《 31日 〜 1日 》 カムイエクウチカウシ山
幌尻ゲート 〜 七ノ沢出合 〜 八ノ沢出合 〜 三股(999m地点) 〜 八ノ沢カール 〜 カムイエクウチカウシ山 (往復)
北海道百名山の未踏の山(17座)のうち、日高・十勝(新ひだか町・中札内村)のカムイエクウチカウシ山(1979m)を一泊二日で登った。 カムイエクウチカウシ山(通称カムエク)は日本二百名山の一峰でもあり、ピラミダルな山容で日高の山の中でも人気の高い山だ。
最近は七ノ沢出合まで車で入れた時代と同じように日帰りで登る登山者が増えているようだが、幕営地に水場があるので、体力に余裕はないが時間には余裕がある私には日帰りで登る理由は全く見当たらなかった。 幕営地は八ノ沢カールと八ノ沢出合の上下2カ所あるが、上の八ノ沢カールはヒグマの採食地になっているため、敗退した前回は下の八ノ沢出合を幕営地として計画した。 その後のネットの情報で八ノ沢の雪渓がなくなる盛夏以降であればその中間の三股(999m地点)の幕場が使えることが分かり、今回は理想的な立地と思える三股を幕場とすることに迷いはなかった。 前回は八ノ沢出合手前の札内川の渡渉が出来ずに敗退した苦い経験から、今回は数日前から国土交通省のHPで札内川ダムの流入量をチェックしていたが、当日の朝9時には渡渉が容易とされる毎秒4立方m台だった(昨年は渡渉が困難とされる13立方mを超えた14立方m台だった)。
平日だが札内川ヒュッテの先の幌尻ゲート前の駐車スペースには登山者や釣り人の車が5台停まっていた。 10時過ぎにゲートを出発し、七ノ沢出合まで6.5キロの車道を歩く。 先日の1839峰を沢靴で登った経験を活かし、今回も山頂まで沢靴だけで登ることにしたが、結果的に全く問題なく、むしろメリットの方が多かった。 予想どおり2016年夏台風による崩壊箇所の工事は完了し、ゲートから1時間半足らずで七ノ沢出合に着いた。 七ノ沢出合の駐車場には八ノ沢カールでのヒグマの被害で登山自粛規制されていた昨年には無かった登山口の案内板が置かれ、工事業者の車両と日帰りの登山者や釣り人が乗ってきたと思われる自転車が数台見られた。
七ノ沢出合の河原で札内川を渡渉すると、川幅は昨年の記憶とは全く違い川底もはっきり見えた。 昨年は水深が股まであったが今回は膝下だったので、あらためて札内川ダムの流入量の情報の有用性が分かった。 その後の札内川の遡行は全く容易で、新しいピンクテープは左岸の笹藪の中の巻き道を使わず、河原を渡渉しながら遡行することを推奨しているかのようにも思えた。 しばらくすると東京から来られたという単独者に追いついた。 今日は八ノ沢出合に泊るとのことで道を譲られる。 その後も沢岸を歩きながら脛程度の楽な渡渉を繰り返し、七ノ沢出合から1時間半足らずで昨年敗退した八ノ沢出合手前の徒渉点に着いた。 徒渉点は飛び石伝いに靴を濡らさずに渡れるほどで、深さのみならず流れの強さに身の危険を感じた昨年とのあまりの違いに驚いた。 八ノ沢出合からは札内川の本流を右に分けて緩い傾斜の八ノ沢の遡行となったが、水量が少ないのでルートをあまり気にせずに進めた。 八ノ沢出合の幕場にはテントが見られず、今日は日帰りの登山者以外は登っていないのではないかと思われた。
予報よりも天気が悪くなり、夕立がきそうな空模様となってきたので、休まずに黙々と単調な沢の遡行を続ける。 次第に傾斜が増して三股が近づいてくると、いくつかの小さなビバーク地が河原に見られるようになったが、まだ雨粒が落ちてきていないので三股を目指す。 途中で日帰りの単独者とすれ違ったが、今日すれ違ったのはこの方だけだった。 正面に滝が見えるようになり、3時ちょうどに999m地点の三股に着いた。 幕場には焚き火の跡があり、予想以上に広くて平らなスペースがあった。 すぐにテントを設営し、傍らを流れている沢の水を漉して一息つく。 沢の音が気になるかと思ったが、予想に反して全く煩わしく感じなかった。 その後は誰も登ってこなかったので、図らずも幕場は貸し切りとなった。
翌朝は周囲が明るくなった4時半に幕場を出発する。 ありがたいことに空には雲がなく、予報どおりの好天が期待できた。 急傾斜となった沢の左岸の踏跡をピンクテープに助けられながら登る。 幾つもの細く枯れた沢を横切ったり登ったりしながら進むが、要所要所にロープが設置されていて登り易い。 少し藪っぽい所もあったが、踏跡は予想よりも明瞭でビブラム底の沢靴が心地良い。 登り一本調子なので短時間で標高が稼げるのも嬉しかった。 八ノ沢カールに近づくと飛び石伝いに最後の渡渉があり、ようやくここで右岸に渡る。 傾斜が緩むと眼前に八ノ沢カールが見えてきた。 草原上のカールの底にはテントは見られず、ここから山頂まで私しかいないことが分かったので、笛を吹き鳴らして周囲を注意深く見渡しながら進む。 予定どおり三股から1時間半でカールの幕場に着いた。 幕場には昭和45年にヒグマの犠牲となった3人の福岡大生の慰霊碑があった。 カールは不気味なほど静かで、やはりここに一人で泊るのは怖いと思えた。
ステレオの音量をMAXにして、笛を吹き鳴らしながら稜線のコルを目指す。 引き続き踏跡が明瞭なのがありがたい。 通称ピラミッド峰と言われる1853m峰を仰ぎ見ながら稜線に近づくと、ようやくカムエクの山頂が望まれた。 ハイマツの茂る稜線のコルまで登ると一張り分の良い幕場があり、先日登った1839峰などの山々が見えた。 稜線上には所々に小さな岩場があったが、全て左から巻く踏跡を辿る。 ヒグマの心配もなくなり、展望の良い稜線を意気揚々と歩き、7時半に待望のカムエクの山頂に立つ。 一等三角点の山頂には愛好家が設置した山名板が幾つも見られ、この山の人気の高さを物語っていた。 あいにく幌尻岳方面にはすでに雲が湧いてしまったが、山座同定しながら周囲の山々を眺めていると、この山が長大な日高山脈のほぼ中心にあることをあらためて感じた。
幌尻岳方面の雲が取れるのを期待しながら1時間ほど山頂に滞在したが、雲がますます湧いてきてしまったので、後ろ髪を引かれる思いで下山する。 稜線を外れると間もなく日帰りの単独者とすれ違い、八ノ沢カールへの下りはようやく精神的に楽になった。 八ノ沢カールの幕場で二人目の日帰りの単独者とすれ違い、カールから三股へ下る途中で八ノ沢出合から登ってきた東京の男性と男女2名パーティーと相次いですれ違った。 カールから三股への下りはスピーディーで、10時半に三股の幕場に着いたが、当初の目論見どおり三股の幕場はアタックベースとして最適だったと思えた。
三股の幕場を発つとすぐに、三股に泊るという男性2名パーティーとすれ違った。 傾斜が緩く水量の少ない沢の下りは、ルート取りを気にせずに進めるので楽だ。 八ノ沢出合の幕場では神奈川と千葉から来たという男性2名パーティーと出会い、しばし雑談を交わす。
八ノ沢出合から七ノ沢出合へは往路とは逆に、積極的に笹原の中の巻き道を繋いで歩いてみると、川の水量が少なくても巻き道の方が時間的に早いことが分かった。 八ノ沢出合からは誰ともすれ違うことなく3時半に幌尻ゲートに着いた。