《 17日 〜 18日 》 北戸蔦別岳 ・ 戸蔦別岳 ・ 幌尻岳
二岐沢出合 〜 登山口(取水ダム) 〜 トッタの泉 〜 ヌカビラ岳 〜 北戸蔦別岳直下(テント泊)
北海道百名山の未踏の山(60座)のうち十勝・日高(帯広市・日高町・平取町・新冠町)の北戸蔦別岳(1912m) ・ 戸蔦別岳(1959m) ・ 幌尻岳(2052m)の3座を二岐沢出合から1泊2日で往復して登った。 当初、日高山脈の盟主で最高峰の幌尻岳へは、新冠コースでイドンナップ山荘から19キロの長い林道を歩き、新冠ポロシリ山荘に泊まって登る計画だったが、2018年8月の大雨で林道が崩れ、復旧工事が終わらず現在も通行止めが続いている。 一方、北戸蔦別岳への登山口となる二岐沢出合に通じるチロロ林道は2016年夏台風の被害を免れ、今シーズンも全く問題なく通行出来たので、昨今人気が出てきた二岐沢コースで北戸蔦別岳と戸蔦別岳を経て幌尻岳に登ることにした。 北戸蔦別岳からは幌尻岳方面と反対方向の1967峰にも行けるため、計画の段階では初日に北戸蔦別岳から1967峰を往復し、翌日に戸蔦別岳を経て幌尻岳を往復することにしたが、入山前日から体調不良による熱が下がらず、今回は1967峰を諦めることにした。
6時に二岐沢出合の駐車場に着くと、お盆明けの平日にもかかわらず、すでに10台ほどの車が停まっていた。 さすがに日本百名山の幌尻岳だ。 新冠コースのみならず、今年は新型コロナウイルスの影響で額平川コースのシャトルバスが運休しているため、事実上このルートからしか幌尻岳に登れないためだろう。 出発前に体温を測るとまだ平熱よりもだいぶ高かったので、入山すべきか否か車内で逡巡していると、天気予報にはなかった雨が降ってきた。 体調不良と雨で気持ちが萎えかかっていると、その後に2台の車が相次いで到着した。 体温は下がらなかったが8時過ぎに雨がやんだので、隣の車の札幌のペアと一緒に出発し、登山口(取水ダム)までの3キロの林道を雑談を交しながら歩く。 熱はあるがとりあえずいつもと同じペースで歩けたので安堵する。 途中で追いついたパーティーは地元のガイドさんとそのお客さんの女性で、奇しくも私と共通の友人がいる方だった。
登山口からは各々のペースで水場のあるトッタの泉に向かう。 再び小雨がパラつき始めたのでヤキモキしたが、樹林帯だったので雨具を着るほどではなかった。 途中で何人かの日帰りの登山者とすれ違ったが、どうやら上の方は雨が激しく降っているようだった。 途中にある10回ほど連続する小沢の渡渉は、飛び石伝いにギリギリ靴を濡らさずに渡れた。 ルート上の唯一の水場となるトッタの泉は本当にありがたい存在だ。 皆ここで休憩しながら水を汲んでいくため、目標の山や幕場の場所についての情報交換の場にもなっていた。 明日1967峰に行かれるという札幌のソロもいた。 ここで6リッターの水を汲む。 ガイドのMさんによると、湧き水のため浄水せずに飲めるとのことだった。
トッタの泉からは再び各々のペースで最初のピークのヌカビラ岳(1807m)に向かう。 ザックの重さを感じるが、幕場まではあと2時間ほどの辛抱だ。 急坂がずっと続くが藪はなく、短時間で標高が稼げた。 天気はようやく回復し、時折青空が覗くようになった。 ヌカビラ岳は三角点だけがある地味なピークで、初めて雲の中に幌尻岳が見えた。
ヌカビラ岳と北戸蔦別岳の間の最初の鞍部にはテント3〜4張りの幕場があり、先行していたガイドのMさんたちが寛いでいたので、私もその輪に加わらせていただき、ヒグマからの身の護り方などの貴重な話を拝聴する。 北海道の山のガイドは誰に対しても親切丁寧に接するのが伝統ということだった。 明日は3時に幕場を出発されるとのことで、ご一緒させていただくことになった。 北戸蔦別岳の山頂まで幕場の偵察に行かれたというガイドのMさんの勧めで、10分ほど先にある山頂直下の幕場に向かう。 その途中の僅かなスペースに札幌のペアが幕を張るというので先に進む。 山頂直下の幕場には東京と長野のペアのテントがあり、東京のペアは1967峰に行かれるとのことだった。 幌尻岳はいつでも行けるが、1967峰は熊の心配があるので是非ご一緒させてもらいたかったが、今回は体調に不安があったので自重せざるを得なかった。 夕食後も熱は下がらず、動悸で日付が変わる頃まで眠れなかった。
北戸蔦別岳直下 〜 北戸蔦別岳 〜 戸蔦別岳 〜 幌尻岳 〜 戸蔦別岳 〜 北戸蔦別岳 〜 二岐沢出合
2時半に起床して体温を測ると、不思議と平熱近くまで下がっていたので出発の準備をする。 空には満天の星が、そして麓の町の夜景が綺麗だ。 予定どおり3時過ぎに下の幕場からガイドのMさんたちがやってきた。 私と長野のペアがこれに続き、指呼の間の北戸蔦別岳へ向かう。 北戸蔦別岳からは山頂に泊まっていたガイドのMさんの知人もこの輪に加わった。 皆で行けば熊も怖くない。 三日月を従えた朝焼けの空が神々しい。 意外にも稜線のハイマツの藪はそれほど気にならないレベルで、その区間も予想よりも遙かに短かった。 間もなく雲海上からの素晴らしいご来光となった。 ガイドのMさんも今朝は日高の山では滅多に見られない良い天気だという。 次のピークの戸蔦別岳では札幌のペアも追いつき、ガイドのMさんに周囲に見える日高の山のピークを一つ一つ丁寧に教えていただき、皆で嬉しい撮影大会となった。
戸蔦別岳からは各々のペースで幌尻岳に向かう。 前後を大勢で歩いているので、熊の心配が要らないのがありがたい。 眼下に望む七ツ沼カールはすでに残雪が消えていた。 天気の良さで気持ちが高揚しているのか、体調が良くなったのか、足取りがとても軽くなり、いつの間にかガイドのMさんたちよりも先行するようになっていた。 相変わらずハイマツの藪はそれほど気にならないレベルで、登山道の状態は北海道の山にしては良い方だと思えた。 幌尻岳の肩に上がってから最後のニセピークに着くと、眼前に幌尻岳の山頂が指呼の間に見えた。 足取りはますます軽くなり、気が付くといつの間にか先頭を歩いていた。
コースタイムを大幅にオーバーし、7時ちょうどに誰もいない幌尻岳の山頂に着いた。 日高山脈の最高峰だけあって展望は申し分ない。 大雪や十勝の山々はもちろん、羊蹄山もはっきり見えた。 帯広方面はぶ厚い雲海に埋め尽くされていた。 他のメンバーも三々五々山頂に着き、思い思いに素晴らしい大展望を楽しんでいた。
快晴無風の山頂に1時間ほどゆっくり滞在し、8時に重い腰を上げて往路を戻る。 今日は乾燥した晴天で初秋のような爽やかさだ。 戸蔦別岳への登り返しも全く苦にならない。 戸蔦別岳からは同行メンバーが往路で紛失したスマホを探しながら歩いたが、残念ながら見つけられなかった。
10時半過ぎに幕場に戻ると、1967峰に行かれた東京のペアのテントはなかったが、テントを撤収してガイドのMさんたちを待っていると、1967峰に行かれた札幌のソロが下ってきたので、貴重な情報をいただくことが出来た。 間もなく下ってきたガイドのMさんから名刺をいただき、林道の通行状況や除雪の終了点などは、気軽に問い合わせて下さいとのことだった。 今回はソロでの登山だったが、まるでグループで登ったかのような山行となり、サミットよりもむしろそちらの方が印象に残った。