2  0  2  1  年    7  月  

《 15日 》    イドンナップ岳

   登山道入口 〜 林道終点(旧登山口) 〜 尾根取付 〜 売山コル 〜 新冠富士 〜 イドンナップ岳  (往復)

   北海道百名山の未踏の山(24座)のうち日高(新冠町・新ひだか町)のイドンナップ岳(1752m)を隣接する新冠富士(1667m)を経て登った。 16時間以上を要したハードな日帰り登山だったが、情報収集など事前の準備に要した時間は遙かにそれを超えていた。

   イドンナップ岳はガイドブックに「日高最難最酷の夏道」・「最後に登る山」と評されている山で、北海道百名山の中でも一番困難な山とも言われている。 地元の新冠ポロシリ山岳会によって開削された登山道があるが、登山口に通じる新冠林道が水害の復旧工事で2年間通行止めになっていたことで、以前から藪の区間が長いとされている登山道がさらに荒廃していることが危惧された。 登山時期は新冠富士からの稜線に残雪がある5月中旬頃がベストだと思われたが、緊急事態宣言の影響などで林道の開通が6月下旬となり、さらに母の介護で山に登れない日々が続いたので、この盛夏のタイミングで登ることになった。 唯一の朗報は、一週間ほど前に売山コルまでの作業道の刈り払いが有志によって行われたというネットの情報だった。


国土地理院の地形図(2−1)


国土地理院の地形図(2−2)


   前日の朝に思わぬ発熱がありコロナも 疑われたが、この機会を逃すとまた延期になりそうなので予定どおり登山口に向かう。 5月に下見に来た時は閉まっていた新冠林道のゲートは何事もなかったように開いていた。 ゲートから登山道の入口までは29キロの未舗装路だが、予想よりも路面の状態が良く、ゲートから1時間半足らずでサツナイ沢林道が分岐する登山道の入口に着いた。 意外にも路肩の駐車スペースには札幌ナンバーの車が1台停まっていた。 ゲートが閉まっているサツナイ沢林道を10分ほど下見し、車内で夕食を食べながら車の主の下山を待つ。 日没寸前の7時半に単独氏が下山してきたので、ルートの状況を色々と教えてもらうことが出来た。 単独氏はイドンナップ岳まで8時間、このうち新冠富士からイドンナップ岳までは2時間を要したとのことだった。


新冠林道のゲート


登山道の入口


路肩の駐車スペース


サツナイ沢林道


   就寝時には熱が38度まで上がり殆ど眠れなかったが、起床時には37度まで下がったので、予定よりも少し遅い3時過ぎに出発した。 登山道入口からサツナイ沢林道の終点までは渡渉が3回あったが、単独氏の情報どおり沢の水量は少なく、靴を濡らすことなく通過出来た。 林道終点から尾根取付までは沢沿いを遡行するが、沢は傾斜が緩く水量も少なかったので靴を濡らすことなく歩けた。 尾根の取付は沢が土石流による流木で塞がれた所の右横で、目印としては分かり易かった。 取付きからはネットの情報どおり刈り払いされたばかりの明瞭な作業道があり、労せずしてその終点の売山コル(標高780m)に着いた。


登山道の入口(3:10)


最初の渡渉点


登山道の入口から林道終点(旧登山口)へ


登山道の入口から林道終点(旧登山口)へ


林道終点(旧登山口)(3:40)


林道終点から尾根取付へ


林道終点から尾根取付へ


尾根取付(4:00)


尾根取付から売山コルへ


尾根取付から売山コルへ


売山コル(4:30)


   売山コルの先の刈り払い終了点からは顕著な尾根の登山道となり、同時に笹の藪漕ぎが始まった。 笹藪は背丈が目線よりも低く、足元には踏跡も見えていたので予想よりも楽だったが、小さなアップダウンが多くて標高が稼げない方が辛かった。 予想どおり朝露で雨具のズボンがびっしょり濡れたが、気温が高いのでむしろ有り難かった。 太くて長いロープがある幾つかの岩場の急斜面が唯一標高を稼げる区間だった。 シラカバの樹間から上空には青空が、麓には雲海が見られるようになり、体調は万全ではないものの天気は予報どおり安定しているように思えた。


売山コルの先の刈り払い終了点


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


   樹間から新冠富士の山頂が僅かに見えるようになると悪名高い“笹のトラバース区間”に入った。 1404m地点を右から巻くルートの核心部だが、それまで所々にあったピンクテープが殆どなく、注意深く歩いたつもりでもルートを外してしまい、GPSを頼りに正しいルートに復帰したが、滑りやすい猛烈な藪を漕いだことで足に予想外の負荷が掛かり、大昔に痛めた右膝の靱帯の古傷が再発してしまった。 体調が万全ではなく、ルートの状態が悪い山なので本当に間が悪かったが、ここまでに至る道程を思うと登り続けることに迷いはなかった。

   笹のトラバース区間は予想よりも長く、藪漕ぎはさほど困難ではないが、ルートミスをしないように進まなければならず精神的に疲れた。 笹のトラバース区間を終えると平坦地や登山道に藪が全くない所もあったが、明瞭な獣道が沢山あったので常に気が抜けなかった。 樹間から新冠富士の山頂が大きく望まれるようになるとようやく笹藪から解放され、背の高いダケカンバの木々の間を縫うようにして登る。 満開のコバイケイソウの群落のある草付きの急斜面を登ると尾根は顕著になり、最後はハイマツの藪を漕いでようやく人待ち顔の新冠富士の山頂に着いた。 快晴無風の山頂からは憧れのイドンナップ岳(三角点峰)が指呼の間に望まれ、藪がなければすぐにでも届きそうだった。 盛夏の山頂はすでに蒸し暑く、体もすでにオーバーヒートしていたが、大量にかいた汗で長袖のシャツがびっしょり濡れていたので助かった。


笹のトラバース区間の始まり


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルと新冠富士の間から見た新冠富士


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


売山コルと新冠富士の間から見た新冠湖


売山コルから新冠富士へ


売山コルから新冠富士へ


新冠富士の山頂(9:25〜9:35)


山頂から見た幌尻岳


山頂から見たカムイエクウチカウシ山(中央)


山頂から見た1839峰(遠景中央)


山頂から見たイドンナップ岳(三角点峰)


   右膝の痛みは相変わらず続いていたが、予定していた10時までに新冠富士の山頂に着いたので、正午までの到着を目標にしてイドンナップ岳に向かう。 稜線はハイマツや笹だけでなく色々な雑木も混じる藪漕ぎとなったが、予想以上に足元の踏跡があったので、ルートを外さなければ前進を阻まれることはなかったが、藪の抵抗感は明らかにそれまでとは違って強かった。 三角点のある1747m峰への登りに入ると尾根は痩せて藪の密集度が高くなり、僅かな区間だが踏跡が不明瞭な所があって難儀したが、オアシスのようなお花畑もあって変化に富んでいた。 お花畑は熊の糞の臭いが強く、笛を吹き鳴らしながら足早に通過した。 1747m峰の三角点は気が付かなかったが、ようやくイドンナップ岳の岩峰が眼前に凜々しく望まれるようになった。 再び踏跡が不明瞭な所があり、最後の最後までルーファンに悩まされたが、新冠富士から2時間で待望のイドンナップ岳の山頂に着いた。 猫の額ほどの狭い山頂には新冠富士と同じ規格の立派な山名板が設置されていた。 ようやく辿り着いた憧れの頂だったが、右膝の故障の不安を抱えていたので、感激に浸る間もなく早々に山頂を後にした。


新冠富士からイドンナップ岳へ


新冠富士からイドンナップ岳へ


新冠富士からイドンナップ岳へ


新冠富士とイドンナップ岳の間から見た新冠富士


新冠富士からイドンナップ岳へ


新冠富士とイドンナップ岳の間から見た新冠富士と新冠湖(右)


稜線のお花畑のチングルマ


新冠富士とイドンナップ岳の間から見たイドンナップ岳


新冠富士からイドンナップ岳へ


イドンナップ岳(三角点峰)から見たイドンナップ岳


新冠富士からイドンナップ岳へ


新冠富士とイドンナップ岳の間から見たイドンナップ岳


イドンナップ岳の山頂(11:35〜11:45)


山頂の山名板


山頂から見た幌尻岳


山頂から見たイドンナップ岳(三角点峰)


山頂から見た日高山脈の主脈の山々


   予定よりも少し早く正午前にイドンナップ岳を発ち、右膝を労りながらペースを落として新冠富士に向かう。 午後に入ると雲で日射しが時々遮られるようになり、オーバーヒートしている体には有り難かった。 ルートの記憶は新しかったが、それでも2回ほどルートを見失い、登りと同じ時間を要して新冠富士の山頂に戻った。 明るいうちに下山できる目処が立ったので、ようやく腰を下ろして休憩することができた。

   新冠富士からの下りは踏跡よりも明瞭な獣道に2回ほど引き込まれてしまったが、核心部の笹のトラバース区間では幾つか目印を付けておいたのでルートミスはなかった。 右膝をかばいながら下ったこともあるが、記憶以上に登り返しが多く標高が全く下がらないので嫌になる。 下りでもオーバーヒート気味だったが、水を5リッター近く担いできたことが功を奏した。 新冠富士から売山コルまでの下りは4時間ほどを要した。

   藪のない売山コルからは右膝の痛みも和らいで気持ちが緩んだのか、林道終点の旧登山口を過ぎてから間もなくルートを外れてしまい、林道に戻るため僅かな距離の藪を漕いだ時に左目に笹の葉が入ってしまった。 目に痛みが残り視力も霞んでしまったので、日付を越えて帰宅した札幌のアパートまでの車の運転も大変だった。


イドンナップ岳から新冠富士へ


イドンナップ岳から新冠富士へ


イドンナップ岳から新冠富士へ


新冠富士の山頂(13:45〜14:10)


新冠富士から売山コルへ


新冠富士から売山コルへ


新冠富士から売山コルへ


新冠富士から売山コルへ


売山コル手前の刈り払い終了点(18:10)


売山コルから尾根取付へ


尾根取付(18:35)


尾根取付から林道終点(旧登山口)へ


林道終点(旧登山口)(18:50)


林道終点から登山道の入口へ


登山道の入口(19:30)


                                            【前泊地】 イドンナップ岳登山道入口

                                            【宿泊地】 札幌のアパート


2 0 2 1 年    ・    山 行 記    ・    T O P