2  0  1  7  年    4  月  

《 22日 〜 23日 》    大喰岳

新穂高温泉 〜 槍平冬期小屋(泊) 〜 大喰岳  (往復)

   8年前の4月に新穂高温泉からスキーで槍ケ岳に登った時に、山頂直下の飛騨乗越から見た大喰岳の姿がとても印象的だったので、いつか再訪の機会を窺っていた。 槍ケ岳の存在感があまりにも大きいため、大喰岳だけを目的に登る人はいないと思っていたが、今回は同好の士との思わぬ出会いがあり印象に残った。 

   8時半前に新穂高温泉を出発。 登山者用の駐車場には30台ほどの車が停まっていたが、その大半は西穂高岳に向かう人達で、ロープウェイ乗り場に吸い込まれていった。 除雪された右俣林道には人影が見られなかったが、しばらくすると後ろから6人の男女のパーティーが追いついてきた。 年配のリーダーの方と雑談を交すと、大阪の労山のパーティーで、明日は槍ケ岳ではなく大喰岳に登るとのことで、その偶然さに驚いた。 さらに話を伺うと、飛騨沢は雪崩の可能性があるので西尾根から大喰岳へ登るということだったので、私達も飛騨沢の状態によっては西尾根を登ることを伝えた。 

   右俣林道は穂高平小屋の500mほど手前で除雪が終了し、ここから残雪を踏んで歩く。 トレースは予想以上に多かったが、積雪が多く雪も柔らかかったので、穂高平小屋からスノーシューを履いて歩く。 前回は穂高平小屋の周辺には雪が無かったので、客観的にも今年は残雪が多いことが分かった。 スノーシューは林道歩きには快適で、先行したツボ足の労山のパーティーを今度は私達が追い越すことになった。 林道終点の白出沢出合に着くと、白出沢は雪で綺麗に埋まり、労せずして対岸の登山道に取り付くことが出来た。 登山道には明瞭なトレースとピンクリボンがあり、ラッセルやルーファンは全く不要だった。 滝谷出合までの間で通過する幾つかの沢に見られるデブリの光景は記憶に新しく、スノーシューで歩くのがベストだった。


除雪された右俣林道の入口


穂高平小屋の500mほど手前から残雪を踏んで歩く


穂高平小屋


大阪の労山パーティー


白出沢は雪で綺麗に埋まり、労せずして対岸の登山道に取り付くことが出来た


滝谷出合までの間の幾つかの沢に見られるデブリの光景は記憶に新しかった


滝谷出合で山スキーのガイドパーティーに追いつく


滝谷出合から槍平へ


   天気は予報よりも少し悪く、山々の展望は冴えないが、登るのにはちょうど良い。 滝谷出合で追いついた山スキーのガイドパーティーと相前後しながら、予定よりも早く2時前に槍平に着いた。 冬期小屋には先客はいなかったが、山スキーのパーティーはテント泊するとのことだった。 暗くて寒い冬期小屋に泊まるかテントに泊まるか迷ったが、労山のパーティーは西尾根の取り付きまで行くと聞いていたので、混雑はないと判断して冬期小屋に泊まることにした。 間もなく後続の3人のパーティーが到着した。 東京のK山の会という山岳会の有志で、明日は槍ケ岳に登るとのことだった。

   GW期間中は山小屋を営業するのか、山小屋の除雪作業をしている人がいた。 そのため冬期小屋のすぐ近くには、3mほどの雪を井戸のように掘った水場が作られていたので、面倒な水作りをしないで済んだ。 槍平からの穂高連峰の展望はユニークだが、今日はあいにく曇の多い天気なので残念だ。 上から単独者が下ってきたので飛騨沢の状況を聞くと、雪崩の心配は無さそうな感じだった。 夕食の準備を始めると、単独の山スキーヤーが小屋の中に入ってきたので、私達を含めて総勢6名が冬期小屋に泊まることになった。 日没前には冬期小屋の周囲も雲に覆われてしまい、明日の好天の予報が怪しくなってきた。 小屋の中は予想以上に暖かかったが、夜中にネズミが小屋の中を走り回り、安眠を妨げられた。


槍平


槍平冬期小屋


冬期小屋の内部


冬期小屋のすぐ近くに3mほどの雪を井戸のように掘った水場が作られていた


槍平から見た南岳(中央奥)


槍平から見た北穂高岳(中央左)と涸沢岳(中央右)


西尾根の取り付きに向かう労山パーティー


   翌朝は3時半過ぎに冬期小屋を出発。 嬉しいことに満天の星空で風も無かった。 労山パーティーやスキーの明瞭なトレースを辿る。 雪は硬く締まり無雪期よりも早く歩ける。 間もなくK山の会のパーティーのヘッドランプも後方に見えてきた。 1時間ほど歩き夜が白み始めてくると、労山パーティーのトレースが右の西尾根の方向に向かっていたので、飛騨沢を外れてこれを辿ってみることにした。 中崎尾根越しの抜戸岳や乗鞍岳が淡く染まり始めて美しい。 西尾根の取り付きの通称『宝の木』の下に労山パーティーの大きなテントがあり、すでに西尾根を登っている姿が見えた。 西尾根は予想以上に傾斜が急で岩場も見えたので、雪崩の心配が無さそうな飛騨沢を登った方が早くまた安全に思えた。 

   アイゼンを着け、宝の木からトラバース気味に飛騨沢に戻ると、K山の会のパーティーが先行して登っていった。 予想どおり新旧のトレースのある飛騨沢は登り易くて快適だった。 飛騨乗越の直下まで来ると、稜線には雪煙が舞っているのが見え、足元の雪もカリカリに凍ってきたので早めにアンザイレンする。 その直後に乗越からのご来光となり、予定よりもだいぶ早く7時過ぎに飛騨乗越に着いた。

 

3時半過ぎに冬期小屋を出発する


労山パーティーやスキーの明瞭なトレースを辿る


中崎尾根越しの抜戸岳が淡く染まり始めて美しい


モルゲンロートに染まる乗鞍岳


西尾根の取り付きの通称『宝の木』の下に労山パーティーの大きなテントがあった


飛騨沢を登るK山の会のパーティー


宝の木からトラバース気味に飛騨沢に戻る


新旧のトレースのある飛騨沢は登り易くて快適だった


飛騨沢から見た大喰岳の西尾根


飛騨沢から見た槍の稜線を投影する抜戸岳と笠ケ岳(左奥)


飛騨沢の中間部から上部へ


飛騨沢の上部から見た飛騨乗越


飛騨乗越からのご来光


飛騨乗越


   乗越からの展望は期待どおり素晴らしく、指呼の間の槍の穂先はもちろん、常念山脈の山々が純白の槍沢の向こうに一望された。 大喰岳を見上げると、8年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。 あいにく乗越は風が強かったので、岩陰に逃げ込みダウンジャケットを着込む。 槍ケ岳山荘方面に向かうK山の会のパーティーや大喰岳の山頂に向けて西尾根を登る労山パーティーの姿が見えた。 乗越で展望を愛でながらしばらく寛ぎ、アイゼンの爪跡が見られる大喰岳へ登り始める。 雪の状態が良ければ登り易そうに見える大喰岳への稜線は、強風にさらされた雪面がカリカリに凍り、アイゼンの爪が刺さらない所もあったので、理想的なラインでは登れなかった。 乗越から終始強風に煽られながら30分ほど登り、8時過ぎに待望の大喰岳(3101m)の山頂に着いた。 すでに労山パーティーは下山したようで、図らずも山頂は貸し切りとなったが、相変らず風が強いので私達も写真だけ撮って早々に山頂を後にする。 今回の目標は静かな大喰岳の山頂から槍の穂先を眺めるということだったので、槍の山頂に登りたいという気持ちは全く湧かず、風さえ無ければさらに稜線を縦走して隣の中岳にも登りたかった。

 

飛騨乗越から見た槍の穂先


飛騨乗越から純白の槍沢越しに見た常念岳


飛騨乗越から見た大喰岳


飛騨乗越から見た笠ケ岳


飛騨乗越から大喰岳への稜線は強風にさらされた雪面がカリカリに凍っていた


飛騨乗越と大喰岳の間から見た槍の穂先


飛騨乗越と大喰岳の間から見た黒部源流の山々


飛騨乗越と大喰岳の間から見た東鎌尾根と大天井岳(左)


飛騨乗越と大喰岳の間から見た飛騨乗越


広い大喰岳の山頂


大喰岳の山頂


大喰岳の山頂


大喰岳の山頂から見た笠ケ岳と白山(遠景)


   往路を戻って乗越まで下れば、後は槍平まで短時間で快適に下れるが、稜線の風があまりにも強かったので、少しでも風の弱い西尾根を下りたいという妻のリクエストで西尾根を下ることになった。 労山パーティーのトレースは大部分が風雪でかき消されていたが、西尾根の上部の雪の状態は良く、尾根も顕著だったので予想以上に下り易かった。 西尾根は厳冬期に飛騨沢が雪崩の危険で使えない時のエスケープルートという認識でいたが、無木立の尾根からの展望は予想以上に素晴らしく、穂高連峰や黒部源流の山々がいつもと違った角度で望まれ、当初からこのルートを登ることを計画されていた労山パーティーに頭が下がった。 間もなく風が弱まってきたので、所々で展望を愛でながら一息入れる。 雪の状態も良くなったのでロープを解く。 西尾根の取り付きのだいぶ手前から槍平に向けて最短距離で下ったため、槍平の手前で先行していた労山パーティーに追いついたのでトレースのお礼をした。 空はますます青くなり、予定よりもだいぶ早く11時半に槍平の冬期小屋に戻った。


西尾根の上部の雪の状態は良く、尾根も顕著だったので予想以上に下り易かった


西尾根の上部


西尾根の上部から見た槍の穂先


西尾根の上部から見た奥穂高岳(左)と乗鞍岳(右奥)


西尾根の上部から見た水晶岳(中央奥)


西尾根の上部から見た双六岳


西尾根の上部から見た笠ケ岳


西尾根の中間部の岩場


西尾根の中間部


西尾根の下部から見た西尾根(右)


西尾根の取り付きのだいぶ手前から槍平に向けて最短距離で下る


槍平の手前で先行していた労山パーティーに追いつく


槍平の手前から見た涸沢岳


   槍平からのトレースは昨日よりもさらに明瞭になったのみならず、上空の寒気のお蔭で気温があまり上がらなかったため雪の状態は良く、スノーシューを履かずに下った。 右俣林道で再び労山パーティーに追いつき、お楽しみのフキノトウを摘みながら、まだ陽の高い4時半前に新穂高温泉の駐車場に着いた。


正午に冬期小屋を出発する


滝谷出合から見た北穂のドーム


右俣林道で再び労山パーティーに追いつく


右俣林道から見た抜戸岳


穂高平小屋から見た大喰岳(左奥)


右俣林道にいたカモシカ


2 0 1 7 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P