《 7日 〜 8日 》 木曽前岳 ・ 木曽駒ケ岳
滑川砂防公園 〜 敬神の滝小屋 〜 金懸小屋(泊) 〜 木曽前岳 〜 木曽駒ケ岳 (往復)
土曜日の午前中は雨だが、午後は回復して日曜日には良い天気で風も収まるという予報だったので、関東からは一番登山口が遠い「上松Aコース」を、途中にある避難小屋で一泊して木曽駒ケ岳に登ることにした。 無雪期なら日帰りも可能なルートだが、急遽山仲間のセッちゃんがご一緒してくれることになり、山行の記憶が一層深まった。
シーズン前のためか、アルプス山荘の先の登山道が分かりにくく、北股沢に架かる大きな赤い橋を渡った先の滑川砂防公園の広い駐車スペースに車を停め、雨が止んだ午後の1時前に出発する。 GWの直後のためか、元々マイナーなのか、他に車は停まっていなかった。 舗装された車道を一旦80mほど下るとアルプス山荘からの登山道と合流し、実質的な登山口となる敬神の滝小屋まで15分ほど歩いた。 偶然にも小屋の前で空木岳方面から縦走してきたという単独の男性とすれ違ったので、登山道の残雪の状況などを教えていただいた。 小屋の前には今まで一切なかった立派な道標があり、ここは2合目で木曽駒ケ岳の山頂まで7時間半と記されていた。
明治時代にウォルター・ウェストンが木曽駒ケ岳へ登った時に辿ったというクラッシックルートは良く整備されていて歩き易く、木曽前岳の山頂まで同じ規格の道標が半合目ごとにあった。 予報どおり陽射しが徐々に強くなってきたが、鬱蒼とした樹林帯の登りでは暑さにはそれほど苛まれずに済んだ。 半年ぶりに再会したセッちゃんとの会話が弾む。 3合目半で雨傘をデポし、5合目の道標のすぐ先に建つ金懸小屋(1914m)に3時半に着いた。
ログハウス調の小屋は2階建で、どちらの階にも畳が敷いてあり、毛布や布団、そして大きなテーブルも置かれ、まるで民宿のようだった。 トイレットペーパーのある簡易仮設トイレも2基あり、本当に至れり尽くせりだ。 小屋のすぐ先の岩壁から流れ出る水は、細いながらも安定した水量で安堵した。 快適な小屋は陽当たりが良く、居ながらにして御嶽山が望まれ、室温は20度もあった。 予想どおり小屋は私達だけで貸し切りとなり、素晴らしい御嶽山の夕焼けショーを楽しめた。
翌朝は4時に避難小屋を出発。 星が見え暖かい風が少し吹いていた。 小屋から先も昨日と同じような良い道で、「胸突き八丁」という道標がある急坂を登ると周囲が明るくなり、樹間から朝焼けの山が見えた。 木曽駒ケ岳だと思っていた山は三ノ沢岳だった。 登山道の残雪は昨日の単独者からの情報どおり7合目の手前の「天の岩戸」付近から見られたが、樹間が詰まって陽当たりが悪いためか、硬く凍っていて歩きにくかった。 三ノ沢岳の眺めの良い7合目半から先は残雪の量が多くなったが、トレースがあるのでアイゼンは着けずに登る。 8合目(2590m)には沢山の石碑が見られ、このルートが信仰登山の道だったことを物語っていた。 付近は平らで幕場に相応しく、積雪期はここをベースに木曽駒ケ岳を登るのが理想的に思えた。
8合目を過ぎると尾根は痩せ、森林限界が近づいてくる。 宝剣岳や崩壊が進む麦草岳も見えるようになったが、眼前に迫る木曽前岳が木曽駒ケ岳を隠していた。 ハイマツの中に僅かに残雪が残る登山道は明瞭で歩き易かった。 木曽前岳の山頂を巻くルートとの分岐を過ぎると、登山道が露出している所もあり、アイゼンを着けるポイントを見定めながら登ったが、岩と硬い雪のミックスの急斜面をロープを頼りに登ると間もなく麦草岳(上松Bコース)との分岐に着いた。
分岐からはようやく木曽駒ケ岳の山頂が見えるようになり、二重山稜となっている頂上稜線を漫歩する。 登山道から少し離れた木曽前岳の最高点には帰路に寄ることにして玉ノ窪山荘方面へ向かう。 指呼の間に鎮座する木曽駒ケ岳の山肌の残雪は少なく、まるで初夏のような感じだ。 玉ノ窪山荘への下りは雪の斜面となっていたが、雪が柔らかくアイゼンを着けずにスピーディーに下れた。 木曽駒ケ岳の山頂では喧噪が予想されるため、玉ノ窪山荘でコーヒーを飲みながら一息入れる。 今まで三ノ沢岳に隠されていた空木岳方面の山々が良く見えるようになった。 玉ノ窪山荘はまだ雪に埋もれていたが、木曽駒ケ岳の山頂への登山道には殆ど雪がなかった。 山頂手前の頂上木曽小屋は冬期小屋が開放されていて、中を覗くと一坪ほどのスペースがあった。
9時過ぎに木曽駒ケ岳(2956m)の山頂に着くと、意外にもGW明けのためか山頂には誰もいなかったが、しばらくすると単独の登山者が二人、スキーヤーが二人相次いで登ってきた。 快晴の山頂からはここから見える山は全て見えたが、北アルプスの北部の山は予報どおり天気が悪いためか見えなかった。
木曽駒ケ岳にしては静かな山頂で40分ほど展望を愛でながらゆっくり寛ぎ、10時前に山頂を後にする。 玉ノ窪山荘から木曽前岳への登り返しは全く苦にならず、文字の消えかかった山頂プレートが置かれた木曽前岳(2826m)の山頂で最後の大展望を楽しみ金懸小屋へ下る。 予報どおり風は収まり気温も上昇してきたが、この時期にありがちな初夏の暑さに苛まれることはなかった。 早朝は硬く締まっていた雪は下りでは柔らかくなり所々で踏み抜くが、それでも膝下の高さでスパッツの出番はなかった。 下りはコースタイムよりも早く1時過ぎに金懸小屋に着いた。
昼寝でもしていきたくなるような快適な金懸小屋に再訪を誓い、後ろ髪を引かれる思いで小屋を後にした。 日帰りの登山者はおらず、山頂以外では誰とも出会うことなく3時に敬神の滝小屋に着き、舗装された車道を滑川砂防公園の駐車スペースまで登り返した。