《 24日 〜 25日 》 笊ケ岳
老平 〜 広河原 〜 桧横手山 〜 2380m地点(テント泊) 〜 布引山 〜 笊ケ岳 (往復)
3月下旬の全国的に好天の週末、今が旬の新潟の毛猛山に登りたかったが、日曜日の新潟は風が強いという予報だったので、風の一番い予報の南アルプスの笊ケ岳を泊まりで登ることにした。 相棒の妻に用事があったため、2年ぶりの単独行となった。
登山口の老平に着くと民家の屋根には雪が少し見られ、周囲の山々は予想以上に白かった。 駐車場付近を散歩していた地元の方に伺うと、首都圏で降雪があった3日前の春分の日に、この辺りでは10センチほどの雪が積もったが、昨日一昨日と2日連続でかなりの量の雨が降ったため、道路の雪は溶けてしまったとのことだった。
6時半前に駐車場を出発。 広河原までの山道はシーズン前なので少し荒れ気味で、後半は雪も出てきたので、のっけからコースタイムどおりに歩けなかった。 広河原の渡渉は岩が乾いていたので、大きな岩の間をジャンプして渡ることが出来たが、その先の山ノ神へのジグザグの登りでは、あと数日で溶けるだろう湿った雪が登山道を覆い、何度も獣道に引き込まれて難儀した。 3日前までは雪が全く無かったと思われる登山道には予想どおりトレースは無かった。
山ノ神での積雪は20センチほどとなり、そこから先は標高に比例して積雪が多くなったが、雪が全く締まっていないので歩くのに骨が折れる。 標高1300m付近で早くもワカンを履いたが、ワカンを履いても歩行が安定するだけで登高スピードは全く上がらず、まるで冬の会津の山を登っているような感覚だ。 朝方は快晴だった天気は予報よりも悪くなり、終始曇りがちになってしまったことがむしろありがたかった。 傾斜の緩む桧横手山の手前からは、残雪の上に新雪が積もったという感じになり、ようやく少し登り易くなった。 予定より1時間以上も遅い1時半に、どこが山頂だか分からないような平らな桧横手山(2021m)の山頂に着いた。 降雪直後にこの山を選ぶ人はいなかったようで、後続者の気配は全く感じられなかった。
休むことなく桧横手山から僅かに下った鞍部から布引山への急斜面の登りに入る。 積雪は一段と増し、登山道の道型は全く無くなってしまったので、木々に付けられたピンクテープを繋ぎ合わせながら2時間ほどで尾根が合わさる2350m地点に着いた。 ここまで要した時間から推して、当初幕場として予定していた布引山(2583m)の山頂まであと最悪2時間ほど掛かると思われたので、ここに戻ってくることも視野に入れながら付近で幕場の適地を探す。 間もなく高度計の標高で2380m地点に平らな場所があったので、迷わずそこを幕場とした。 明日に向けての偵察と空身での登高スピードの確認を兼ね、少し先まで登ってトレースをつける。 当初は布引山の山頂で夕焼けショーと朝焼け、そしてご来光も楽しもうと目論んでいたが、予想以上の積雪だったので仕方がない。 反面、良くここまで登れたものだと我ながら感心した。
翌朝は夜が白み始めた5時過ぎに幕場を出発。 夜中は水筒の水が凍り、氷点下の冷え込みとなった。 雪は硬く締まっていたので、とりあえずツボ足で登り始める。 間もなく樹間からのご来光となり、淡い富士山がようやく見えた。 天気は予報どおりの快晴となり、絶好の登山日和となりそうだ。 昨日の雪の状態では布引山までしか登れないのではと思うこともあったが、時間を掛ければ何とか笊ケ岳の山頂に届きそうに思えてきた。 雪は相変わらず良く締まっていたので、予想よりも早く幕場から30分ほどで布引ガレの下に着いた。 眼前に聖岳や上河内岳が見え、足取りは一気に軽くなった。 ガレ場の縁は雪庇となっていたが、雪が良く締まっていたので見た目よりも登り易く、アイゼンを着けずにキックステップで快適に登れた。 予想よりも少し早く6時半に布引山(2583m)の山頂に着くと、4年前に登った時に見た新しい標柱は雪に埋もれていた。
布引山から笊ケ岳への稜線は積雪が1mほどあり、山頂直下の展望の良い露岩までの間は木々の枝が藪と化して歩きにくかった。 厚い雪に覆われた露岩からは、指呼の間に笊ケ岳と小笊が望まれ、北岳から光岳まで南アルプスの全ての山が一望され、思わず歓声を上げる。 露岩からは強烈な春の陽射しで雪が柔らかくなり始めたので、帰路の登り返しを楽にするためワカンを履いてトレースをつけることにした。 笊ケ岳との鞍部に向けてしばらく下っていくと、樹間が広がって登山道に沿って歩けるようになった。 2410mの標識がある布引山と笊ケ岳の鞍部からの最後の登りが今日の核心と思っていたが、意外にも雪の状態はここまでのどの区間よりも良く、拍子抜けするほどだった。 山頂直下の背丈の低い木々は綺麗に雪で埋まり、純白無垢の白いドームとなった笊ケ岳(2629m)の山頂に予想よりも早い9時に着いた。 布引山と同様に山頂の標柱は完全に雪で覆われ、残雪期というよりは冬山のような雰囲気だった。 快晴無風の山頂からの南アルプスの主脈の大展望は何度見ても壮観だが、今回を含めて4度目の登頂の中で、展望は間違いなく今回が一番素晴らしい。 相棒の妻が傍らにいないのが唯一玉にキズだ。 この山の頂と同じように、眼前の山々の頂に立っている人はいないか、いたとしてもごく僅かだろう。
興奮は冷めやらず、いつまでも絶景の山頂に居座っていたかったが、下山もかなりのアルバイトが想定されるため、30分ほどで山頂を後にする。 ワカンのトレースは大正解で、雪が柔らかくなり始めた布引山への登り返しは楽だった。 展望の良い露岩で最後の大展望を目に焼き付け、布引山の山頂でワカンを外して一気に幕場へと下る。 予想よりも早く正午前に幕場に戻り、テントを畳んで下山を続ける。 幕場のすぐ先の尾根の分岐から桧横手山との鞍部までの急斜面はアイゼンを着けずに、トレースに足を埋め込みながら慎重に下る。 桧横手山から先も延々と続く自分のトレースを見ていると、あらためて昨日は良く登ったものだと思った。 腐った雪に足を取られながらの下りは、目標を失った身には堪える。 予想どおり山ノ神から下の雪は半分以上が溶け、登山道が露出していた。 結局二日間誰とも出会うことなく、5時半過ぎに老平の駐車場に着いた。