《 19日 〜 20日 》 トヨニ岳 ・ ピリカヌプリ
野塚トンネル 〜 稜線出合 〜 トヨニ岳 〜 幕場(泊) 〜 トヨニ岳北峰(1529m地点) 〜 幌別岳(1512m地点) 〜 ピリカヌプリ (往復)
北海道百名山の未踏の山(11座)のうち日高(浦河町)・十勝(大樹町)のピリカヌプリ(1631m)をトヨニ岳(1493m*日本の山1000)を経て山中一泊で登った。 ピリカヌプリは登山道がないため専ら残雪期に登られているが、稜線に上がってからの行程が長いため、3年前に北海道百名山へのチャレンジを始めた時は、118座ある百名山の中で一番難しい山ではないかと思えた。 昨年の4月に下見を兼ねて近隣の野塚岳を登った時も、その思いは全く変わらなかった。 気象の変化が激しい日高の山ゆえか、昨今では日帰りで登る人が多いようで、私も日帰りか泊まりか直前まで悩んだが、好天が二日続く予報となったので、登頂の可能性がより高まる一泊二日の行程とした。
9時過ぎに登山口の野塚トンネルの十勝側駐車場に着くと、どこか見覚えのある帯広ナンバーの車が停まっていたので、ピリカヌプリへの日帰りの登山者がいることが分った。 昨年下見をした時は、稜線出合までは残雪の尾根を登ろうと決めていたが、予想に反して昨年よりも明らかに残雪が少なく、駐車場付近を流れる沢は完全に割れ、尾根の末端はすで笹藪が完全に露出していた。 この状況を見て尾根を登ることは諦め、昨年野塚岳の下山で辿った沢を長靴を履いて登る。 幸いにも沢はすぐに雪で覆われたので長靴をデポする。 先行者も沢をスノーシューで登っていた。 トレースは的確なルート取りで沢から尾根の上部に取付いたので、図らずも稜線出合までツボ足のまま明瞭なトレースを辿ることが出来た。 稜線出合からはこれから向かうトヨニ岳へ賞味期限ギリギリの雪堤が見えたので安堵したが、昨日の雨の影響か日高側から厚い雲が湧き始めていた。
稜線出合からも古いツボ足のトレースと新しいスノーシューのトレースが続いていたので楽に歩けた。 尾根が痩せている所では藪が出ていたが、意外にも獣道程度の踏み跡があり、藪漕ぎをすることは全くなかった。 予報どおり風は殆どなかったが、天気はますます悪くなり、次第にトヨニ岳も見えなくなってしまった。 勾配がやや急になり、先行者がスノーシューをデポした所でアイゼンを着ける。 トヨニ岳の核心部と言われるナイフリッジの稜線で小雪が舞い始め、今日・明日の好天予報に疑問が生じた。 トレースのお陰で予定よりも早く2時ちょうどにトヨニ岳の山頂に着いたが、周囲の景色が全く見えなかったので、GPSで確認しないと分らなかった。
トヨニ岳の山頂からは幕場を見つけながら歩く。 第一候補だったトヨニ岳直下の平坦地には風除けとなるハイマツがなかったので、第二候補としていた北峰の先に向けて歩き始めると、トレースの主と思われる単独氏とすれ違った。 単独氏にトレースの御礼をして、この先のルートの状況などを細かく尋ねると、北峰付近には幕場として相応しい場所はなく、すぐ先に良い場所があると教えてもらった。 単独氏はピリカヌプリに登ってからこの辺りで泊まる予定でいたが、途中の幌別岳の先でホワイトアウトのため引き返し、明日再度ピリカヌプリを目指されるとのことだった。
単独氏からの貴重な情報により、すぐ先のハイマツの陰を整地して単独氏共々幕を張る。 大柄な単独氏はどこかでお会いしたことがあるように思えたが、単独氏が先に2年前の幌尻岳で出会ったことを思い出してくれた。 単独氏は地元の山岳ガイドのMさんで、今回は遊びでピリカヌプリを登りにこられたとのことだった。 思いがけない場所でのMさんとの偶然の再会に胸が弾み、幕場での楽しい時間を過ごせたことは言うまでも無い。 夕方になると幕場からピリカヌプリの雄姿が初めて望まれ、明日の登頂に期待が持てた。
幸せな時間は長続きせず、予報よりも早く日付が変わる前から風が強く吹き始め、朝まで一睡もすることが出来なかった。 4時半に出発する予定だったが、風が昨日の予報よりも強くなる可能性があるため、しばらく様子をみることにした。 Mさんは写真を撮ることが一番の目的だったので、この状況をみて潔く下山することを決断されたが、私は1時間ほど悩んだ末に、途中で引き返すことも視野に入れながら、とりあえずトヨニ岳北峰までは行くことにした。
Mさんを見送ってから5時半過ぎにトヨニ岳北峰に向けて幕場を発つ。 稜線には雪煙が舞い、風は一向に衰える気配は感じられなかったが、陽射しが強くなってきたことが心強い。 トヨニ岳北峰(1529m地点)へは幕場から30分ほどで着いた。 猫の額ほどの狭い山頂は三角点が露出していた。 山頂からはピリカヌプリが神々しく望まれ、思わず息を飲む。 風は衰える気配は全くないが、Mさんのトレースのおかげで風さえなければ全く問題なく歩けたので、だましだましMさんのトレースが続く幌別岳(1512m地点)まで行ってみることにした。
ルーファンの必要は全くないが、常に風の強さや風向き、そして陽射しの状態をチェックしながら前進する。 風による体力の消耗はボディーブローのように効いてくるので、意識的にペースを落として歩く。 Mさんが教えてくれたようにルートの状態はベストで、藪の区間が殆どなかったことがこの状況では本当に有難い。 ルートや地形の関係で風が全く当たらない場所があったことも前進する勇気を与えてくれた。
進退について自問自答を繰り返しながら、幕場から1時間半ほどで幌別岳(1512m地点)に着いた。 山頂からはようやくピリカヌプリへの距離感が掴めるようにうなった。 風による体力の消耗は否めないが、ルートの状態は相変わらず良さそうで、まだ余力も充分残っているため、Mさんのトレースが終る地点まで前進することにした。
Mさんのトレースがなくなった地点からはピリカヌプリとのコルに向けてやや急な下りとなった。 風は相変わらず強く、引き返すならこの地点がベストだが、陽射しはさらに強くなり、天気が安定していることは間違いないので、優柔不断な気持ちを登頂に向けて切り替える。 1384m地点の手前から最低コルまでは地形図からは読めない細かなアップダウンがあり辟易したが、一番の核心と思われた最低コルから山頂への登りは所々で爆風に煽られたものの、藪は僅かで快適な雪稜歩きが続いた。
幕場から3時間半を要して待望のピリカヌプリの山頂に着いた。 予想どおり山頂は爆風が吹いていたため展望を堪能することは叶わず、カメラで記録するしか術がなかったが、登頂出来た喜びと安堵感はそれを凌駕していた。 山頂付近には風の当たらない場所があったが、午後は風が一段と強くなる予報だったので、休むことなくトンボ返りで山頂を辞した。
往路で意識的にペースを落としたことが功を奏し、登り返しが多い復路では余裕を持って歩くことが出来た。 風の強さが出発時点と全く変わらなかったことで雪の状態がベストなままだったこともラッキーだった。 トヨニ岳北峰まで戻るとようやく緊張感から解放され、風を切りながら意気揚々と幕場に戻った。
正午ちょうどに幕場に戻ると、テントは強風に耐えて無事だったが、ポールが一本大きく曲がっていた。 想い出の幕場に別れを告げて意気揚々とトヨニ岳に向かう。 昨日は全く展望がなかったトヨニ岳の山頂からはピリカヌプリや野塚岳方面の山々が良く見えた。 予報どおり午後に入ると風はさらに強まったが、気温もそれなりに上昇したので下山は全く苦にならなかった。 天気は良かったが平日だったこともあり、トヨニ岳やピリカヌプリへの登山者とは出会わなかった。