《 9日 》 西岳 ・ ギボシ ・ 編笠山
富士見高原 〜 西岳 〜 青年小屋 〜 ギボシ 〜 青年小屋 〜 編笠山 〜 富士見高原 (周回)
季節外れの高温と強風の予報ため山行の計画は二転三転し、急遽当初の計画には無かった八ケ岳に行くことになった。 中央道の『八ケ岳PA』に前泊し、翌朝編笠山や西岳の登山口となる富士見高原へ向かう。 ゴルフ場の先の林道のゲートの手前にあった駐車スペースに車を停めて6時過ぎに出発。 準備をしている間にも数人の人が傍らを通り過ぎていく。 皆もこの天気予報に合わせて登る山を選んだのだろうか。 富士見高原から西岳に登るルートはだいぶ前に一度だけ辿ったことがあるが、具体的な記憶は何も残ってない。 積雪は多いが、人気のルートなのでトレースを期待してスノーシューは持って行かないことにした。 今日は西岳から青年小屋に縦走し、個人的には冬の八ケ岳では一番素晴らしいと思うギボシを往復した後、編笠山を登って登山口に戻ってくるつもりだが、天気の状況ではギボシには登れないかも知れない。 登山口からしばらくは雪解けが進む未舗装の林道を歩く。 昨夜の雨で溶けた雪が凍っていて歩きにくい。 30分ほどで編笠山へのルートとの分岐を過ぎると、登山道は陽射しに恵まれない濃い樹林帯の中となる。 単独の男性と相前後しながら、単調な登り一本調子の登山道を登る。 積雪は例年並みかそれ以上にあると思われるが、予想どおり踏み固められたトレースは完璧で、快適過ぎて何か物足りない気もする。 標高2000m辺りから勾配が急になってきたのでアイゼンを着ける。 踏み固められたトレースにアイゼンが良く効く。 所々で樹間から南アルプスや中央アルプスの山並みが見え始めた。 不意に山頂直下で樹林が切れ、山頂を待たずに周囲の山々が青空を背景に望まれた。 9時半前に西岳の山頂に着く。 意外にも山頂からの展望は隣りの編笠山とは違い、目指すギボシが立派に見えた。 北方向の展望は雑木に遮られていたが、それでも槍・穂高から乗鞍、御嶽、中央アルプス、仙丈、甲斐駒、北岳が鮮明に望まれた。 南風の予報だったが、北西からの風が強く吹いていたので、風の無い山頂の南側で眼前の編笠山を眺めながら寛ぐ。 青年小屋へのルートに入ると積雪は一段と増えたが、溝のように掘れたトレースに助けられ、登山ブームの恩恵を享受する。 アイゼンの爪跡から先行者が1人だけいることが分かった。 途中で編笠山を登って周回してきたという単独の女性とすれ違った。 森林限界を超えた山頂手前の岩場から風が強くなり、山頂は爆風が吹いていたとのことだった。 西岳からコースタイムよりも少し長い1時間で青年小屋に着く。 権現岳方面へのルートにトレースがあることを確認してから小屋の陰の風の当たらない所で一休みする。 権現岳方面へのトレースはさすがに薄いが、それでも有るのと無いのとでは全く違う。 風は強いが天気は良いので、予定どおりギボシに向かう。 青年小屋までのアイゼンの爪跡の主はさらに権現岳方面へと向かっていたが、間もなくその主が上から下ってきた。 風も強く権現岳が遠く感じたので途中で引き返されたとのことだった。 森林限界を超えると眼前に大きくギボシが仰ぎ見られた。 ここから見るギボシは威圧的で迫力がある。 ノロシバ付近の痩せ尾根には風速10m以上の強風が断続的に吹いているが、2年前に同じルートを歩いた時の経験から、ここを過ぎてギボシの懐に入れば風は当たらなくなるので迷わず前に進む。 権現岳の頂が指呼の間に見えるが、これは目の錯覚で先に進むほどその頂は遠ざかっていくから不思議だ。 鎖場となっているギボシの肩への急斜面にトレースが見えたが、鎖がまだ雪から出ていない感じがしたので、権現岳の方向に100mほどトラバースしながら進み、所々にダケカンバが点在する尾根状のやや急な斜面を登る。 純白のギボシの頂稜部が見えると、その直下の雪の禿げた鎖場をトラバースし、こちらに向かってくる単独者の姿が見えた。 雪の下のハイマツを踏みながら登ったギボシの肩で先ほどのトレースと合流し、痩せ尾根を進むと単独の女性とすれ違った。 これから編笠山を越え、観音平へ下るとのことだった。 鎖場の鎖は完全に露出し、足元も安定していたので、全く問題なく通過することが出来た。 2年前はここから権現岳との鞍部付近に向けて深雪をトラバースし、痩せ尾根を登り返したが、今日は山頂に向けて急斜面にトレースが延びていた。 1時前に高度感溢れるナイフリッジのギボシの頂に着く。 猫の額ほどの狭い山頂は立つこともままならないが、今までギボシに隠されていた赤岳と阿弥陀岳が眼前に大きく望まれ、何度来ても飽きない素晴らしい景色だ。 甲斐駒や北岳は春霞か黄砂で霞んで見えるのが玉にキズだ。 西岳はすでに足元になっていた。 ありがたいことに風は周囲の高嶺に遮られていた。 先ほどの単独の女性は山頂の直下を巻いたのか、山頂から権現岳との鞍部へ下る痩せ尾根にはトレースが無かった。 絶景を充分楽しんでから青年小屋への往路を戻る。 途中の鎖場でキレット小屋付近に泊るという男女3人のパーティーとすれ違うと、時間も遅くなってきたので、その後は登山口まで誰とも出会わなかった。 青年小屋から編笠山へは階段状にトレースが出来ていて、無雪期よりも登り易いくらいだった。 編笠山へ登るにつれて背後のギボシが面白いようにその姿を変えていく。 シラビソの緑が目に鮮やかだ。 2時半にすでに誰もいなくなった編笠山の山頂に着く。 相変らず風が強いためか、午後に入っても空には雲一つ無く、個性的な八ケ岳のピークが一望出来た。 ストイックなギボシからの展望とは違う優美な景色だ。 風の当たらない山頂直下の南側の斜面で明日の山行の計画を考えながらゆっくりと寛ぐ。 30分ほど静かで展望の良い山頂に滞在し、大小の岩が露出する歩きにくいミックスの斜面を樹林帯に向かって下る。 樹林帯からは無雪期よりも早いペースで下ることが出来たので、登山口の富士見高原に停めた車に5時前に戻った。 道の駅『こぶちざわ』に併設された日帰り温泉施設『延命の湯』に立ち寄り、夕食後に明日登ることにした辻山への登山口となる夜叉神峠登山口の駐車場に向かった。