《 11日 》 社山 ・ 黒檜岳
歌ケ浜 〜 阿世潟 〜 阿世潟峠 〜 社山 〜 1816m峰 〜 黒檜岳 (往復)
相棒の妻が用事で山に行けず、1年ぶりの単独行となったので、昨年の同時期に奇しくも単独で行った日光の南岸尾根を社山(1826m)から1861m峰を経て黒檜岳(1976m)まで往復することにした。 前日の夜に日光に向かうと、降雪はないがいろは坂には強風で吹き溜まった雪が数センチ積もっていた。 湖畔の歌ケ浜駐車場に前泊して翌朝4時半に出発。 気温はマイナス7℃だが、風は収まり寒さはそれほど感じなかった。 湖岸の道は狸窪のゲートまで除雪されていたが、この時間帯から社山へ登る人はいないので先行者の足跡はなかった。 予想どおり狸窪のゲートを過ぎると、強風で吹き溜まった雪が先週末のトレースをリセットし、軽いラッセルとなったので、早々にスノーシューを履く。 阿世潟へと続く湖岸の道は暗かったことで多少のルーファンが必要だったが、昨年の記憶が役に立ち時間のロスはあまりなかった。 まだ暗い6時前に阿世潟峠への登山道が分岐する阿世潟に着き、前回と同じように所々で雪から出ている階段の木の杭を目印にルーファンしながら進む。
途中から周囲が明るくなってきたので登り易くなり、阿世潟から30分足らずで阿世潟峠に着いた。 ありがたいことに稜線上も風は殆どなく、先週末のトレースも残っていた。 積雪は新雪直後だった前回より明らかに少なく、つぼ足でも問題なく歩けそうだったが、トレースが期待出来ない社山から先の状況は分からないので、そのままスノーシューで登り続けることにした。 空には雲一つない予報以上の快晴となり足取りは軽い。 登山道を横切る鹿は人間慣れしているのか、5mの至近距離となるまで逃げようとしなかった。 7時ちょうどに半月山からのご来光となり、体感気温が一気に上がる。 見慣れた日光の山々の風景だが、やはり山から湖沼が見えるのは良いものだ。 県境の白根山の背後にも雲はなく、冬型は完全に消失したようだ。 西の方角には富士山も見えた。 昨日の強風で霧氷が全く見られないのが玉にキズだ。
予定よりも少し遅く8時前に社山の山頂に着いた。 山頂の山名板の位置を見る限り、前回より50センチほど積雪が少ない。 山頂の写真だけ撮って展望の良い南斜面に移動すると、これから向かう黒檜岳とその間にある南岸尾根のたおやかなピークが一望された。 風は相変らず無風に近く、マイナスの世界とは思えないほど陽射しで暖かい。 爽やかな朝の袈裟丸山・皇海山・錫ケ岳・白根山などの県境の山々の展望を充分満喫し、8時に社山の山頂を発って南岸尾根の縦走路に入る。 先週末の単独者のスノーシューのトレースが微かに見られた。 南岸尾根に入っても雪は少なく、最初の1750m峰との鞍部では雪が禿げて地肌が露出していた。 途中の1861m峰まではルートの記憶も新しく、次の1792m峰へは尾根通しではなく最短距離をトラバースしながら進む。 1750m峰の先でも地肌が露出している所があったが、トータルではつぼ足で歩くよりスノーシューの方がやはり快適で速い。 今回も1861m峰までは稜線漫歩となった。
ラッセルが全く無かったので、予定よりも少し早く9時過ぎに1816m峰に着いた。 前回と同じように快晴無風となった山頂からの展望には独特の開放感があり、何度訪れても良い所だ。 南岸尾根を歩いている人は誰もいないようで、温かいコーヒーを飲みながら一人悦に入る。 ここからは積雪期には初めて辿ることとなるが、無雪期に歩いたのも遠い昔なので、初めて歩くのと同じだ。 1816m峰から緩やかに少し下り、片側が崖となっている小さなピークを越えると広い扇状地となり、鹿たちが飛び跳ねていた。 積雪がそれまでと比べて多くなり、所々で軽いラッセルとなった。 扇状地の末端には地味な道標があり、そこが登山道であることが分かった。 道標からは傾斜のやや緩い広い尾根を直登し、左手に大平山(1959m)を望みながら1時間足らずで1926m地点と思われる所に着いた。 社山もだいぶ遠くなった。
1926m地点から先はちょっとした樹林帯になっていたが、そこを過ぎると社山・黒檜岳・大平山の三叉路の分岐となった(道標の表示は『社山/黒檜岳』)。 意外にも、微かなトレースの跡が黒檜岳と大平山の両方に見られた。 地形図には南岸尾根に登山道は記されていないが、登山地図には破線の登山道が記されている。 計画では現場判断で、道標から先に目印やテープ類があればそれに従い、無ければ1954m峰を絡める屈曲した登山道ではなく、山頂の方向へ平坦地を直進することに決めていた。 明るく眩しい無木立の稜線から、それとは正反対の木々の密集したうす暗い樹林帯の中に足を踏み入れる。 トレースの跡はすぐに無くなったが、分岐の道標から50mほどの所に日光の山で良く見られる四角いプレートの目印やテープ類が見られたので、そこが何らかのポイントであることが分かった。 このままスムースにいけば黒檜岳の山頂まではもう30分ほどの所まで来ているので、この目印を起点に次の目印とテープ類を探しながら進んだが、何故か付近には次の目印が見当たらなかった。 この辺りがこのルートで一番迷い易い所なので、それなりの物はあるだろうと予想していたので意外な感じがした。
目印やテープ類がなかったので、当初の計画どおり山頂の方向へ平坦地を直進する。 起点から100mほど歩いた所から先は樹間が詰まり歩きにくくなってしまったので一旦少し引き返し、樹間が開いている所を選んで進むと、次第に緩やかな登りとなった。 道型もなくテープ類も一切ないが登り易い。 間もなく片側が明るく開けた平坦な所に出たが、どうやらそこは1954m峰の一角のようだった。 しばらく周囲を徘徊してみると1954m峰だという確信が持てた。 古いテープ類もいくつか見られたが、それが黒檜岳へのものか大平山へのものかは分らなかった。 再び最初の平坦地まで引き返し、進路を少し修正して進んでみたが、何故か再び1954m峰の一角に出てしまった。 そこが本当に1954m峰なのか、再び疑問が湧いてきたので、その先をしばらく進んでみると社山が見え、大平山の方向に向かっていることが分かった。 仕方なく再び引き返し、最初の『社山/黒檜岳』の道標の所まで戻った。
いつの間にか正午となってしまい、気温の上昇でスノーシューが下駄を履くようになってきたので、ラストチャンスに賭け、高度計で1920mと1930mの間を維持しながら、再び最初に辿った樹間の詰まった平坦地を先ほど引き返した地点からさらに200mほど進んでみると、突然四角いプレートの目印があらわれた。 その後は50mほどの間隔で頻繁に目印が見られ、黒檜岳への緩やかな登りとなった。 黒檜岳の山頂は登山道から少し外れているが、その分岐の道標には『社山/千手ケ浜』とだけ記され、黒檜岳の表示は愛好家がブリキの板に山名を書き込んだものだけだった。 千手ケ浜方面からのトレースもなく、分岐からは愛好家が付けたテープ類を頼りに進み、予定よりもだいぶ遅く1時前にようやく人待ち顔の黒檜岳の山頂に着いた。
濃い樹林に囲まれた地味な山頂は展望に恵まれず、雪もどんどん重くなってきているので、写真を撮っただけでトンボ返りで引き返す。 帰路はルーファンが不要なので、最後の四角いプレートの目印があった所から他の目印やテープ類を探しながら歩いたが、やはりそれらは一切見られず、登山地図に記された破線の登山道がどこを通っているのかを解明することは出来なかった。 大平山も未登だったので、この機会に登っておこうかとも思ったが、いつか無雪期にここを再訪し、この疑問を解明することを誓って分岐の道標を後にした。
トレースのついた下り基調の往路は再び快適な稜線漫歩となり、写真を撮ったりコーヒーを飲んだりしながら歩いたにもかかわらず、あっという間に1861m峰を通過し、分岐の道標から1時間半ほどで1750m峰に着いた。 意外にも山頂には大日崎方面からの尾根を登ってきたワカンのトレースがあり、社山へと続いていた。 3時過ぎに社山に戻ると、ちょうどこれから下山する女性二人のパーティーと出会ったが、後でこの二人がワカンのトレースの主であることが分かった。 もう誰もいなくなった山頂で最後のコーヒーを飲み干し、スノーシューを外して下る。 明るいうちに歌ケ浜に着く予定だったが、阿世潟を過ぎた所で愛用のオーバーグラスを落としたことに気付き、1時間近く探しに戻ったため、歌ケ浜への到着は日没後となってしまった。