2  0  1  5  年  1  2  月  

《 19日 〜 20日 》    上河内岳 ・ 茶臼岳

   沼平 〜 横窪沢小屋(泊) 〜 茶臼小屋 〜 上河内岳 〜 茶臼岳  (往復)

   今年の冬は暖冬に加え、12月に入ってから甲信南部の山にまとまった雪が一度も降っていない。 今山に積もっている雪は11月の最後の三連休の後に降った雪だ。 冬至も近く山では一番条件の悪いこの時期の週末に、晴天で風の弱い予報が出た。 先日登り損なった農鳥岳へのリベンジも頭に浮かんだが、新たな風景を求めて畑薙ダムからのルートで上河内岳に登ることにしたところ、直前に山仲間のkana−catさんもご一緒してくれることになった。 畑薙大吊橋を渡って茶臼小屋に登るルートは実に23年ぶりだ。

   無雪期に1泊2日で上河内岳を登る場合には間違いなく茶臼小屋(2410m)をB.Cとするだろうが、積雪期に登る場合には途中にある横窪沢小屋(1620m)も選択肢の一つになる。 今回は茶臼小屋に泊まるか、横窪沢小屋に泊まるかについて事前にかなり悩んだが、茶臼小屋の先の稜線の分岐から上河内岳へは二重山稜となっているため、積雪期の未明ではルーファンが難しく、茶臼小屋に泊まっても早立ちが出来ないこと、そして茶臼小屋の水場が使えない可能性があることを考え、最終的に横窪沢小屋に泊まることにした。

   土曜日の9時半にkana−catさんと待ち合わせた畑薙第一ダムの先の沼平の駐車場に着くと、意外にも山仲間の西さん&セッちゃんの車が停まっていた。 ゲートの脇の工事事務所の方に話を伺うと、お二人は7時過ぎに出発されたことが分かった。 その時間であれば今日は茶臼小屋に泊まられるということだろう。 上河内岳に登るタクティクスは違ったものの、同じ日に同じ山を目標にしていたことが分かり嬉しくなった。


畑薙第一ダムから見た上河内岳


沼平の駐車場には山仲間の西さん&セッちゃんの車が停まっていた


   10時過ぎに駐車場を出発。 予想外の出来事に気を取られたのか、林道を10分ほど歩いた所でアイゼンを車に忘れたことに気が付き慌てて引き返す。 のっけから大チョンボで先行きが危ぶまれたが、畑薙大吊橋の前のバス停で待っていた妻たちと長さ182mの大吊橋を渡る。 大吊橋を渡ってから急坂をひと登りしたヤレヤレ峠からウソッコ沢に向けて150mほど緩やかに下り、ウソッコ沢に架かる小さな吊橋を4つ渡ってウソッコ沢小屋(1170m)に予定より少し早い12時半前に着いた。 ここまでのルートの記憶は全く無かったが、ヤレヤレ峠やウソッコ沢小屋といったカタカナの名前だけが記憶に新しかった。 

   ウソッコ沢小屋から横窪峠(1650m)までは大量の落葉が堆積した急坂の登りが続く。 予想どおり横窪峠までの南東斜面の登山道には雪が全く見られなかった。 横窪峠からは上河内岳の山頂部分が良く見えたが、山肌の積雪はこの時期としては明らかに少なかった。 峠から横窪沢小屋に下る途中の日陰には僅かばかりの雪片が見られた。 予想よりも早く横窪沢小屋には2時過ぎに着いた。 山小屋には先客はおらず、西さん&セッちゃんは茶臼小屋まで行ったようだ。 頑張れば日没くらいには茶臼小屋に着けそうだったので、再度どちらの山小屋に泊まるか悩んだが、茶臼小屋までのトレースがあることが確実になったことで明日の行動時間を予定よりも短く出来るため、当初の計画どおり今日はこの山小屋に泊まることにした。

   2階建の大きな山小屋は1階の20畳くらいのスペースが無料開放され、土間もあって使い易かったが、午後は陽が当たらないので室内は寒く、室温は2度しかなかった。 小屋の脇を流れる横窪沢はこの時期でも水量が多く、通年使えそうだった。 予想どおり山小屋には誰も訪れることなく、私達だけで貸し切りとなった。 この先2000m辺りまでは登山道に雪が無さそうだったので、明日の下見を僅か5分ほどで終え、静かな山小屋でゆっくり寛ぐことにした。


畑薙湖と畑薙大吊橋


長さ182mの大吊橋を渡る


大吊橋からヤレヤレ峠へ


ウソッコ沢に架かる小さな吊橋を渡る


ウソッコ沢小屋手前の急坂


ウソッコ沢小屋


ウソッコ沢小屋の内部


ウソッコ沢小屋から横窪沢小屋へ


横窪峠から見た上河内岳


横窪沢小屋


横窪沢小屋の内部


静かな山小屋でゆっくり寛ぐ


   翌朝は当初の計画よりも少し遅く3時半過ぎに横窪沢小屋を出発。 登頂をより確実にするため、念のためワカンを持っていく。 良く踏まれた明瞭な登山道が幅の広い尾根を小さくジグザグを切りながらほぼ一直線につけられており、積雪もないのでルーファンの必要は全く無かった。 稜線に上がってからのラッセルを想定し、意識的にスローペースで登るが、それでも1時間で400mほど登れてしまう。 2週間前の農鳥岳の時と比べたら天と地の差だ。 今日は風の弱い予報だったが、山小屋から1時間ほど登った辺りから冷たい風が吹き始め、予報が外れたのではないかとヤキモキする。 樺段という標識のある所(2200m)からようやく登山道に雪が見られるようになり、しばらくすると風は無くなった。

   茶臼小屋へのトラバースが始まる2400m地点からは積雪が少し多くなったが、西さん&セッちゃんのトレースに助けられスムースに登れた。 東の空が茜色に染まり始めると森林限界となり、富士山のシルエットが神々しい。 予定よりも少し早く6時前に茶臼小屋に着いた。 意外にも山小屋にいた西さんから、セッちゃんだけが4時半に出発して上河内岳に向かったという話しがあった。 昨日茶臼岳の直下まで登ったので、稜線までトレースはあると西さんから教えてもらった。 茶臼小屋も西さん&セッちゃんだけで貸し切りだったとのことで、今日この山域にいるのは仲間同志だけということが分かった。 2階建の茶臼小屋は2階の一部が無料開放され、横窪沢小屋よりもさらに快適そうだった。 山小屋の直下の細い沢はまだ完全に雪に埋もれてなかった。


3時半過ぎに横窪沢小屋を出発する


良く踏まれた明瞭な登山道は積雪もないのでルーファンの必要は全く無かった


樺段という標識のある所(2200m)からようやく登山道に雪が見られるようになった


東の空が茜色に染まり始めると森林限界となり、富士山のシルエットが神々しかった


2400m地点から茶臼小屋へは、西さん&セッちゃんのトレースに助けられスムースに登れた


茶臼小屋から見た富士山


   山小屋のテラスでアイゼンを着け、当初の計画どおり周囲が明るくなった6時半に出発。 予想以上の良い天気に足取りは軽かったが、稜線に近づくにつれて風が再び強くなってきた。 10分ほどで稜線が見え始めると、意外にも私達を呼ぶ声が聞こえ、セッちゃんらしき人が上河内岳方面から下ってくるのが見えた。 その直後にご来光となり、山小屋から15分ほどで稜線に着いた。 モルゲンロートに染まる妖艶な聖岳や兎岳が目に飛び込んできたが、予報に反して稜線は風が強く、上河内岳方面には雪煙が舞っていた。 間もなくセッちゃんと出会ったが、私達が登ってきたことをたった今、西さんとの電話で知ったようで驚いていた。 セッちゃんは暗闇の中で広い尾根を西から巻く登山道が見つけられず、二重山稜となっている尾根に引き込まれてしまい、時間切れで引き返してきたとのことだった。 上河内岳は諦めてこれから茶臼岳に登るというセッちゃんを見送り、私達は計画どおり上河内岳に向かう。 稜線の積雪は10センチほどしかなく、まるで残雪期のように雪が締まっていたので、ラッセルすることもなく歩けた。 登山道の道型もそれとなく分かったので、明るければセッちゃんも道を失うことはなかっただろう。


周囲が明るくなった6時半に茶臼小屋を出発する


西さん&セッちゃんのトレースを辿って稜線に登る


セッちゃんらしき人が上河内岳方面から下ってきた


稜線に着いた直後にご来光となった


稜線でセッちゃんと出会う


稜線の分岐から上河内岳に向かう


茶臼岳を登るセッちゃん


広い尾根を西から巻く登山道を辿る


    登山道どおり稜線の西側をトラバース気味に巻きながら下ると、風がさらに強くなってきたのでダウンジャケットを着込んだが、それ以降は風に苛まれることは無かった。 稜線から50mほど下ると二重山稜の間の亀甲状土の広い雪原となり、正面に上河内岳の頂稜部が見えた。 危惧していた雪原の積雪は稜線と何ら変わらず、ワカンの出番は無くて助かった。 トレースはないが、少し凹んだ登山道の道型が明瞭でルーファンの必要も全くなかった。 左側の尾根を登山道に沿って背の低い木々の間を抜けて乗越すと、お花畑と登山地図に記された広い平坦地となった。 お花畑は日溜りとなっていて暖かく、手袋も要らないほどだった。 

   オアシスのようなお花畑で一息入れ、地形図を再確認して次の目標の竹内門(2600m)という奇岩を目標にして森林限界となった左の尾根に取り付く。 眼前にピラミダルな上河内岳の頂稜部が大きく迫る。 風は時々吹くが、予報どおりこの時期にしてはそよ風程度で助かった。 尾根上の登山道の道型は相変わらず明瞭で、ラッセルもルーファンもせずに竹内門を通過し、山頂直下の鞍部までさらに顕著になった尾根を足取りも軽く登る。 山頂直下の鞍部から山頂への急斜面をジグザグを切りながら登ったが、雪の状態がとても良かったのでピッケルやロープは不要だった。


二重山稜の間の亀甲状土の広い雪原から見た上河内岳の頂稜部


亀甲状土の広い雪原の積雪は稜線と何ら変わらず、ワカンの出番は無くて助かった


亀甲状土の左側の尾根を登山道に沿って背の低い木々の間を抜けて乗越す


オアシスのようなお花畑は日溜りとなっていて暖かかった


森林限界となった左の尾根に取り付くと眼前にピラミダルな上河内岳の頂稜部が大きく迫った


尾根上の登山道の道型は相変わらず明瞭で、ラッセルもルーファンも不要だった


奇岩竹内門(帰路の撮影)


竹内門から見た上河内岳の頂稜部(帰路の撮影)


竹内門の上から見た光岳(中央奥)と茶臼岳(左端)


山頂直下の鞍部までさらに顕著になった尾根を足取りも軽く登る


山頂直下の鞍部から山頂への急斜面をジグザグを切りながら登る


待望の上河内岳の山頂へ


   予定よりもだいぶ早く9時前に待望の上河内岳(2803m)の山頂に着く。 これ以上望めないほどの素晴らしい青空に興奮が覚めやらない。 風も殆ど無く、この時期としては稀に見る穏やかな山頂に45分も滞在し、暖かいコーヒーを飲みながら360度の大展望を満喫した。 もちろん上河内岳も私達だけで貸し切りで、昨今の登山ブームとは無縁に周囲に人影は全く無かった。


 

上河内岳の山頂


上河内岳の山頂


上河内岳の山頂


山頂から見た大無間山


山頂から見た笊ケ岳(中央)


山頂から見た茶臼岳


山頂から見た聖岳(中央) ・ 兎岳(左) ・ 赤石岳(右) ・ 荒川岳(右端)


この時期としては稀に見る穏やかな山頂


   久々に会心の登山が叶い、意気揚々と往路を引き返す。 風はさらに弱まり、気温は低いが陽射しの強さで春山のように暖かい。 夕方からは曇るという予報は良い方に外れ、茶臼小屋への分岐に着いても上空には雲一つなかったので、この機会を逃さずに茶臼岳にも登ることにした。 分岐からはセッちゃんのトレースのお蔭で労せずして20分ほどで茶臼岳(2604m)の山頂に着いた。 山頂からは上河内岳の眺めが特に素晴らしく、あらためて登頂が叶った喜びが湧いてきた。 

   いつまでも誰もいない静かな山頂や稜線に佇んでいたかったが、日が短いので重い腰を上げて下山にかかる。 茶臼小屋でアイゼンを外して一息入れ、予定よりも少し遅く正午過ぎに再訪を誓って茶臼小屋を発つ。 健脚のkana−catさんには先に行ってもらい、疲れた足を労りながら下ったが、重荷を背負っていないので1時間少々で横窪沢小屋に着いた。 横窪沢小屋で再度kana−catさんを見送り、私達は2時前に山小屋を発ってゆっくり下り、日没ちょうどの5時に沼平の駐車場に着いた。


上河内岳から茶臼岳へ


上河内岳から茶臼岳へ


お花畑から見た茶臼岳


亀甲状土の広い雪原


上河内岳から茶臼岳へ


茶臼小屋への分岐付近から見た茶臼岳


茶臼岳の山頂


茶臼岳の山頂


茶臼岳の山頂から見た仁田岳(手前)と光岳(奥)


茶臼岳の山頂から見た中央アルプス


茶臼岳の山頂付近から見た上河内岳と聖岳(左端)


正午前に茶臼小屋に着いた


茶臼小屋の内部


日没ちょうどの5時に沼平の駐車場に着いた


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