2  0  1  6  年    4  月  

《 9日 〜 10日 》    鬼怒沼山

    夫婦淵温泉 〜 日光沢温泉 〜 鬼怒沼湿原 〜 鬼怒沼山 〜 鬼怒沼山と2120m峰のコル付近(テント泊) 〜 2120m峰  (往復)

   今週末も春の変わり易い天気に翻弄され計画が二転三転し、最終的に決定した野反湖から白砂山を経て佐武流山又は上ノ倉山への往復は、国道405号線の冬期通行止めが4月22日までということで駄目になり、秋に行こうとして中止になった計画を急遽持ち出し、女夫淵温泉から鬼怒沼湿原を経て黒岩山に登ることにした。 相棒の妻が足の甲が腫れる病気で行けなくなり、5年ぶりの泊りでの単独行となった。

   計画の遅れで登山口への到着が遅れたため、7時半に女夫淵温泉の広い駐車場を出発。 取り付き付近の道は土砂崩れで付け替えられ、のっけから高巻きを強いられたが、実質的な登山口となる日光沢温泉までの道(奥鬼怒歩道)は終始緩やかな登りで残雪のかけらもなかった。 女夫淵温泉からの車道が通る八丁ノ湯、加仁湯の温泉旅館を経て日光沢温泉には2時間ほどで着いた。 12年前の秋に山の会の山行で泊まったのがこの宿で、その1か月後に急逝された淑子さんとその時語り合った話の内容は昨日のことのように良く覚えている。 宿のご主人から山の状況を伺うと、今年は例年になく雪が少ないので3月から入山者があり、鬼怒沼湿原の避難小屋も雪から出ているとのことだった。

   留守番の妻に電話を入れ9時半に日光沢温泉を出発。 オロオソロシの滝展望台を過ぎてからようやく残雪が登山道を覆うようになったが、先週末くらいのトレースがあり道型もはっきりしているので、コースタイムどおりのスピードで登れた。 1800m辺りから傾斜が緩んでくると積雪が急に増え、気温の上昇で雪も柔らかくなってきたので、踏み抜きの衝撃を軽減するためにワカンを履く。 周囲に人の気配はなく、今日は誰も鬼怒沼湿原を訪れないように思えた。 特徴のない鬱蒼とした樹林帯の中の登山道には200mくらい毎に道標が立ち、ピンクのテープが沢山付けられていたが、仮にこれらが雪に埋もれていたらルーファンはかなり大変だと思った。 

   例年よりも少ない積雪とトレースに助けられ、12時半に雪原となっている鬼怒沼湿原に着いた。 予報どおり強い風は午前中で収まり、雪原の上は風も無く穏やかだった。 雪原の南端からはこれから向かう鬼怒沼山の前山が見えた。 陽当たりの良い雪原はトレースが消えていたので、真ん中付近を適当に歩く。 湿原は過去の記憶よりも小さく感じた。 湿原の積雪も予想より少なく、すでに輪郭が見えている沼もあった。 栃木県側には白根山や根名草山、福島県側には燧ケ岳や平ケ岳などが望まれ、展望を愛でながら20分ほどで雪原の南端から避難小屋の建つ北端まで進む。 避難小屋はすでに誰かが利用したようで、入口のドアが掘り起こされていた。 小さな避難小屋には窓がなく、積極的に利用する気にはならないが、3〜4人くらいは泊まれそうだった。 

   避難小屋で一息入れ、1時過ぎに核心部の県境の尾根の縦走路に入る。 これから先は初めて辿るルートだ。 避難小屋の裏手の三叉路の分岐にはピンクのテープがあったが、予想どおりトレースはなかった。 鬼怒沼山方面への尾根は幅が広いのみならず樹間も均一だったので、どこでも歩いて行けそうだったが、下調べを全くしてこなかったので、とりあえず登山道を忠実に辿ろうと思い、地形図を確認しながらじわじわと前進するが、テープ類は雪に埋もれているのか一切なかった。 最初が肝心なので30分ほどゆっくり時間を掛けて三叉路の分岐付近を徘徊したが、テープ類で登山道を探し当てるのは無理と判断し、地形図だけを頼りに先に進むことにした。 地形図に記された登山道は、最初の目標となる鬼怒沼山とその手前にある同じ標高の前山の二つのピークを踏まずに巻いているが、その二つのピークの鞍部をS字形に抜けるため、予想以上にルーファンに時間が掛かった。 登山地図のコースタイムが25分となっている避難小屋から二つのピークの鞍部まで2時間半以上を要し、3時前にようやく明るく開けた鞍部に着いた。

   意外にも鞍部には反対方向からの単独者の古いスノーシューのトレースが見られた。 トレースは眼前の鬼怒沼山の山頂から下ってきているように見えたが、当初の計画どおり鬼怒沼山を巻いていく登山道を探し当てながら進むと、ようやく地味な標識が見られた。 標識が見つかって安堵したのも束の間、そこから先の巻き道は気温の上昇で雪が腐り、トラバースとなる斜面も急なため、安全に通過するためにはかなりの時間と労力を要することが分かったので途中で引き返し、微かなスノーシューのトレースを辿って鬼怒沼山の山頂を越えていくことにした。 山頂へはやや急な斜面を登るが、意外にも避難小屋から全くなかったテープ類が頻繁に見られるようになり、労せずして鬼怒沼山の山頂に着いた。 

   樹林に囲まれた山頂は南側が少しだけ開け、白根山や根名草山が見えた。 猫の額ほどの狭い山頂は雪を少し均せば良い幕場になりそうだったが、ここまで来るのに予想外の時間を要したため、もう少し先まで行って明日のルートの状況を掴みたいと思った。 山頂を越えてやや急な斜面を下ると、次第に尾根は痩せ、初めて目標の黒岩山が見えた。 間もなく山頂を巻いた登山道と合流し、次の2120m峰との鞍部の少し手前にちょっとした平坦地があったので、迷わずそこを幕場とした。 時間はすでに4時を過ぎてしまったので、明日のルートの下見をすることも出来ず、テントを設営して水作りに追われた。 大きな夕陽が至仏山方面に沈み、明日の天気に期待が膨らんだが、夕食を食べ終わって寝袋に入ったとたん予報にはなかった小雪が舞い始めた。 夜中からは風が急に吹き出し、テントを叩く音で眠れなくなった。


 

女夫淵温泉の広い駐車場


土砂崩れで付け替えられた奥鬼怒歩道の入口


八丁ノ湯


加仁湯


日光沢温泉


オロオソロシの滝展望台


オロオソロシの滝展望台を過ぎてからようやく残雪が登山道を覆うようになった


特徴のない鬱蒼とした樹林帯の中の登山道


鬼怒沼湿原の南端


鬼怒沼湿原から見た鬼怒沼山の前山


鬼怒沼湿原から見た根名草山(中央)と温泉ケ岳(中央右)


鬼怒沼湿原から見た白根山


鬼怒沼湿原から見た燧ケ岳(右)と平ケ岳(左奥)


鬼怒沼湿原の北端に建つ避難小屋


避難小屋の内部


鬼怒沼山方面への尾根は幅が広いのみならず樹間も均一だった


ルーファンに苦労した鬼怒沼山への道


明るく開けた鞍部から見た鬼怒沼山


鬼怒沼山の山頂直下の地味な標識とそこから先の巻き道


鬼怒沼山の山頂へやや急な斜面を登る


樹林に囲まれた鬼怒沼山の山頂


鬼怒沼山の山頂から見た白根山(右端)と根名草山(左端)


山頂を越えてやや急な斜面を下ると、初めて目標の黒岩山が見えた


鬼怒沼山と2120m峰の鞍部の少し手前のちょっとした平坦地を幕場とした


   強風は朝までずっと吹き続け、5時半に予定していた出発は見合わせ、テントの中で風が収まるのを待った。 時間の経過と共に、目標とする地点は黒岩山からどんどん手前になっていった。 最終的には風が弱くなった8時の出発となってしまったので、幕場から指呼の間に見える次のピーク(2120m峰)まで行くことにした。 

   幕場から明瞭な尾根上の登山道で鞍部に下ると、風の通り道になっているのか積雪は少なく、一部では登山道が露出していた。 鞍部からの尾根は今までになく顕著になり、ルーファンが楽になった。 2120m峰へ登り返すと間もなく、上から短いスキーを背負った単独者が下ってきた。 お互いに予期せぬ出会いに驚いた。 S藤さんという地元の方は、通年通行止めとなっている奥鬼怒林道を群馬側の大清水から歩き、2120m峰の下を貫通している奥鬼怒トンネルの手前から沢を詰めて稜線を目指して登ってきたとのことだった。 S藤さんはこれから鬼怒沼湿原に向かうとのことで、ルートの状況を伝えながらしばらく雑談を交わした。

   そこから少し先で登山道とS藤さんのトレースは2120m峰を左から巻いていたが、そのまま尾根どおしに登り続けると、幕場から1時間足らずで2120m峰に着いた。 2120m峰の山頂は所々で木々が切れ、黒岩山とそこに至る稜線のルートが良く見えた。 稜線のルートは見通しが利いて分かり易そうで、あらためて今回は鬼怒沼山の通過が核心だったことが分かった。 また山頂は幕場にも相応しく、今回はここを幕場にするのが一番ベストだったと思った。 ここから黒岩山までの間にはこれといった目立ったピークは無く、陽射しは感じるものの青空が見えない空模様だったので、ここで引き返すことに迷いはなかった。

   再訪を誓って幕場に戻り、テントを撤収して予定よりも早い10時過ぎに幕場を発った。 S藤さんは私のアドバイスどおり、鬼怒沼山を巻く登山道は行かず、鬼怒沼山をスキーを履いて越えていた。 鬼怒沼山を越え、鞍部から鬼怒沼湿原に向かう途中で再びS藤さんとすれ違ったので、しばらく情報交換をしたりした。 自分達のトレースがある帰路は時間が掛からず、11時半過ぎには鬼怒沼湿原に着いた。 午前中に湿原を訪れた登山者が数人いたようで、湿原には新しいトレースが見られた。

   空の色は徐々に濁ってきたが、まだ陽射しがあったので、避難小屋に荷物をデポし、アイゼンからワカンに履き替えて指呼の間の物見山に登る。 雪が良く締まっていたのでラッセルすることもなく、避難小屋から30分足らずで地味な物見山(2113m)の山頂に着いた。 ガイドブックには山頂からの展望はないと記されていたが、樹間から燕巣山や四郎岳、そして燧ケ岳などが見えた。

   避難小屋に戻り、ワカンを外して湿原を後にする。 さすがに午後に入ると雪が緩み、小さな踏み抜きを繰り返しながら下る。 3時半に日光沢温泉に着き、留守番の妻に電話を入れた。 日光沢温泉から女夫淵温泉への奥鬼怒歩道では、昨日と同じように誰とも出会わず、5時過ぎに女夫淵温泉の広い駐車場に着いた。


風が弱くなった8時に幕場を出発する


幕場から明瞭な尾根上の登山道で鞍部に下る


鞍部の手前から見た黒岩山(中央奥)


鞍部の手前から見た2120m峰


2120m峰の山頂


2120m峰の山頂から見た鬼怒沼山


2120m峰の山頂から見た燕巣山(左)・四郎岳(中央)・物見山(右)


2120m峰の山頂から見た黒岩山


2120m峰の山頂から見た赤安山と会津駒ケ岳(左奥)


2120m峰の山頂から見た燧ケ岳


鞍部から鬼怒沼湿原に向かう途中で再びS藤さんとすれ違った


鬼怒沼湿原の北端から見た物見山


物見山への登りは雪が良く締まっていたのでラッセルすることもなかった


物見山の山頂


物見山の山頂から見た燕巣山


湿原の積雪は予想より少なく、すでに輪郭が見えている沼もあった


日光沢温泉から女夫淵温泉への奥鬼怒歩道


2 0 1 6 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P