートでの登頂となった。
《 9日 》
びれい橋 〜 林道分岐 〜 入渓点 〜 997m地点 〜 北東カール(泊)
遡行するエサオマントッタベツ川の水量を札内川ダムの流入量を参考に数日前から国土交通省のHPでチェックしていると、当日の朝4時で遡行が容易と思われる毎秒3立方m台まで減水していた。 登山口への戸蔦別林道は砂防ダムの建設工事の恩恵で、以前よりも路面の状態が良くなり、トッタベツヒュッテの先のびれい橋までスムースに走行出来た。 橋の周辺の駐車スペースには車がなかったので、幸か不幸か入山者がいないことが分かった。
6時過ぎにびれい橋を出発。 荒廃した戸蔦別林道を30分ほど歩き、古い標識のある分岐からゲートの閉まったエサオマントッタベツ林道に入る。 林道は荒廃して草に覆われていたが、意外にも刈り払いされていたので歩き易かった。 林道終点のエサオマントッタベツ川の入渓点には新しいピンクリボンがあり、エサオマントッタベツ岳の山頂が見えた。
入渓点の水量は膝下程度で、短距離の渡渉には支障がなかった。 水温も陽射しがあればむしろ心地良いほどで、長い遡行には理想的だった。 最初のうちは左岸を基本に歩いていたが、大岩や流木で歩きにくい所が多く、その都度左右への渡渉を繰り返したので予想以上に時間が掛かった。 試行錯誤しながらしばらく進むと、歩きにくい所には獣道のような藪の巻道があること分かったので、渡渉と天秤にかけながら進んだが、予想に反してピンクリボンの類いは一切なかった。 山スキー沢と呼ばれる広い沢が左に分岐する997m地点には入渓点以来のピンクリボンが見られ、入渓点からここまで3時間ほどを要した。
997m地点からは沢が細くなり勾配も増したが、水量が少なくなったことで沢芯の岩の上を歩ける所もあり、遡行スピードは明らかに上がった。 岩の上を歩く方が多くなってくると滝が連続し、その左岸にはネットの情報どおりロープが付けられた巻き道があった。 二段の滝を巻いてやり過ごすと、その先には核心と言われる長い滑滝があらわれたが、ここにも左岸にピンクリボンや巻き道があったので助かった。 沢の源頭部は三方向に分岐し、その一番右の急で水量の少ない沢を詰める。 詰め上がった所が北東カールで、頭上にはエサオマントッタベツ岳から札内J.Pを経て札内岳に続く屏風のような稜線が覆い被さるように屹立していた。 ほぼ予定どおり、びれい橋から北東カールまでは8時間弱の道程だった。
カールには浄水せずに飲めそうな甘露が湧き、日高の山とは思えないほど綺麗に整地された上下二段の幕場があり、それぞれソロテント2張り分ほどの広さががあった。 3時過ぎには太陽が山の向こう側にいってしまったが、カールには不思議とヒグマの気配はなく、ナキウサギの鳴き声だけが終始響き渡る別天地だった。 その後も入山者はなく、図らずも幕場は貸し切りとなった。 予報どおりの快晴無風の天気は続き、夜中にテントを叩く風は全くなかった。
《 10日 》
北東カール 〜 札内J.P 〜 エサオマントッタベツ岳 〜 びれい橋
有り難いことに翌朝も未明から快晴無風の天気となり、周囲が明るくなりかけた5時前に幕場を出発。 カールからは幾筋かの急な涸れ沢が稜線に向かって伸びていたが、GPSを頼りに最も登られている一番左の沢を詰める。 朝陽に照らされたエサオマントッタベツ岳が神々しい。 中間部の水流がある区間が核心で、そこを過ぎて灌木帯に入ると傾斜は急だが安心して登れるようになり、幕場から1時間半ほどで札内J.P直下の稜線に躍り出た。 視界が一気に広がり、カムエクや1839m峰などが目に飛び込んできた。
指呼の間の札内J.P(1869m)までは最初に背丈ほどのハイマツの藪があったが、エサオマントッタベツ岳の山頂までの区間でここが一番藪が濃かった。 幕場として整地されていた札内J.Pは予想以上に素晴らしいエサオマントッタベツ岳の展望台だった。 意外にも札内J.Pからエサオマントッタベツ岳の間には明瞭な踏跡が見られ、ハイマツの部分もスムースに歩けたばかりか、実線の登山道並の区間もあり、札内J.Pから1時間足らずで憧れのエサオマントッタベツ岳の山頂に着いた。
孤高のエサオマントッタベツ岳の山頂は、今まで登った日高の山の中でも一二を争うほどの快晴の天気に恵まれ、これ以上望めない大展望に感動や興奮が冷めやらない。 一番近い札内岳を筆頭に、最高峰の幌尻岳・戸蔦別岳・カムエク・1967峰・1839峰などの日高の名峰が全てクリアーに望まれ、おびただしい雲海の向こうには十勝や大雪の山々、そしてニペソツ山・石狩岳なども遠望された。 登頂が困難な日高の山を敬遠していた妻も、眼前の素晴らしい山々の景観に歓喜していた。
絶景の山頂に1時間近く滞在し、後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にする。 機会があれば次回は是非、当初計画した残雪期の尾根ルートから登ってみたいと願った。 札内J.P付近ではヒグマではなく、愛らしいナキウサギの姿が見られた。 核心と思われた稜線から幕場への下りは、登りよりもさらに正しいルートを辿れたので予想よりも楽だった。
幕場では単独の方がテントを設営していたので雑談を交すと、意外にも道内ではなく千葉の方だった。 間もなくカールに到着した男女のペアも神奈川から来られたということで笑えた。 下山用に汲んだ甘露は、たった一日で明らかに水量が減っていた。
登頂の余韻に浸りながらテントを撤収し、10時半に雲が湧き始めた幕場を発つ。 ルートの記憶は新しく、沢の水量はカールの甘露と同じように明らかに減水していた。 好天の週末ということで、途中で道内の男女4人パーティーとすれ違った。
997m地点からは沢がさらに減水していたので、下りということも手伝って入渓点までの遡行は往路よりも格段に楽だった。 途中に何か所かある澄んだ瀞には沢山のオショロコマの魚影が見られた。