《 3日 》 甘利山 ・ 千頭星山
甘利第一配水池 〜 広河原 〜 甘利山 〜 奥甘利山 〜 大西峰 〜 千頭星山 (往復)
甘利山(1731m)とその背後にある千頭星山(2138m)は鳳凰三山の前山という印象が強く、今まで足が向かなかった。 今回この二つの山を訪ねてみようと思いつき計画を始めたところ、登山口への道路(県道613号線)が麓の山口の集落から冬期通行止め(12月〜4月)になっていることが分かった。 通行止めの区間の距離は12キロもあり、日帰りでこの山々を登るのはやや現実的ではない感じがした。 一方、この問題さえクリアー出来れば、静かな山行が楽しめることは間違いない。 道の駅『しらね』に前泊し、山口の集落の外れにある通行止めのゲートを5時に出発。 標高はまだ500mほどしかない。 ゲートの手前には『甘利第一配水池』という水道施設と数台の車が停められるスペースがあり、付近には住宅も多かった。 一昨日の雨の影響か、舗装路面が凍っていて歩きにくい。 幅の広い車道の勾配は予想していたよりもきつく、昨日の疲れもあってか足が重い(気も重い)。 昨年歩いた奥秩父の川上牧丘林道は距離が14キロと長いが、標高差は850mだった。 この車道の距離は12キロだが標高差は1150mもある。 ゲートから2キロほど登ると道路が全面雪で覆われるようになり、登り易くなったのみならず、車道を歩くという精神的なストレスからも解放されたが、路肩には500m毎に『甘利山駐車場まで○キロ』という標識があり、客観的に先が読めてしまうので嫌になる。 間もなく周囲が明るくなり、朝焼けの富士山や奥秩父の山並みが見えた。 狩猟などで車が入るためか車の轍はあったが、青木鉱泉方面からの林道と交差する先からは積雪が多くなり轍も無くなった。 ゲートから7.5キロほど歩いた所で、全面結氷した椹池(さわらいけ/1283m)が車道の下に見られた。 ここからは気温の上昇で雪も柔らかくなってきたのでスノーシューを履く。 間もなく道路から分岐する登山道が現れたのでこれを利用する。 期待してなかった登山道の道型は明瞭で登り易かった。 登山道は再び車道に合流したが、積雪も多くなり道路という感じはしなかった。 10分ほど車道を歩いただけで再び登山道が現れたので迷わずこれを利用する。 登山道は明るい自然林のカラマツ林の中を登り、この上に人工的な駐車場や建物があるとは想像もつかない。 しばらく誰も辿っていない道にトレースを付けて歩くのはとても気分が良い。 ほぼ予定どおり9時に甘利山駐車場(1650m)に着く。 広い駐車場からは奥秩父の山々や八ケ岳の眺めが良い。 ベンチで一休みしてから目と鼻の先の甘利山に向かう。 もちろん、ここにもトレースは全くない。 シーズン中の週末には訪れる人も多いだろうこの山も、予想どおり冬場は車道の通行止めにより本当に静かだ。 この山の名物のつつじを保護するための遊歩道を登る。 櫛形山、南アルプス、鳳凰三山、そして今日の目標の千頭星山が見えてくる。 駐車場から僅か20分ほどで広く平らな甘利山(1731m)の山頂に着く。 山頂は広く平らで、まるで公園のようだ。 駐車場まで車で登ってきたら、この山を登ったという記憶は残らないだろう。 甘利山から僅かに下り、指呼の間の奥甘利山に向かう。 陽当たりの良い笹原の斜面は所々で雪が途切れている。 奥甘利山(1843m)の頂は俗化された甘利山とは違う静かな雰囲気が漂っていた。 奥甘利山からは大西峰(2066m)との鞍部に向けて広い尾根を真っ直ぐに下る。 笹原となっている鞍部からは八ケ岳が良く見えた。 鞍部から大西峰へはやや傾斜の急な樹林帯の登りとなる。 登山道の道型がはっきりしないので、所々に見られるテープ類を横目で見ながら登り易い所をジグザグに登る。 雪が締まっていたので良かったが、雪が柔らかければスノーシューでも猛烈なラッセルを強いられただろう。 幅の広い尾根は一旦平坦になった後、再び同じような地形の登りとなったが、いつの間にか登山道を見失ってしまった。 前方が明るくなり、右手の御所山からの稜線との分岐となる大西峰の頂が近いことが分かったが、特徴のない大西峰は右方向なのか左方向なのか分からない。 どちらに行こうかと迷いながら登り続けていくと、図らずも目の前に赤テープがあり、その先に古い道標が立っていた。 ほぼ予定どおり11時半過ぎに大西峰の頂に着いた。 山頂の標識は雪の下なのか、古木に地元の山岳会の名前が記された名刺サイズのプレートが打ち付けられているだけだった。 山頂の傍らは一面が広い笹原(雪原)になっていて富士山の眺めが良かった。 雪原の先には目指す千頭星山が指呼の間に望まれたが、雪の状態によっては1時間足らずで往復できるのか、ラッセル地獄となるのか、全く読めなかった。 妻は林道歩きのボディーブローが堪えたらしく、千頭星山には行かないと言うので、先に下山することを約して千頭星山に向かう。 予想どおり雪質はモナカだったが、傾斜が殆どなく負荷がかからないためスノーシューが10センチほどしか沈まなかったので、予想よりも早いペースで歩くことが出来た。 山頂直下の木々の切れ目からは鳳凰三山や八ケ岳も良く見えるようになり、疲れも一気に吹っ飛んだ。 山頂直下から山頂へは短い急斜面を強引に直登し、正午過ぎに人待ち顔の千頭星山の山頂に着いた。 大西峰から小走りで20分ほどだった。 葉の落ちた樹間からは南アルプス南部の銀嶺が僅かに望まれたが、無雪期では展望には恵まれないだろう。 それでも山頂には山梨百名山の標柱が立っていた。 感動に浸る間もなくトンボ返りで往路を戻る。 走るように下り、奥甘利山の山頂で先行していた妻に追いつく。 これから始まる長い車道歩きを想像すると気が重たかったが、実際下ってみると12キロの車道のうち3分の1は登山道を使えたので、下りに関してはそれほど退屈でも苦痛でもなかった。 古いガイドブックには、下りは麓まで歩くようになっていたことが頷けた。 雪が車道から無くなるぎりぎりの所までスノーシューで下り、通行止めのゲートに5時に戻った。