《 18日 》 浅草岳
入叶津 〜 浅草岳 〜 嘉平与ボッチ 〜 浅草岳 〜 山神の杉 〜 沼ノ平 〜 入叶津 (往復)
翌朝は5時半に舘ノ川公園の駐車場を出発。 駐車場から入叶津の登山口までは7キロほどだった。 意外にも入叶津の登山口には20台以上の車が停められるほどの広い駐車場と、仮設ではあるが2基のトイレもあり、すでに車が4台停まっていた。 登山道の入口には沼ノ平の立入規制区域が記された古い地図と、入山者をカウントするセンサーが設置されていた。
6時に登山口を出発し、只見特有の幻想的な朝霧の中を歩き始める。 標高はまだ低いがブナやホウバの木々が見られるようになり、登山口から1時間足らずで山神の杉という標柱が立つ沼ノ平との分岐に着いた。 沼ノ平への登山道の入口にはトラロープが張られていたが、“通行禁止”というような表示はされていなかった。 沼ノ平には帰路に立ち寄ることにして左の尾根に取り付く。 ブナの木々が一段と大きくなり、紅葉もそれなりに美しくなってくる。 足元のおびただしい数の落葉も色鮮やかだ。 8時前に標高1000mのラインを超えると、ようやく樹間からのご来光となった。 沼ノ平への登山道が再び分岐する地点までは起伏が緩やかだったが、芸術的なブナの紅葉に目が奪われ、足が全く前に進まなくなってしまった。 毎朝繰り返される只見特有の朝霧でこのような素晴らしいブナの大木が育つのだろう。
沼ノ平との分岐に着くと、先ほどと同じようなトラロープが登山道の入口に張られていたが、ここにも“通行禁止”というような表示はなく、「只見町のガイドと一緒に登山して下さい」という案内板がさり気なく置かれていた。 帰路はこの分岐から沼ノ平へ下る予定だったが、ここまでの素晴らしいブナ林に魅せられ、同じルートを往復しても良いとさえ思えた。 沼ノ平との分岐から先は尾根が一段と顕著になり、 朝霧の雲海の向こうに島のように浮かぶ会津の山々の頂が見えた。
葉が落ちて赤い実をつけたナナカマドを愛でながら、癒し系の登山道を緩やかに登っていく。 登山地図には避難小屋跡と記されている小三本沢の源頭は草紅葉の斜面になっていて、残雪期のスキーに人気があることが頷けた。 草紅葉の斜面の縁を足取りも軽く登っていくと新しい木道が現れ、天狗の庭と名付けられた山頂直下の平らな草原に着いた。 ここまでは殆ど人に出会わず静かだったが、浅草岳の山頂は大勢の人で賑わっていると思われたので、眼下の田子倉湖を眺めながらゆっくり寛ぐ。 周囲には古くなった木道を新しいものに付け替えるための資材が置かれていた。
10時に大勢の人で賑わう浅草岳の山頂に着く。 3年前にスキーで滑った早坂尾根を含め、山頂に至る全ての登山道が繋がったが、今日登った入叶津からの沼ノ平ルートはコンパクトながら癒しの殿堂とも言えるほど素晴らしいルートだった。 あいにく昨日登った守門岳付近には少し雲が湧いていたが、逆光ながら鬼ケ面山の切り立った斜面の紅葉が素晴らしかった。 山頂では休まずに写真だけ撮って展望の良い嘉平与ボッチに向かう。 前岳を経て嘉平与ボッチ付近までは無木立の稜線漫歩だ。 猫の額ほどの狭い嘉平与ボッチの山頂で周囲の山々の展望と足元に広がる紅葉を満喫し、喧噪の続く浅草岳の山頂に戻った。 再び浅草岳の山頂を素通りし、少し下った天狗の庭の草原でゆっくり寛ぐ。
正午前に重い腰を上げ、今日のメインイベントの沼ノ平に向かう。 順光となった帰路はブナの紅葉が一段と鮮やかになった。 沼ノ平との分岐の手前で、眼下に沼ノ平にあるいくつかの沼が見えた。 1時に沼ノ平との分岐に着き、トラロープの先の急斜面だが明瞭な登山道を下る。 すぐにそれほど古くない木の階段が見られたので、このまま順調に下っていけそうな感じがしたが、分岐から標高差で120mほど下った所で登山道は地形図に反して右方向に折れ、そこから先は急に不明瞭になってしまった。 しばらく獣道のような細い踏み跡をトラバース気味に辿ってみたが、とても登山道とは思えないような危ない道だったので、一旦右方向に折れた所まで引き返し、付近をつぶさに観察してみたが、地形図どおり真っ直ぐに沼ノ平へ下る道は見当たらなかったので、無理をせず分岐まで引き返すことにした。 予想外の理由で沼ノ平への道を下れず残念だったが、分岐から先のブナ林の素晴らしさがその悔しさを充分癒してくれた。
沼ノ平との下の分岐からは、先に下山するという妻と別れ、1時間ほどで引き返すことを心に誓って私のみ再び沼ノ平に向かう。 トラロープの先の紅葉が始まったブナ林の中を足早に進んでいくと、ブナ太郎(折れていた)・ブナ次郎と名付けられた太いブナの木があり、先ほどその源頭を渡った小三本沢に向けて少し下る。 小三本沢には新しいトラロープが張られていたので、労せずして沢を渡ることが出来た。 沢を渡ってからの登山道も明瞭で、所々にあるピンクのテープに従って10分ほど歩くと、先ほど上から見えた笹沼の畔に着いた。 静寂の笹沼はとても神秘的でゆっくり佇んでいたかったが、時間に制約があるので先に進む。 風穴と記された小さな白い標柱の先に、以前は幕場でもあったかのような整地された場所があった。 沼ノ平との分岐から30分ほど歩いたので、再訪を誓ってここで引き返すことにした。 帰路も30分ほどで沼ノ平との分岐に着き、4時過ぎに妻の待つ登山口の駐車場に着いた。