《 4日 〜 6日 》 ペテガリ岳
北海道百名山の未踏の山(5座)のうち、日高・十勝(新ひだか町・大樹町)のペテガリ岳(1736m)をペテガリ山荘をベースに2泊3日で登った。 ペテガリ岳は日本二百名山の一峰でもある。
“遙かなる山”と称されるペテガリ岳の登山口にはペテガリ山荘という立派な無人小屋があるが、静内方面から山荘に通じる道道111号線の一般車両の通行止めが長く続いているため、神威岳の登山口にある神威山荘に通じる未舗装の元浦川林道(21キロ)の終点付近がペテガリ山荘へのアプローチ起点(登山口)として定着している。 脆弱な元浦川林道は大雨の後に通行止めになることが度々あり、昨年は緊急事態宣言でも通行止めになったりしたため、ペテガリ岳は何度も計画倒れになっていた。 盛夏の日高の山は雲が湧き易いので、初夏か初秋に登るのがベストだが、寒気を伴った高気圧で平年より気温が低いという予報だったので、林道が何ら制約なく通行出来るこのタイミングで登ることにした。 現役時代ならペテガリ山荘に1泊2日で登るのがスマートだが、今は時間に余裕があるので、迷わず2泊3日の余裕ある行程とした。
《 4日 》
アプローチ起点 〜 尾根乗越 〜 林道出合 〜 ペテガリ山荘(泊)
初日は元浦川林道の終点の手前から左に分岐する作業道を100mほど入った駐車地(アプローチ起点)を昼前に出発する。 駐車地には5台ほどの車が停まっていたので、今日か明日にペテガリ岳を登る登山者がいることが分かった。 駐車地からすぐにニシュオマナイ川の渡渉があり、その後は林道出合まで沢沿いのルートとなるので、渡渉のみ長靴を使い、沢歩きは登山靴で行く予定だったが、川の渡渉点の水量が予想以上に多く、その後も沢の中を歩く方が効率的だったので、林道出合まで沢靴で行き、林道出合で登山靴に履き替えることにした。
所々に踏跡がある勾配の緩い小沢を源頭まで詰め、最後はロープが設置された泥の急斜面を登ると、笹が刈り払われた尾根乗越に着く。 乗越からは踏跡を辿って反対側の沢の源頭をロープに助けられて下る。 乗越から沢を下る距離は短く、降り立った平らな草原をしばらく歩くと、ペッピリガイ沢の渡渉点の先でペテガリ山荘に通じる未舗装の林道と出合う。 アプローチ起点から林道出合までは2時間半ほどだった。
林道出合に沢靴をデポし、登山靴に履き替える。 林道出合からは緩やかな下り基調の林道を5キロほど歩いてペテガリ山荘へ。 林道の状態は予想以上に良く、森林組合のパトロール車や環境省の車が通行していた。 山荘手前の橋にはヒグマの糞が見られ、過去の目撃情報どおりこの辺りを住処にしているヒグマの存在をあらためて感じた。 山深い場所とは思えないほど大きく立派な山荘は、一階には10人ほど、二階には20人ほど泊まれる広さがあり、宿泊者は今日登った人と明日登る人を合わせて7人になった。
《 5日 》
ペテガリ山荘 〜 1050m地点 〜 1293m地点 〜 1301m地点 〜 ペテガリ岳 (往復)
今シーズンの北海道の山の気象の傾向と最新の天気予報から、稜線が晴れる時間帯が朝ではなく昼前になると予測し、10時に山頂に着くように3時半に山荘を発つ。 あいにくの曇り空で放射冷却がなかったため生暖かい。 同宿した単独のお二人はそれぞれ既に出発し、私達が最後尾での出発となった。 中間点となる1293m地点から先は登山道の刈り払いがされていないようなので、朝露に備えて雨具のズボンを履いていく。 最初の通過ポイントとなる1050m地点までは登り一辺倒で、踏跡は日高の山とは思えないほど明瞭で快適だった。 1050m地点の手前で先行者(Kさん)に追いつき、その後1301m地点まで相前後しながら登ることになった。 1050m地点からは1839峰や中ノ岳が見えて胸が躍った。
1050m地点からは幅の広い尾根の緩やかな登り下りとなる。 空に雲はあるが、天気は予報どおりこれから尻上がりに良くなりそうで安堵した。 笹に覆われた尾根には季節の花々が全くないのが玉にキズだが、反面ヒグマの気配は全く感じなかった。
中間点の1293m地点からしばらく下ると、昨夏実施されたという刈り払いの終了点があり、そこから先は笹藪の区間と僅かだが刈り払いされた区間がランダムに現れるようになったが、不思議と朝露は全くなく、笹藪の背が低かったので支障なく歩けた。 ペテガリ岳が見えるようになると足取りが軽くなり、1301m地点への登り下りの連続も苦にならなかった。 予定よりも少し早く山荘から4時間15分で1301m地点に着き、全く濡れなかった雨具のズボンを履き替える。 1301m地点からは青空を背景にしたペテガリ岳が眼前に大きく望まれた。
1301m地点からペテガリ岳へは西尾根ルートの核心で、鞍部まで標高差で100m近く下ってから500m以上を登り返す。 鞍部からの登りは最初は藪がなかったが、次第に背丈を超える笹藪となり、最後はお決まりのハイマツの藪となったが、日高の山の中では易しい部類で、煩わしさはあるものの困難な藪ではなかった。 間もなく2時半に出発したという方とすれ違い雑談を交す。 山頂直下からはハイマツの背も低くなり、9時半過ぎに待望のペテガリ岳の山頂に着いた。 新しく大きな山名板には山荘の看板と同じように『ペテカリ』と記されていた。
“遙かなる山”の頂は盛夏の日高の山とは思えないほど爽やかで、360度の大展望に山荘からの長い道程の疲れも一瞬にして吹っ飛んだ。 隣のルベツネ山から北に続く稜線の先には端正なカムイエクウチカウシ山が望まれ、1839峰・札内岳・十勝幌尻岳・イドンナップ岳などの主脈から外れた山々、そして中ノ岳から南に続く稜線の先には神威岳・ソエマツ岳・ピリカヌプリ・楽古岳まで遠望出来た。
間もなく到着したKさんと感動を分かち合いながら快晴無風の山頂に1時間近く滞在し、後ろ髪を引かれる思いで夏の雲が湧き始めた山頂を後にした。 1301m峰までは藪にも慣れスムースに進んだが、1293m地点への断続する登り下りは目標を失った身には堪えた。 3時に山荘に戻ると、新たに登山者が7人ほど見られた。 皆からアドバイスを求められたので、所要時間や藪の状況などを伝え、何よりも早立ちすることをお勧めした。
《 6日 》
ペテガリ山荘 〜 林道出合 〜 尾根乗越 〜 アプローチ起点
下山日は同宿したKさんに同行のお声掛けをし、既に誰もいなくなった山荘を4時半に発つ。 ペッピリガイ沢の徒渉点までの林道は緩やかな登り基調だが、Kさんと雑談をしながら歩いていると、往路よりも早い時間で徒渉点に着いてしまった。 デポした沢靴に履き替え、易しいが印象深い沢の登下降をして8時にアプローチ起点の駐車地に着いた。
日高山脈が国定公園から国立公園に格上げされることで林道や登山道の整備が進み、今後は“遙かなる山”の登山環境に変化が見られるかもしれない。