《 2日 〜 4日 》 前烏帽子岳 ・ 三ツ岳西峰 ・ 野口五郎岳 ・ 水晶岳
七倉 ⇒ 高瀬ダム 〜 前烏帽子岳 〜 烏帽子小屋(冬期小屋泊) 〜 三ツ岳西峰 〜 野口五郎岳 〜 水晶岳 〜 野口五郎岳 〜 三ツ岳西峰 〜 烏帽子小屋(冬期小屋泊) 〜 高瀬ダム ⇒ 七倉 (往復)
5連休となった今年のGWは最後まで中日となる3日目の天気予報が確定せず、また例年に比べてどの山域もかなり積雪が少ないことが予想されたので、計画も直前まで決まらなかったが、急遽山仲間のハイジさんがご一緒することになったので、烏帽子小屋の冬期小屋をベースに水晶岳を登ることにした。
道の駅『池田』に前泊し、翌朝登山口の七倉に向かう。 さすがにGWの初日ということで、七倉の駐車場には高瀬ダムへのタクシーを待つパーティーの姿が見られた。 7時半に高瀬ダムを出発。 予報以上の快晴の天気で気持ち良い。 不動沢のトンネルの出口で単独の若い方が追い越して行ったが、結果的に私達が最後の入山者となり、私達の後からは誰も登ってこなかった。 積雪は非常に少ないと予想していたが、さすがにまだGWということでブナ立尾根の登山口付近の沢筋には残雪が見られた。
2年前の5月にもブナ立尾根を登っているので、ルートの記憶は新しい。 登山口から40分ほど登ると、残雪が所々で登山道を覆うようになったが、先行者の新しいトレースのお蔭で労せずして進むことが出来た。 登山口から2時間ほど登った1700m付近からは残雪を踏んで登るようになったが、尾根が痩せている所では登山道に全く雪が無く、その状況を交互に繰り返しながら登っていく。 前回はアイゼンを着けてルーファンしながら登った急斜面を、今日は先行者の新しいトレースのお蔭でアイゼン無しで登れた。 当初はトレースを全く期待していなかったので、途中の2208mの三角点付近での幕営も考えていたが、思わぬところでGWの恩恵を受けることになった。
間もなく先行している団体のパーティーの後ろ姿が見え始め、核心部の『タヌキ岩』の手前で休憩していた男女6人のパーティーに追いついた。 意外にもそのパーティーのリーダーは山岳ガイドの山田哲哉さんで、他のメンバーは氏が主催する『風の谷』の会員さんということだった。 山田さんはとても気さくな方で、今回の山行の行動計画を初対面の私にも詳細に教えてくれた。
休憩場所からは山田パーティーと相前後しながら登る格好となり、核心部の『タヌキ岩』も全く問題なく正午に通過することが出来た。 2208mの三角点を過ぎると山々の展望が良くなり、眼前の黒々とした不動岳の背後に針ノ木岳や蓮華岳が見えるようになったが、予想どおり稜線の残雪は異常に少ないことが分かった。 木々が疎らになった痩せ尾根をしばらく登ると、ダケカンバが点在する広い斜面となり、山々の展望を愛でながらの気持ちの良い登高となる。 残雪の少なさとトレースのお蔭で、予定よりもだいぶ早く1時半に烏帽子小屋の裏手の稜線(2551m)に着いた。
山田パーティーは山小屋の少し上で幕営するとのことだったが、私達は予定どおり烏帽子小屋の冬期小屋に泊まることにした。 山小屋の軒先では先行していた2人のパーティーが寛いでいたが、そのうちの一人の方から「青空山岳会さんではないですか?」と声を掛けられて驚いた。 話を伺うと、5年前の秋に山仲間の西さん&セッちゃんとご一緒した和名倉山の山頂で写真を撮り合ったNさんだということが分かった。 今回の山行は3泊4日で、野口五郎・水晶・鷲羽・黒部五郎・双六を踏んで新穂高に縦走されるとのことだった。 当初は誰にも出会わないことを想定していたが、図らずも山田さんやNさんにお会いすることが出来きて嬉しかった。
水作りを終えてから、指呼の間の前烏帽子岳(2605m)に登る。 4時を過ぎても快晴無風の天気は続き、誰もいない静かな山頂からは眼前の烏帽子岳と南沢岳の間に立山が、針ノ木岳と蓮華岳の間に鹿島槍が遠望され、目標の水晶岳の頂が三ツ岳の横に微かに見えた。 5時前に烏帽子小屋に戻り、明日の下見と夕食の準備を始める。 登山口の手前で追い越していった単独の若い方は野口五郎小屋まで進まれたようで、その後は山小屋や幕場には誰も訪れず、明日水晶岳方面に向かうのは3パーティー、総勢11名ということになった。
翌朝はNさんのパーティーよりも一足早く、4時前に烏帽子小屋を出発。 予報どおり風は無く暖かい。 幕場では山田パーティーも出発の準備をしていた。 山小屋の周囲の残雪の尾根を5分ほど下ると、予想どおり登山道が完全に露出し、コースタイムどおり歩けるようになった。 朝焼けに染まる山々が綺麗だ。 東の空は雲がやや多かったが、次第に茜色に染まり始め、5時前に力強いご来光が拝めた。 山田パーティーが登ってくるのが見えた。 三ツ岳東峰の肩に上がる手前に一か所だけ短い残雪の急斜面があったが、昨日先行した方のトレースがあったので、アイゼンを着けずに登れた。
三角点のある三ツ岳東峰は登らずに右から巻き、岩のオブジェがユニークな三ツ岳西峰(2840m)の山頂にほぼ予定どおり5時半過ぎに着いた。 山頂からはそれまで三ツ岳に隠されていた水晶岳が良く見えるようになったが、その頂はまだ遥かに遠かった。 展望の良い山頂でゆっくり寛いでいきたいが、休憩もそこそこに先に進む。 三ツ岳西峰から野口五郎岳までは緩やかな登り下りの稜線漫歩だ。 引き続き登山道には残雪が見られず、2年前の5月下旬にここを歩いた時よりも山肌の雪も少ない感じだ。 昨日ほどの快晴ではないが、風の無い穏やかな天気でありがたい。 三ツ岳西峰から1時間半足らずで野口五郎小屋に着くと、健脚の山田パーティーが追いついてきた。 山田パーティーは小屋の前にテントなどの装備をデポし、水晶岳まで往復してからここで幕営するようだ。 野口五郎岳の山頂付近で僅かばかりの残雪を踏み、ほぼコースタイムどおり7時半前に野口五郎岳(2924m)の平らで広い山頂に着いた。 裏銀座の縦走路の先には真砂岳や鷲羽岳はもちろんのこと、笠ケ岳や乗鞍岳もはっきり見えるようになり、水晶岳もようやく現実的な距離感で捉えることが出来るようになった。
明日の悪天候の予報が嘘のように天気は安定していたので、展望に恵まれた貸切りの山頂でゆっくり寛いでから先に進む。 真砂岳との鞍部付近で初めて単独の山スキーヤーとすれ違う。 真砂岳の山頂には登らずに右から巻いていく。 湯俣へ下る竹村新道の分岐から先では、稜線の右側につけられた登山道が残雪で分断されるようになったため、先行者のトレースに従って稜線上の残雪の上を歩く。 さすがに北アルプスの中心に向けて残雪の量が多くなってきた。
2833m地点の手前で山田パーティーが追いつき、ここから水晶岳の山頂まで昨日と同じように相前後しながら登るようになった。 間もなく今日二人目の単独者とすれ違ったので、この先のルートの情報を簡単に伺うと、登山道が出ている所もあれば、アイゼンが必要な所もあるとのことだった。 尾根が屈曲する2833m地点は大岩が堆積し、南側の緩やかな残雪の斜面を通る。 2833m地点の先から東沢乗越へは登山道を歩けた。 東沢乗越に近づくと水晶小屋が見えるようになり、水晶岳もようやく近くなった。 登頂時間の目安となる東沢乗越(2734m)には、野口五郎岳からコースタイムどおり2時間足らずで歩いて9時半に通過出来たので、目標とした11時には水晶岳の山頂に着けると思ったが、意外にもここから水晶小屋までの短い区間が今日のルートの核心だった。
東沢乗越から水晶小屋への登りではそれまでと一変して稜線が痩せ細り、残雪も多くなった。 痩せた岩稜を登り始めると間もなく、登山道が残雪で分断されている所があり、岩稜にへばりつくハイマツを掴みながら高巻きして通過する。 その後も残雪混じりの歩きにくい痩せ尾根が続き、水晶小屋の直下では念のためロープを出してやや急な雪の斜面を登った。
東沢乗越から水晶小屋までコースタイムの倍以上の1時間半を要したので、山頂への到着予定だった11時ちょうどに水晶小屋に着いた。 薄雲が広がってきたが、風も無く天気は安定していたので、不要な荷物をデポし予定どおり指呼の間の山頂を目指す。 起伏のない残雪の尾根をしばらく歩くと登山道が出てきたのでアイゼンを外す。 今まで見えなかった黒部五郎岳や北ノ俣岳、そして雲ノ平などが見えるようになり、足取りも軽くなった。 途中一か所だけ短い残雪の急斜面があったものの、山頂直下ではまるで無雪期の山を登っているような感じとなり、正午前に16年ぶり4回目の水晶岳の山頂に着いた。 快晴の天気ではないものの、北アルプスの真ん中に位置する山頂からは、その全ての山々が見えると言っても過言ではなかった。 嬉しさのあまり足元に置いたストックを踏んづけて折ってしまったことが玉にキズだ。 間もなく山田パーティーも山頂に到着した。
ようやく辿りついた山頂でゆっくり寛いでいきたいところだが、帰路も長いので心を鬼にして正午に山頂を発つ。 中間点の野口五郎岳は遥かに遠く、烏帽子岳の手前までこれから戻るのは現実的とは思えなかった。 水晶小屋の手前で後続のNさんのパーティーとすれ違い、再会を誓ってエールを交換し合った。 水晶小屋でデポした荷物をピックアップし、一番の核心部の東沢乗越へ休まず下る。 山田パーティーもすぐに追いついてきた。 途中の藪の岩稜を通過している時に、ハイジさんの登山靴のソールが両方とも剥がれていることに気が付いたが、スパッツのバンドで上手く止まっていたので助かった。
東沢乗越手前の核心部を終えた所で一息入れる。 空の色が少し濁り始め雲が湧くようになったが、涼しくてかえって都合が良かった。 帰路はルーファンの必要が無かったので、水晶小屋から東沢乗越まで1時間で下れた。 東沢乗越から先は距離は長いが、登山道を歩くだけなので気は楽だ。 竹村新道の分岐まで山田パーティーと相前後しながら歩き、3時ちょうどに分岐の手前の鞍部に着いた。 野口五郎岳への長い登りに備えて鞍部でゆっくり休憩し、山田パーティーと一緒に竹村新道の分岐を発つ。 明日は天気が悪いので、山田パーティーはこの分岐から湯俣に下るとのことだった。 疲労のためかハイジさんの体調が少し悪くなり、歩みが捗らなくなってしまったが、何とか4時半前に中間点の野口五郎岳の山頂に着いた。 すでにその先の野口五郎小屋に着いていた山田ガイドが、突然ペースダウンした私達を心配して小屋の前から手を振って安否を気遣ってくれた。
野口五郎小屋に立ち寄り、心配していた山田ガイドに状況を説明すると、山田ガイドはすでに私達の受け入れ態勢を整えていてくれたようで、その心遣いには頭が下がった。 山田ガイドに見送られ三ツ岳西峰へ向かう。 ここからゴールの烏帽子小屋までのルートは熟知しているので、時間を気にせずゆっくり下ることを心掛ける。 三ツ岳西峰を過ぎると霧が湧き始めたが、6時半を過ぎてもまだ明るかったので助かった。 7時前に日没となり、ヘッドランプを灯しながら7時半前に烏帽子小屋に着いた。 意外にも冬期小屋には今日七倉から登ってきた男女二人のパーティーがいたので、到着が遅くなって迷惑をかけてしまったことをお詫びした。 明日は野口五郎岳まで往復されるとのことだったので、ルートの状況などを説明した。 夕食の準備をしながら明日の水作りをしていると、あっという間に10時になってしまった。
天気は予報よりも悪く、夜半から小雨が降り始めた。 今日は七倉に下山するだけなので、男女パーティーが出発するのを見送ってから朝食と下山の準備を始め、7時過ぎに冬期小屋を出発した。 運良く出発して間もなく雨は止み、薄日も射すようになった。 山の稜線は雲や霧で覆われているが、下界の天気はまだ持ちそうで安堵する。 雪の状態はあまり良くないが、トレースは十分残っているので、疲れた足を労りながら慎重に下る。 連休も中日となり天気も悪いので登ってくる人は誰もいない。 登りではアイゼンを着けずに歩けた所が、下りではアイゼンのみならずピッケルも必要となり、登り以上に時間が掛かった。 時々小雨がパラつくこともあったが、殆ど濡れることなく1時半前にブナ立尾根の登山口に着いた。 高瀬ダムにタクシーが停まってなかったので、専用の公衆電話を架けたが、100円玉では電話が使えず、仕方なく七倉まで歩こうと決心すると、その途端に団体客を乗せたタクシーが何台も七倉から到着して事なきを得た。
大町市営の『上原の湯』で汗を流し、市内のガストで今回の山行の写真を見ながら早めの夕食を食べ、予想された連休中の高速道路の事故渋滞に少し巻き込まれつつ帰途に着いた。