《 27日 〜 29日 》 小聖岳 ・ 上河内岳 ・ 茶臼岳 ・ 仁田岳 ・ 易老岳
通行止めゲート 〜 便ケ島 〜 聖平小屋(冬期小屋泊) 〜 小聖岳 〜 聖平小屋 〜 南岳 〜 上河内岳 〜 茶臼岳 〜 仁田池(テント泊) 〜 仁田岳 〜 易老岳 〜 易老渡 〜 通行止めゲート (周回)
GWの前半は山仲間の西さん&セッちゃんと一緒に、直前に降った新雪を利用して、十字峡からネコブ山を経て巻機山へ縦走することを計画していたが、新潟方面の天気予報が悪く、急遽一番天気予報が良かった長野県南部の山に行き先を変更した。 2年前のGWの前半に同じメンバーで聖平避難小屋をベースに南アルプスの聖岳(3013m)に登ったが、風が非常に強く天気も悪かったので、そのリベンジも兼ねて聖岳を登ることにし、さらに上河内岳から易老岳方面への縦走を2泊3日ですることにした。 出発直前に下栗の里から登山口の便ケ島へ通じる林道が土砂災害で昨年から通行止めになっているという情報を得たが、逆にそれならば山も静かだろうということで、行き先は変更しなかった。 中央道の『小黒川PA』で前泊し、翌朝飯田ICで高速を下りて矢筈トンネル経由で便ケ島へ向かう。 予報どおり早朝は気圧の谷の通過で天気が悪く、南アルプスの山並みは厚い灰色の雲に覆われていた。 連休に入ったので、通行止めが解除になっているのではという淡い期待もしていたが、無情にも便ケ島から6キロほど手前の道幅が広くなっている所に通行止めのゲートがあった。 通行止めの情報はすでに周知されていたのか、他に登山者の車は無かった。 ゲートの手前の広い路肩に車を停めて8時過ぎに出発。 ゲートには歩行者も通行止めと書かれていたが、自己責任で通行することにした。 間もなく道路の一部が崩落している所があったが、すでに補修工事は終わり、ここ数日で点検をしながら5月1日から通行出来るようだった。 ゲートから今回計画した周回ルートの下山口となる易老渡付近までは勾配の緩い舗装された道を1時間、易老渡の手前からは未舗装の道を30分ほど歩いて登山口の便ケ島に着く。 便ケ島から登山道の取り付きとなる西沢渡までは、ほぼフラットなアプローチの道だが、土砂崩れにより道が塞がれたり崩落している所が何か所もあり、歩きにくいばかりかとても危険で、一部では補助ロープを使わなければならず、コースタイムの倍の時間を要した。 西沢渡では沢の水流が多く、前回渡った木の橋も流出していたので、飛ぶのが得意な私以外は籠渡しを使って沢を渡った。 様々な障害が重なり、11時過ぎになってようやく登山道を登り始めた。 2年前に往復した登山道の記憶は新しく、ジグザグの急坂道を鮮やかな山ツツジ癒されながら登る。 薊畑の分岐まで下りのない標高差1300mの一気の登りだ。 昼前から回復して良い天気になるという予報は外れ、空は白く寒気の影響による冷たい風が吹いている。 予想どおり今年は他の山と同じように残雪が少なく、標高1900mを過ぎてからようやく登山道に雪が見られるようになったが、それも残雪ではなくここ数日で降った新雪だった。 雪の上にはトレースが無く、先行者がいないことが分かった。 溶けて凍った残雪の上の新雪が滑り易く、標高2000mの標識の手前でアイゼンを着ける。 登山道の道型は明瞭ではないが、要所要所にテープ類もあり迷わず進む。 雪が少なく気温も低いのでラッセルをすることはなかった。 西沢渡からは順調に4時間ほどで薊畑の分岐に着く。 鉛色の雲が低く垂れこめ、周囲に見えるはずの山々の頂を隠している。 どうやら寒気が強く天気予報は外れたようだ。 薊畑で一息入れてから今日の宿泊場所の聖平小屋に向けて下る。 分岐から先にもトレースは無かった。 4時前に聖平小屋に着いたが、無料開放されている冬期小屋の入口には1m近く雪が吹き溜まり、今シーズンはまだ誰も利用していないことが分かった。 20分ほどスコップで入口の雪を取り除いて扉を開ける。 小屋の傍らを流れる小沢は僅かに雪から顔を出していたので、水作りをしないで済んだ。 セッちゃんがボッカしてくれたサーモンと蟹で手巻き寿司を作り、ローストビーフと餃子の豪華な夕食に舌鼓を打った。 林道の通行止めのせいか、図らずも広い冬期小屋は私達だけで貸し切りとなった。
翌朝は小屋に荷物を置いたまま5時過ぎに聖岳に向かう。 今日は西さん&セッちゃんの珊瑚婚式の記念日とのことで、快晴無風の頂を目指す。 昨夜の打ち合わせで、もし前回同様天気が悪ければ無理して山頂は踏まず、小聖岳あたりで引き返すことにした。 ご来光を拝みながら雪の締まった快適な斜面を登り、薊畑の分岐まで20分ほどで着く。 予報どおり快晴の天気となったが、薊畑を過ぎてからの稜線では風が強くなった。 風はさらに強まるのか、次第に収まってくれるのかは神のみぞ知るところだが、少なくとも昨日の天気の状況を見る限りでは一日中快晴の天気が続くとは思えなかった。 トレースは無いが雪が少なくルートも良く記憶していたので登るペースは速い。 森林限界を超え、兎岳(2818m)や雪煙の舞う聖岳を仰ぎ見ながら、小屋から1時間少々で展望の良い小聖岳(2662m)に着いた。 眼前に大きく鎮座する聖岳はもちろんのこと、これから辿る上河内岳や茶臼岳、そして光岳方面への山々がすっきりと一望された。 風の強さは前回ほどではないが、迷わず前進するという状況ではなく、風の当たらない南側斜面でしばらく様子を見ながら、進退について協議する。 意外にも山頂方面から2人のパーティーが足早に下ってくるのが見えた。 雪は少なく一部では登山道も露出しているため、登る条件としてはとても良く、1時間半足らずで山頂を踏めそうだったが、2年前の破天荒を体験しているメンバー一同の思いは同じだった。 下山してくる2人のパーティーと情報交換するため留まった私以外は、一足先に下り始めた。 間もなく下ってきた2人のパーティーは中年の男性で、冬場のルートとして使われる椹島からの東尾根を登ってこられたとのことだった。 稜線の風はそれほどでもないが山頂は風が強かったとのことで、登らなくて正解だった。 皆の後を追い足早に小聖岳から小屋に下る。 予定よりもだいぶ早く小屋に戻ったので、ゆっくりと荷物をパッキングして9時前に小屋を出る。 意外にも私達が小屋にいる間に、新しいトレースが上河内岳(2803m)方面に向かっていたが、その時はそれが先程のパーティーのものだとは思わなかった(聖平小屋を経て椹島方面に下ると考えていた)。 嬉しいことに天気は安定し、稜線の風も収まってきているように思えた。 聖岳の山頂は逃したが、その分これから向かう上河内岳方面の稜線を条件の良い時間帯に辿れるメリットがある。 先行者の新しいトレースに関係なく、雪は締まっていて歩き易く、いかにもGWの山という感じだ。 周囲に人影は見えず、この静かさが何よりも心地良い。 聖平小屋から1時間ほどで森林限界を越えると、抜けるような青空を背景に聖岳の東尾根や兎岳が見えた。 南岳の直下では登山道が露出している所もあり、無雪期と同じようなペースで登れる。 先行しているパーティーの姿が前方に見えたが、逆方向からの縦走者は今のところ全く見えない。 聖平小屋を出発してからちょうど2時間で最初のピークの南岳(2702m)の頂に着く。 山頂はたおやかだがその分雪が多い。 眼前にはボリューム感一杯の上河内岳が鎮座し、聖岳の右奥に赤石岳と悪沢岳が見えた。 大井川の源流の谷を挟んで連なる白峰南嶺の笊ケ岳にも手が届きそうだったが、その山肌はすでに黒くなっていた。 南岳から上河内岳に向かう途中で、空身で上河内岳から下ってきた先ほどのパーティーとすれ違った。 天気が良かったので、聖平小屋から椹島方面に下る前に上河内岳をピストンされたのだろう。 結局今回の山行中に出会ったのはこのパーティーだけだった。 見た目よりも楽に上河内岳直下の分岐に着くと、雪が禿げて標柱が出ていた。 分岐に荷物をデポし、指呼の間の上河内岳の山頂に向かう。 所々で夏道が露出した斜面を5分ほど登り、正午過ぎに待望の上河内岳の山頂に着く。 広い山頂は聖岳の絶好の展望台のみならず、大無間山(2329m)や信濃俣(2331m)など深南部の山々の眺めも良く、皆で山座同定を楽しむ。 先日登った奥念丈岳も御嶽山と重なって遠望され、西さん&セッちゃんの珊瑚婚式の記念に相応しい大展望だ。 30分近く静かな山頂で寛ぎ、重い腰を上げて今回の山行のハイライトとなった山頂を辞する。 分岐で荷物をピックアップして茶臼岳方面へ下る。 茶臼小屋に泊まって午前中に上河内岳へ登った人は少なかったようで、トレースは少なかった。 所々で登山道が露出していたが、硬く締まった雪の上を歩く方が早い。 広い稜線の残雪は少ないが、ここ数日の新雪でGWとは思えないほど山が白くて綺麗だ。 茶臼岳が近づくと緩やかな登り下りの繰り返しとなった。 2時に茶臼小屋へ下る道との分岐に着く。 聖岳を登った場合は茶臼小屋での宿泊を考えていたが、まだ時間も早く天気も安定しているため、茶臼岳を越えて仁田岳方面に進むことにした。 茶臼小屋との分岐から20分ほどで労せずして茶臼岳(2604m)の山頂に着く。 聖岳はもちろんのこと、上河内岳もすでに遠くなった。 今日の最後の頂で一息入れてから仁田岳方面に進む。 当初は展望が良く静かな仁田岳の山頂での幕営を考えていたが、トレースの無い広い稜線は誰も訪れる気配が無かったので、仁田岳への分岐となる希望峰までの間に平坦地を探しながら緩やかに下って行くと、幕場に相応しい小広く開けた平坦地があった。 おそらくここが無雪期に仁田池が出現する場所だろう。 茶臼岳や仁田岳やのみならず聖岳と兎岳も見える素晴らしいロケーションだ。 西さんが作ってくれた雪のテーブルで、西さん&セッちゃんの珊瑚婚式を祝いながら楽しい夕宴となった。 夕焼けショーも充分堪能し、満たされた気分で静かな稜線の夜を過ごした。
縦走3日目はテントを撤収し、仁田池の幕場を6時過ぎに出発する。 昨日のような快晴の天気ではないが、清々しい爽やかな朝の空気の中を仁田岳方面に向かって漫歩する。 今日は基本的に下り基調で、仁田岳への分岐となる希望峰へは20分ほどで楽々着いた。 分岐に荷物をデポし、指呼の間の仁田岳の山頂に向かう。 締った雪でとても歩き易く、僅か15分ほどで今日のハイライトとなる仁田岳(2523m)の山頂に着く。 西さん&セッちゃんは初めての登頂ということだった。 光岳(2591m)と隣接するイザルケ岳(2540m)が朝陽に照らされ、静岡県の山らしく大無間山や信濃俣も近くなり、眼下の畑薙湖の先には十枚山などの安倍奥東山稜の山々が望まれた。 今日一番の展望をゆっくり堪能し、稜線の分岐の希望峰に戻る。 希望峰からの下りは終始樹林帯の中となったが、積雪期にはあまり利用されてないのかテープ類は全く見られなかった。 尾根は顕著なので、木々の空いている所を選んで進む。 時々樹間から周囲の山々が望まれるものの、標高の割に地味な稜線だ。 不意に反対方向からの明瞭なトレースが足元に現れ、9時過ぎに最後の頂となる易老岳(2354m)に着いた。 雑木に囲まれた山頂は展望が無く、山名板も雪の下なのか、易老渡との分岐点を示す木に古い赤テープが唯一見られただけだった。 トレースがなければ通過してしまいそうな感じだ。 易老岳から光岳方面、そしてこれから下る易老渡方面にも5〜6人のトレースがあったので、易老渡から光岳を往復した人や、光岳から加加森山あるいは信濃俣方面へ縦走した猛者がいるのかも知れない。 日程に余裕があればこの先の光小屋で昼寝でもしていきたい気分だが、後ろ髪を引かれる思いで易老渡に下る。 昨日の好天と登山者の通行で溶けた残雪が氷化して滑り易くなっている所もあったが、1時間ほど下ると雪も消え、変化に乏しい単調な下りとなった。 下山口の易老渡への最後のジグザグの急坂道では、シーズン始めのためか、あるいは自然災害のせいか浮石が多く、登山道はかなり荒れていた。 12時半過ぎに易老渡へ下山し、近くの水流でアイゼンとスパッツの泥を落とす。 通行止めのゲートまで1時間弱林道を歩いたが、緩い勾配の下りでそれほど苦にはならなかった。 連休中でも空いていた飯田市営の温泉施設『ほっ湯アップル』で汗を流し、飯田ICに新しく出来た『餃子の大将』で反省会と連休後半の打ち合わせを行って帰途についたが、中央道で交通事故が多発し、日付が変わってから自宅に着いた。