《 20日 〜 21日 》 コイカクシュサツナイ岳 ・ 1839峰
コイカクシュサツナイ岳登山口 〜 上二股 〜 1305m地点 〜 夏尾根の頭 〜 コイカクシュサツナイ岳(泊) 〜 ヤオロの窓 〜 ヤオロマップ岳 〜 1781m地点 〜 1839峰 (往復)
北海道百名山の未踏の山(21座)のうち、日高・十勝(新ひだか町・中札内村)のコイカクシュサツナイ岳(1721m)と日高(新ひだか町)の1839峰(1842m)の2座を縦走して登った。
コイカクシュサツナイ岳は前半部分に沢の遡行があるものの日帰りで登れるが、1839峰は一般的にコイカクシュサツナイ岳とその先のヤオロマップ岳を経て登らなければならず、個人的には北海道百名山の中では一番難しい山だと思われた。 これらの山々の存在は北海道百名山を目標とする以前は知らなかったが、中でも1839峰は通称“ザンク”と呼ばれ、北海道の岳人の間では知名度が高い憧れの山のようだ。 1839峰を登るには、日が長く稜線に残雪がある6月中旬か、清々しい気候の9月中旬頃がベストシーズンだと思われたが、デリケートな気象の日高の山で安定した好天が二日続く予報が出たので、急遽春日部を発って予定外の残暑のタイミングでチャレンジすることにした。
1839峰へ日帰りで登る猛者もいるが、この時期ならまだ可能な山中一泊で登る計画とした。 ガイドブックやネットの情報によると、稜線上の幕場のスペースは夏尾根の頭・コイカクシュサツナイ岳の山頂・ヤオロの窓・ヤオロマップ岳の山頂の4カ所にそれぞれ2張りほどあるが、日高の山らしく稜線の登山道の大部分がハイマツの藪なので、山頂までの距離は長いが重荷を背負わずに稜線を歩けるメリットがあるコイカクシュサツナイ岳の山頂を幕場とすることにした。
平日なので入山者はいないと予想していたが、登山口付近に建つ札内川ヒュッテの入山届には女性2名のパーティーの記載があったので心強かった。 同志の存在に喜んだのも束の間、登山靴を札幌のアパートに置き忘れてしまったことが判明した。 幸いにも古びた登山靴と沢靴があったので、本来とは逆に登山靴で前半の沢の遡行を行い、沢靴で山を登ることになってしまった。 幕場に早く着いても暑くてテントに入れないため7時過ぎにスタートしたが、登山口の気温は12度で、ようやく盛夏の暑さから解放された感じがした。 登山道の取付きとなる上二股までは4キロほどの沢の遡行だが、その大部分は河原歩きで、函となっている区間には明瞭な巻き道があった。 沢の流れも緩やかだったので、飛び石伝いに渡渉すれば脛くらいの水位だったので楽だった。 上二股には先行パーティーが履き替えた沢靴がデポされていた。 稜線上には水場がないので、浄水器で漉した沢の水を8リッター汲んでいく。 結果的にこの量でちょうど良かった。
上二股からは稜線との出合の夏尾根の頭(1719m)に向けて「夏尾根」と名付けられた明瞭な登山道を登る。 地形図には登山道は記されていない。 尾根の取付きの手前の笹は綺麗に刈り払われていた。 水のボッカでザックが一気に重くなったので休憩をこまめに取りながら登る。 登山道は単調で急登が続いたが、登り一本調子なのが有り難い。 途中の1305m地点にはテントが2張りほど張れる平らなスペースがあり、その直前で先行していた女性パーティーのうちの一人に追いついた。 居心地の良い1305m地点で休憩しながら雑談にお付き合いいただくと、意外にも同行者の女性共々数年前に1839峰を登ったことがあり、今回は二泊三日でゆっくり1839峰を楽しまれるとのことだった。
1305m地点を過ぎると間もなく尾根は痩せて顕著になり、展望が利く岩場が何カ所かあった。 午後に入ると気温が上がって暑さが堪えるようになったが、夏山らしい雲が強烈な日射しを和らげてくれた。 予定よりも少し早く1時半に夏尾根の頭に着くと、テントの設営を終えたもう一人の女性が出迎えてくれ、雲間から見え隠れする神々しい1839峰を眺めながらしばし雑談にお付き合いいただいた。 女性パーティーが夏尾根の頭を幕場にすることになったので、図らずも計画どおりコイカクシュサツナイ岳の山頂を幕場とすることになった。 夏尾根の頭から指呼の間のコイカクシュサツナイ岳の山頂までは僅か10分ほどで着いた。 山頂の幕場は2張り分のスペースには少し足りなかったが、その後は誰も登ってこなかったので快適に過ごせた。
予報どおり一晩中風は全く吹かず、翌朝は予定どおり3時にコイカクシュサツナイ岳の幕場を出発。 満天の星空で快晴の天気となりそうだが、帰路の暑さを考慮して水は4リッター担いだ。 ステレオの音楽を響かせながらヤオロマップ岳との鞍部の1560m地点に向けてハイマツの藪を漕いでいく。 朝露で濡れることを前提に雨具を着ていったが、意外にもハイマツは全く濡れていなかった。 下り基調のためヘッドランプの灯りでは役不足で何度か道を見失ったが、ルーファンに集中していたことでヒグマへの怖さは消えていた。 夜が白み始め、周囲の山々のシルエットが暗闇から浮かび上がってくる。 いつもなら足取りが軽くなるところだが、昨日の疲労が取れていないようで心拍数が異常に高い。 鞍部を過ぎるとようやく周囲が明るくなり、間もなく最初の通過ポイントとなるヤオロの窓の幕場に着いた。
ヤオロの窓から1752m地点までは急登が続いたが、ハイマツの藪が次第に薄くなってきたので歩き易かった。 1752m地点の手前でご来光となり、周囲の山々の展望が一段と良くなると、1839峰までの稜線の状況があらためて良く分かった。 5時半に中間点のヤオロマップ岳の山頂に着く。 幕場のコイカクシュサツナイ岳からヤオロマップ岳まではコースタイムどおり2時間30分を要した。 ヤオロマップ岳から見た1839峰は主脈上にないためか、独立峰のような風格で眼前に神々しく鎮座していた。
ヤオロマップ岳の山頂に1リッターの水と不要になった衣類をデポし、眼前の1781m地点との鞍部に向けて緩やかに下る。 意外にも藪の下の踏跡は主脈上よりも明瞭で小さなお花畑もあり、1781m地点までは予想よりも楽に歩くことが出来た。
1781m地点からは急坂を100mほど真っ直ぐに下ると、その後は小さな登り下りの連続となった。 藪はハイマツのみではなく、笹や色々な雑木が混じるようになり、抵抗感は全般的に弱くなった。 気温はまだ低いが陽射しがとても強くなり、所々にある背丈よりも高いハイマツの藪が有り難く感じる。 ますますストイックな面持ちとなる1839峰を正面に仰ぎ見ながら絶え間なく続く藪を漕ぎ続ける。 前衛峰から見た1839峰の頂稜部は一幅の絵のようで、この山の人気の高さがあらためて分かった。 前衛峰から1839峰へは僅かな距離だが意外と時間が掛かった。 山頂直下は見た目どおり急峻で、最後は木の根を掴んで岩場の際を登った。
予定よりも少し早く8時過ぎに垂涎の1839峰の山頂に立つ。 孤高の山頂には愛好家が設置した手書きの山名板と補修用の油性ペンが置かれていた。 ヤオロマップ岳から1839峰まではコースタイムよりも少し早く2時間30分を要した。 猫の額ほどの狭い山頂は主脈から離れていることも手伝って360度の素晴らしい展望で、ここまでの藪漕ぎの疲れも一気に吹き飛んだ。 幕場のコイカクシュサツナイ岳は遙かに遠く、これからあそこまで帰ることを考えると、ゆっくり寛げないのが玉にキズだ。 いつまでも去りがたい山頂だったが、気温が上昇する復路の方が往路よりも時間が掛かるので、僅か10分ほどで山頂を辞した。
予想どおり往路では日陰だった所も復路では日向となり、目標を失った身には暑さが堪える。 それでも先月末のような盛夏の蒸し暑さではなく、ペースを意識的に少し落とせばそこそこ快適に歩けた。 前衛峰を越えてから間もなく熊鈴の音が聞こえ、夏尾根の頭からの女性パーティーとすれ違った。 若いお二人は余裕の笑顔で羨ましかった。 ヤオロマップ岳直下の湧き水で貴重な水を確保されたとのこと。 暑さと藪に体が慣れてきたのか、往路と全く同じ時間で1839峰からヤオロマップ岳の山頂に戻れた。
山頂にデポした水と衣類をピックアップし、コイカクシュサツナイ岳の幕場に向かう。 水はまだ2リッター近く残っていたので心強い。 ヤオロの窓を過ぎると間もなく男女二人のパーティーとすれ違った。 夏尾根の頭とコイカクシュサツナイ岳の幕場が空いていなかったのでヤオロマップ岳を幕場とするとのこと。 お二人も1839峰は2回目ということで、私にとっては一期一会のチャレンジングな山だが、北海道の岳人にとってはお気に入りの山ということかもしれない。
1560mの鞍部からコイカクシュサツナイ岳への長い登り返しはハイマツの藪が逆目となり、全行程を通じて一番藪漕ぎが大変だったが、ようやく夏の雲が陽射しを遮り始めたので助かった。 幕場への帰着予定は2時だったが、休憩時間が短かったので予定よりも早く1時半前に幕場に戻れた。
明るいうちに下山できる目処が立ったので、ゆっくり休憩しながらテントを撤収する。 午後に入ったことで雲の量が増してきたが、オーバーヒート気味の体をクールダウンするにはちょうど良かった。
予定よりも少し早く2時にコイカクシュサツナイ岳の山頂を発つ。 夏尾根の頭からの下りは急だが、登り返しが全くないのが有り難い。 上二股からの沢の遡行は藪漕ぎで腫れた脛を冷やすのにちょうど良かった。 長い一日を終え、まだ明るさの残る6時に登山口の駐車場に着いた。