2  0  1  7  年    1  月  

《 31日 〜 1日 》    笹山 ・ 白河内岳

   奈良田湖 〜 2560m地点(テント泊) 〜 笹山 〜 白河内岳  (往復)

   今年の年末年始は最近では珍しく天候が安定していた。 好天のピークは元旦から2日にかけてだが、あいにく2日には正月の行事があり、冬型が弱まるのは大晦日からだったので、図らずも山が一番賑わっている年越しの山に行くことになった。 先週登った南アルプスの小河内岳での積雪は例年より少なかったので、3年前の春先に奈良田湖から通称“ダイレクト尾根”を辿って登った笹山(2733m)から白峰南嶺を少し北上した白河内岳(2813m)まで行ける可能性が高く、人出の多い年末年始だが、週末でも登れるこのルートなら静かな山歩きが出来ると思った。

   奈良田湖のバス停付近にある駐車場に車を停めて7時半前に出発。 予想どおり日帰りを含めて入山者はいないようで、駐車場には他の車はなかった。 稜線上で雪に埋もれたハイマツの上を歩けるように、私がスノーシューを、妻がワカンを持っていくことにした。 奈良田湖を200mほどの長さの吊り橋で渡り、5分ほど歩いた先の発電用の送水管の施設の傍らから登山道に取り付く。 相変らず取り付きまでの標識の類は地味で少なかった。 取り付きから送水管の施設への巡視路を兼ねた急坂の登山道を鉄パイプの手摺に沿って登る。 送水管の施設から先は次第に尾根が顕著になる。 予想どおり東から西に向かう尾根道は陽が当たり始めると俄然暖かくなり、底冷えのする登山口の駐車場で着込んだ服を何枚も脱ぐ。 植林の林は間もなくアセビの混じった雑木へと変わり勾配が徐々に増してくる。 風は予報どおりそこそこ吹いているのだろうが、この尾根道は全くの無風で、まるで春のような暖かさだった。


奈良田湖を200mほどの長さの吊り橋で渡る


ダイレクト尾根の取り付き


取り付きから送水管の施設への巡視路を兼ねた急坂の登山道を鉄パイプの手摺に沿って登る


植林からアセビの混じった雑木へと変わると勾配が徐々に増してくる


   予想どおり、目標の白河内岳が見える1344mの尾根の合流点を過ぎても登山道には雪が全く見られなかったので、1603mの『水場入口』の標識まで前回と同じように800mの登山口から3時間で着いた。 この先も当分登山道に雪は無さそうだったので、予定どおり今日は前回の2320m付近の窪地ではなく、その先の2560m地点まで行けそうな感じがした。 水場入口から先も陽射しに恵まれた尾根は暖かく、相変らずアンダーシャツ一枚で登る。 前回スノーシュー(妻はワカン)を履いた1932m地点まで雪は無かった。 1932m地点を過ぎると若い単独の男性(Aさん)が追い付いてきたので、同好の士としばらく雑談を交わしながら登る。 今日は笹山の山頂まで登り、明日はご来光を拝んでから同じルートで下山されるとのことだった。 前回は深雪を喘ぎながら直登した急斜面を、今日はジグザグに切られた登山道を登れたのでとても楽だった。 間もなく登山道にようやく雪が散見されるようになり、2100mを超えるとようやく登山道の雪が途切れないようになってきた。


1344mの尾根の合流点から見た白河内岳


尾根道は全くの無風で、まるで春のような暖かさだった


1603mの『水場入口』の標識


1932m地点を過ぎると若い単独の男性(Aさん)が追い付いてきた


2100mを超えるとようやく登山道の雪が途切れないようになってきた


   予想以上に雪が少なかったので、登山口から5時間少々で白河内岳を望むガレ場の淵に着いた。 ガレ場の淵から先では雪が凍っていたのでアイゼンを着けたが、『標高2256m』と記された看板を過ぎると積雪がやや増して登り易くなった。 看板の先から急斜面をひと登りすると前回幕場とした2320m付近の窪地に着いた。 ここまで登山口から6時間足らずだったので、迷わず2560m地点に向けて進む。 前回は雪が多くてルーファンとラッセルに手を焼いた道も、今日は雪が少なくおまけに明瞭なトレースもあった。 相変らず無風で体感気温は高く、アンダーシャツ一枚のまま登り続ける。 樹間が狭くなり、背中のスノーシューが引っ掛かって歩きにくかった。


ガレ場の淵から見た白河内岳(左)と大籠岳(右)


前回幕場とした2320m付近の窪地


2320m付近の窪地からは樹間が狭くなり、背中のスノーシューが引っ掛かって歩きにくかった


   予定より1時間ほど早く2時半に樹林が切れた2560m地点に着くと、意外にも最近幕を張った跡があり、僅かな手間でテントを設営することが出来た。 陽射しに恵まれた幕場は暖かく、水作りも早くて楽だった。 予想どおりAさん以外の後続者はなく、2560m地点の幕場は貸し切りとなった。 幕場からは富士山・笊ケ岳・上河内岳・悪沢岳・北岳、そして目標の白河内岳が望まれ、今年最後のささやかな夕焼けショーも楽しめた。


樹林が切れた2560m地点に着くと、意外にも最近幕を張った跡があった


陽射しに恵まれた幕場は暖かく快適だった


幕場から見た白河内岳(左)


幕場から見た笊ケ岳


幕場から見た北岳(右)


幕場から見た残照の富士山


幕場から見た上河内岳(中央)と悪沢岳(右)


   夜中は上空に吹く風の音が何度か聞こえたが、幕場は全くの無風だった。 昼間との体感気温の差が大きく、夜中はそれなりに寒く熟睡は出来なかった。 翌朝は予定よりも少し遅れて6時に幕場を出発。 すでに富士山の背後の空が燃えるような朝焼けとなり、笹山の山頂での初日の出が約束された。 幕場から先では積雪が一段と増したが、新しいトレースがあるのでストレスなく登れる。 幕場とした2560m地点からすぐに森林限界となると記憶していたが、なかなか視界が開けずにヤキモキする。 息を切らしながらトレースに従って急坂を登っていくと、樹林が切れた所が笹山南峰(2717m)の山頂のすぐ下だった。 朝焼けが終わりかけた富士山の写真を撮り、すぐ先の疎林に囲まれた南峰の山頂に向かうと、意外にも転付峠方面から男女パーティーが現れた。 さすがに年末年始の山だ。 新年の挨拶を交わして妻の到着を待ち、Aさんのヘッドランプが揺れる指呼の間の笹山北峰(2733m)の山頂に向かう。 男女パーティーは私達とは逆に、ご来光には最適の南峰の山頂のすぐ下に向かうようだ。 南峰と北峰のコルにはAさんのテントが一張だけあった。

    予定よりも少し遅れて7時前に笹山北峰の山頂に着き、Aさんと新年の挨拶を交わす。 ありがたいことに風は弱く、モルゲンロートに染まる塩見岳・蝙蝠岳・荒川岳の写真を撮りながら、初日の出の瞬間を待つ。 7時過ぎに富士山の山頂の右からの力強いご来光となり、皆で歓声を上げた。 今回もサブカメラでの撮影なのが玉にキズだ。


幕場を6時に出発する


笹山南峰直下から見た朝焼けの富士山


笹山南峰の山頂


笹山北峰の山頂直下


笹山北峰の山頂から見た富士山


笹山北峰の山頂から見た塩見岳


笹山北峰の山頂から見た蝙蝠岳


笹山北峰の山頂から見た荒川岳


笹山北峰の山頂から見た初日の出


笹山北峰の山頂


   Aさんとお互いの写真を撮り合い、眼前に鎮座する白河内岳に向かって歩き始めると、意外にも新しいトレースが複数見られた。 間もなくトレースが凸凹して歩きにくくなったので、私のみアイゼンからスノーシューに履き替えたが、低温のため雪は良く締まっていたので、雪を被ったハイマツの上もアイゼンのままで問題なく歩くことが出来た。

   嬉しいことに天気は予報以上の快晴となり、風も主脈上の山々に遮られているためか弱かった。 妻はサングラスをテントに忘れてきてしまい、雪盲にならないようにと目薬をつけながら歩くことになってしまった。 地形図どおり稜線は起伏がとてもなだらかだったので、スノーシューで歩くことが全く苦にならず、明瞭なトレースは白河内岳の直下までほぼ登山道どおりにつけられていた。 コルから白河内岳への登りに入るハイマツ帯と樹林帯の境目に二人の単独の男性とテントが見られた。 そこから短い樹林帯を抜けると、白河内岳の純白の頂稜部が眼前に大きく望まれた。 付近には先ほどの単独の男性の物と思われるピッケルが落ちていた。 前方に見えるトレースは山頂方面ではなく、右から大きく巻くように印されていた。 山頂を目前に、緩やかな雪のスロープを足取りも軽く登っていくと、風が急に強くなってきた。 半月前の越百山の山頂直下での爆風が脳裏に浮かび不安な気持ちに苛まれたが、暖かい陽射しに後押しされて8年ぶりの白河内岳の山頂に辿り着くことが出来た。


笹山北峰と白河内岳の間から見た白河内岳


笹山北峰と白河内岳の間には新しいトレースがあった


笹山北峰と白河内岳の間から見た塩見岳


笹山北峰と白河内岳の間から見た白河内岳


笹山北峰から白河内岳へ


笹山北峰と白河内岳の間から見た蝙蝠岳(右)と荒川岳(左)


笹山北峰から白河内岳へ


笹山北峰と白河内岳の間から見た笹山


スキー場のスロープのような白河内岳の山頂直下


白河内岳の山頂直下


白河内岳の山頂


    山頂は風の通り道となっているようで、岩屑で覆われた平らで広い山頂一帯は雪が剥げていた。 山頂からの展望はとても開放的で、先ほどまで少し雲が付いていた北岳や木曽駒ケ岳方面もすっきり見えるようになったが、強い風が吹き止む気配は全くなかったので、周囲の山々の写真だけ撮って早々に山頂を後にする。 広河内岳方面へのトレースはなかったので、忘れ物のピッケルを拾って笹山北峰の山頂の標柱の下に置くことにした。 帰路は誰ともすれ違うことなく、静かな笹山北峰・南峰の頂を経て11時半過ぎに幕場に戻った。

   今日も日溜りのように暖かい幕場でゆっくりテントを干しながら撤収し、12時半過ぎに幕場を発つ。 登山道から雪が無くなってからも地面が硬く凍っていたので、しばらくアイゼンを外さずに下った。 1344mの尾根の合流点から先の急坂の下りは登りよりも足に堪えた。 4時半に奈良田湖畔の駐車場に着いた。


白河内岳の山頂から見た富士山


白河内岳の山頂から見た仙塩尾根越しの中央アルプス


白河内岳の山頂から見た塩見岳


白河内岳の山頂から見た笹山(中央手前)と笊ケ岳(右奥)


白河内岳の山頂から見た小河内岳(中央左)と前小河内岳(中央右)


白河内岳の山頂直下から見た農鳥岳(中央右)と西農鳥岳(中央左)


笹山北峰と白河内岳の間から見た白河内岳


笹山北峰と白河内岳の間から見た鳳凰三山


笹山北峰の山頂直下


笹山北峰の山頂


笹山南峰の山頂


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