2  0  1  6  年    5  月  

《 21 〜 22日 》    七倉岳 ・ 船窪岳 ・ 不動岳 ・ 南沢岳 ・ 前烏帽子岳

   七倉 〜 七倉岳 〜 船窪小屋(泊) 〜 船窪岳 〜 船窪岳第2ピーク 〜 不動岳 〜 南沢岳 〜 前烏帽子岳 〜 烏帽子小屋 〜 高瀬ダム 〜 七倉  (周回)

   土日共に甲信に晴れマークと風の弱い予報が出たので、今シーズン初めて北アルプスの山に登ることにした。 新穂高温泉から双六小屋をベースに鷲羽岳を往復する計画を立てたが、出発直前の予報で岐阜の飛騨地方に土曜日の昼過ぎから雷雨注意報が出たので、急遽予定を変更し、来週以降に計画していた七倉から七倉岳・船窪岳・不動岳・南沢岳を経て烏帽子小屋への縦走(周回)に変更したが、結果的にはこれ以上望めないほどの良い天気と展望に恵まれた山行となった。

   予想どおり七倉温泉の駐車場には車が少なく、隣の群馬ナンバーの車の夫婦は、烏帽子岳〜野口五郎岳〜湯俣の周回をされるとのことだった。 7時に駐車場を出発し、新緑が眩しい七倉尾根を登り始める。 最初のジグザグの急坂を終えて勾配が緩むと、咲いたばかりのみずみずしいシャクナゲの花がいたる所に見られ、思わぬ山からのプレゼントに足取りが軽くなる。 花よりダンゴではないが、今晩の夕食の具材にと旬のコシアブラも少しいただいた。 気温はまだそれほど高くないが、すでに春霞で眼前の唐沢岳はすでにぼやけていた。 良く整備された登山道には船窪小屋まで標高差140m毎に1から10までの番号札が置かれていたので、それに合わせて小刻みに休みを入れる。 

   残雪がどこから見られるかが一番の関心事だったが、森林限界となる天狗の庭(2300m)の手前でようやく僅かに見られた程度だった。 天狗の庭から見た槍ケ岳方面には予報どおり雲が多かった。 休憩中に七倉岳まで行かれるという地元のトレラン氏が颯爽と追い越して行ったが、今回の山行で出会ったのは結局この方だけだった。 船窪小屋の手前の稜線には雪庇の名残が見られたが、ほぼ無雪期と同じように登れたので、予定どおり1時に静かな船窪小屋に着いた。


七倉温泉の先のゲート


新緑が眩しい七倉尾根を登る


咲いたばかりのみずみずしいシャクナゲの花がいたる所に見られた


旬のコシアブラを少しいただいた


鼻突八丁付近の急坂を登る


天狗の庭の手前から見た北葛岳


天狗の庭から見た唐沢岳(中央右)と餓鬼岳(中央左)


天狗の庭から見た三ツ岳と高瀬湖(左)


船窪小屋の手前の稜線には雪庇の名残が見られた


船窪小屋


   あいにくの春霞で好展望を誇る山小屋からの展望は冴えなかったが、予想どおり冬期小屋に先客はいなかった。 この小屋に泊まるのは今回で三回目だが、過去二回はいずれも貸し切りだった。 指呼の間の七倉岳の山頂へは夕方に行くことにして、涼しくて快適な小屋の中で昼寝をする。 昼過ぎに少し離れた幕場の崖の下にある水場まで水を汲みに行く。 意外にも幕場はまだ雪に覆われていたので、その先の水場から水が出ているか心配になったが、水場へ下っていく途中で水が流れる音が聞こえてきたので安堵した。 シーズン前ということもあり、水場へ下りるロープの一部が埋まっていたので、持参したロープとピッケルで確保しながら片手で7リッターの水を汲んだ。 私の知る限り北アルプスのキャンプ指定地の中では最も危険な水場だ。 水汲みに1時間半ほどを費やしてしまったのみならず、細かい砂が混じっていたので、山小屋に戻ってからもフィルターで漉さなければならなかった。 

   七倉岳の山頂に行くのは6時近くになってしまったが、雷雨が予想されていた槍ケ岳方面の雲もいつの間にかなくなり、図らずも山々の展望は午前中よりも良くなっていた。 私達の後は誰も山小屋に来なかったので、先々週の金懸小屋、先週の狐穴小屋に続き、三週連続で泊まった小屋は貸し切りとなった。

   日没が近くなっても陽射しはとても強く、また風もなかったので、山小屋の前のテーブルで夕焼けショーを観ながらとても贅沢な夕食を楽しむことが出来た。 7時を過ぎてもまだ山々は明るく、上空には満月に近い月が出ていた。 周囲がようやく暗くなると眼下には大町の夜景が見え、あらためてこの山小屋のロケーションの素晴らしさを実感し、計画を変更して正解だったとさえ思えた。


船窪小屋の冬期小屋


冬期小屋の内部


船窪小屋から見た北葛岳と蓮華岳(左奥)


コシアブラを入れた蕎麦


ロケーションが素晴らしい船窪小屋


北アルプスのキャンプ指定地の中では最も危険な水場


七倉岳の山頂


七倉岳の山頂から見た針ノ木岳


七倉岳の山頂から見た北葛岳


七倉岳の山頂から見た蓮華岳


船窪小屋から見た不動岳


船窪小屋から見た立山


船窪小屋から見た槍ケ岳(中央)と穂高(中央左)


ザラ峠に沈む夕陽


山小屋の前のテーブルで夕焼けショーを観ながらとても贅沢な夕食を楽しめた


   翌朝はゆっくり山小屋で朝焼けの山々の景色を眺めたかったが、今日の行程は長く、また残雪の状況も全く分からないので、まだ暗い4時前に山小屋を出発する。 予報どおり風はなく空には星が輝いていた。 昨日水汲みに行った幕場に下り、その先から船窪岳との鞍部となる船窪乗越まで不動沢のガレ場の縁を下る。 周囲が明るくなり始めると、これから越えていく不動岳や遠くの槍ケ岳がモルゲンロートに染まり、周りの山々が予想以上に良く見えた。 しばらくは登山道に残雪がなかったが、登山道がガレ場を避けて北側の斜面に入ったとたんに硬く締まった残雪の斜面が現れ、面倒だがそこだけアイゼンを着けて下ったので、山小屋から船窪乗越まで1時間を要した。

   船窪岳の登りに入ると間もなく北葛岳の背後からのご来光となった。 天気は予報以上に良くなりそうで、上空には一片の雲も見られなかった。 残雪が登山道を覆っている所が数か所あり再びアイゼンを着けたが、意外にも昨日か一昨日のものと思われる新しい単独者のトレースが見られた。 トレースの状況から気温の高い時間帯に単独者がここを通過したことが分かった。 船窪乗越から40分ほどで着いた最初の展望の良いピーク(2300m)には『船窪岳山頂』と記された標柱があったが、眼前には登山地図に『船窪岳第2ピーク』と記された山が、船窪小屋から見た山容とは違う重厚な面持ちで鎮座していた。 船窪岳からは梯子やロープを使っての登り下りが続いたが、雪が被っていなければ全く問題なかった。 18年前の秋に一度だけ逆方向から縦走したことがあったが、その時の記憶はかなり薄れていた。 2220mの鞍部からは所々に残雪がある急坂を喘ぎながら登り、7時に雪庇の残る細長い船窪岳第2ピーク(2459m)に着いた。 道標や山名板は雪の下で見えなかった。 船窪岳第2ピークの山頂からの展望は悪いと思っていたが、眼前には針ノ木岳や蓮華岳が、樹間からは立山から薬師岳までの山並みが望まれた。 

   山頂で温かいコーヒーを飲みながら一息入れ、核心部と思われる不動岳へ向かう。 登山道はそれまでと一変し、荒々しいガレ場の縁ではなく、稜線の少し内側の鬱蒼とした樹林帯の中を2230mの鞍部まで緩やかに下っていった。 予想に反して登山道は殆ど露出していたのでルーファンに時間を割かれずに済んだ。 鞍部からの登りでは再びガレ場の縁を歩くようになり、登山道が再び樹林帯に入ると残雪が登山道を覆っていた。 登山道を探しながら進むか、適当に上に登っていくか迷ったが、単独者のトレースが雪面に僅かに残っていたのでそれを辿ることにした。 トレースは稜線からかなり外れ、地形図にある涸れた沢の途中で消えてしまったが、沢の源頭まで詰めていけば再び稜線に戻れそうだったので、この沢を直登することにした。 案の定、沢の源頭から稜線に出る手前の藪に中に単独者のトレースが見られた。 その先で再び登山道は稜線から外れ残雪の中に消えたが、登り易い所を選んで直登気味に登っていくと再び登山道に合流た。 そこから先は背の高いハイマツの切り裂きのジグザグの急斜面となり、鎖の付いた山頂直下の岩場を登ると、予定よりも早い9時半に細長い頂上稜線の北端の不動岳の最高点(2601m)に着いた。


まだ暗い4時前に山小屋を出発する


船窪小屋と船窪乗越の間から見た船窪岳(船窪岳第2ピーク)


船窪小屋と船窪乗越の間から見た不動岳


船窪乗越


北葛岳の背後からのご来光


残雪が登山道を覆っている所が数か所あり、アイゼンを着けて登った


『船窪岳山頂』と記された標柱があった展望の良いピーク


船窪岳の山頂から見た高瀬湖と表銀座の山々


船窪岳と船窪岳第2ピークの間から見た船窪岳第2ピーク


船窪岳と船窪岳第2ピークの間は梯子やロープを使っての登り下りが続いた


船窪岳と船窪岳第2ピークの間は梯子やロープを使っての登り下りが続いた


船窪岳第2ピークへの登りから見た不動岳


船窪岳と船窪岳第2ピークの間は梯子やロープを使っての登り下りが続いた


船窪岳第2ピークの山頂


船窪岳第2ピークの山頂から見た薬師岳(中央奥)


船窪岳第2ピークから不動岳へ


稜線の少し内側の鬱蒼とした樹林帯の中を2230mの鞍部まで緩やかに下る


船窪岳第2ピークと不動岳の間から見た不動岳


不動岳への登山道は殆ど露出していたのでルーファンに時間を割かれずに済んだ


涸れた沢の源頭へ直登する


船窪岳第2ピークと不動岳の間から見た七倉岳


不動岳の山頂手前では登り易い所を選んで残雪の斜面を直登気味に登る


不動岳の山頂直下から見た立山と黒部湖


不動岳山頂直下の背の高いハイマツの切り裂きのジグザグの急斜面を登る


   高度感のある不動岳の最高点からは、辿ってきた七倉岳や船窪岳方面の山々、剱・立山から五色ケ原・越中沢岳を経て薬師岳へと続く稜線、眼下には黒部湖、赤牛岳から水晶岳へと続く稜線、そしてこれから辿る南沢岳・烏帽子岳とその先に三ツ岳や槍ケ岳が青空の下に一望され、それまでの疲れが一気に吹っ飛んだ。 天気は極めて安定し、予定した時間内に今日の核心部を終えたことで烏帽子小屋までの時間の目処もついたので、山頂からのユニークな大展望を肴にゆっくり寛いだ。

   10時前に重い腰を上げて縦走の後半を開始する。 最高点から細長い頂上稜線を数分歩くと、『不動岳』と記された山頂の標柱があり、そこからハイマツの切り裂きを下って南沢岳との鞍部の南沢乗越(2400m)へと下る。 ここから先は残雪の広い尾根の上を快適に歩けそうな感じがしたが、乗越への下りは少し急だったのでアイゼンを着けた。 乗越から先の南沢岳への登りでは登山道が所々で露出していたのでアイゼンを外したが、一か所だけ登山道が不明瞭な所があり、地形図に従って右手の顕著な痩せ尾根に乗るためにガレ場を強引に登った。 山頂手前の偽ピーク付近は再び残雪の斜面となったが、傾斜は緩くアイゼンは不要だった。 ほぼ予定どおり正午前に静かな南沢岳(2625m)の山頂に着いた。


 

高度感のある不動岳の最高点


不動岳の最高点から見た不動岳


不動岳の最高点から見た船窪岳第2ピーク(中央手前)・針ノ木岳(左)・蓮華岳(右)


不動岳の最高点から見た南沢岳(中央手前)・薬師岳(右奥)・赤牛岳(中央奥)・水晶岳(左奥)


不動岳の最高点から見た五色ケ原(中央)・竜王岳(右)・越中沢岳(左)


不動岳の最高点から見た烏帽子岳(中央手前)・南沢岳(右手前)・三ツ岳(左)


不動岳の山頂   背景は立山


不動岳の山頂   背景は薬師岳


不動岳から南沢岳へ


南沢乗越への下り


南沢乗越付近から見た南沢岳


南沢乗越から南沢岳へ


南沢乗越と南沢岳の間から見た唐沢岳(中央左)・剣ズリ(中央)・燕岳(右)


南沢岳山頂手前の偽ピークから見た南沢岳の山頂


南沢岳の山頂直下から見た不動岳


   烏帽子岳方面からは何度か登っている広い砂礫のピークは、山名板や道標もない北アルプスで一番地味なピークだが、私にとってはお気に入りの場所だ。 山頂からの展望は山の知名度とは逆に北アルプス随一と言っても過言ではないだろう。 南沢岳から先のルートは全く問題ないので、疲れた体を労りながらゆっくり寛ぐ。 涼しい風が僅かに吹いていて心地よい。

    南沢岳と烏帽子岳の間にある小さな池が点在する草原(烏帽子田圃)はまだ雪原だったが、一番大きな池だけが雪解け水を湛えていた。 大展望の連続ですでにお腹が一杯になっていたので、稜線から少し外れた烏帽子岳(2628m)には登らず、最後のピークの前烏帽子岳(2605m)の山頂で辿ってきた道を振り返り縦走の余韻に浸った。 烏帽子小屋を2時前に通過し、残雪のブナ立尾根を下る。 残雪は30分ほどでなくなり、後は所々の急斜面に僅かに残雪が見られる程度で、登山口までコースタイムどおりに下れた。 5時ちょうどに高瀬ダムに着き、山中で呼んだタクシーに拾われて七倉に戻った。


南沢岳の山頂


南沢岳の山頂から見た針ノ木岳(中央左)と蓮華岳(中央右)


南沢岳の山頂から見た越中沢岳


南沢岳の山頂から見た薬師岳(右)・赤牛岳(中央)・水晶岳(左)


南沢岳から烏帽子岳へ


南沢岳と烏帽子岳の間から見た烏帽子岳(手前)と三ツ岳(奥)


南沢岳と烏帽子岳の間から見た南沢岳


南沢岳と烏帽子岳の間から見た烏帽子岳


烏帽子田圃の一番大きな池だけが雪解け水を湛えていた


烏帽子田圃から見た不動岳


烏帽子田圃から見た南沢岳


前烏帽子岳の山頂


前烏帽子岳の山頂から見た烏帽子岳(左)と南沢岳(右)


前烏帽子岳の山頂から見た不動岳(中央手前)


烏帽子小屋


ブナ立尾根から見た不動岳


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