《 10日 》 経ケ岳
仲仙寺 〜 経ケ岳 (往復)
経ケ岳(2296m)は南・北・中央アルプスそして八ケ岳に囲まれた良い位置に聳えているが、肝心の山頂からの展望が悪いというイメージが払拭出来ず、16年もの間再訪することをためらっていた山だ。 登山口の羽広観音(仲仙寺)の記憶も全く残っていない。 ネットの情報では厳冬期には殆ど登られてなく、また敗退している記録も多かった。 先月からの降雪も少し落ち着いてきたので、時期を逸せず登ってみることにした。 仲仙寺のトイレのある広い駐車場に前泊し、翌朝4時半に出発。 気温はマイナス8度だ。 連休の中日だが他に車は停まっていなかった。 本堂手前の右手から道標に従って登山道に入る。 寺の周囲の散策路や作業道などが交錯し、雪と暗さでどれが正しい道なのか分かりにくい。 古いトレースはあるが、登山者のものではないように思えた。 本堂から10分ほど登った所にある分岐で、直進する広い作業道に引き込まれ、30分近く急な斜面を右往左往して朝の貴重な時間をロスしてしまった。 分岐に戻ると右に90度曲がる道が正しいことが分かったが、下山時にそれを検証したところ、無雪期の明るい時間帯であれば全く迷うことはないが、今回と同じような状況であれば逆に100%同じような道迷いをすることが想定された。 この山の登山道は元々細いのか、雪の下の道型は不明瞭で、トレースもいつの間にか無くなっていた。 尾根の北東側を巻くように緩やかな登りが続く。 積雪はまだ10センチほどなので問題はないが、大雪の後だと道型が完全に消えてしまい、ルーファンが非常に難しくなるだろう。 間もなく先ほど引き込まれた作業道との合流点と思われる所を通過した。 南アルプスの背後の空が茜色に染まり始め、仲仙寺を出発してから2時間ほどでコースタイムの目安となる4合目に着いた。 ここは東側の大泉ダムからの登山道との分岐にもなっていたが、大泉ダム方面からのトレースは無かった。 4合目からは尾根の南東側を巻いて登るようになったが、登山道は先ほどまでとは違って明瞭になった。 間もなく樹間からのご来光となり、周囲の山々が赤く染まったが、木曽駒方面には寒気の影響による雲が湧いていた。 4合目から40分ほど登ると、5合目の標識が立木に打ち付けてあったが、付近には雪が吹き溜まっていたのでここからスノーシューを履く。 5合目から先も尾根の南東側を巻いて登る。 気温は低いが、陽射しが暖かく感じられるようになった。 6合目の手前でようやく広い尾根に乗る。 6合目からは尾根が顕著になり、雪が硬そうな所を選んで登る。 雪が良く締まっている斜面ではスノーシューが沈まず、無雪期と同じような感覚で歩けるのが嬉しい。 のっけから道迷いのタイムロスがあったが、仲仙寺から4時間で7合目(1915m)に着くことが出来た。 7合目は小さなピークになっていて、樹間から8合目となる同じような小さなピークが見えたが、山頂は奥深く未だ見えない。 風が少し出てきたので、休まずに7合目から少し下り8合目へと登り返す。 しばらくは尾根の南東側を巻いて登るが、再び顕著な尾根に乗る。 右手には隣接する黒沢山(2126m)が見えるようになった。 この辺りからは積雪が増し、ラッセルで登るスピードはかなり遅くなると予想していたが、シュカブラの見られる尾根の斜面は硬く締まっていて部分的には快適な登高となった。 7合目から8合目へはコースタイムの1.5倍くらいの時間を要したが、予定よりもだいぶ早い10時前に8合目に着くことが出来た。 無木立の8合目のピーク(2035m)は360度の大展望で、眼前の中央アルプスはもちろんのこと南アルプスや八ケ岳の山々が一望されたが、これから向かう山頂には寒気の影響による灰色の雲が覆いかぶさっていた。 8合目までのラッセルが厳しいと、ここから先ではもっと厳しくなるため、条件が悪い時にここで敗退した先人達の気持ちが良くわかる。 相変らず風が少し吹いているので休憩もそこそこに先へ進む。 雪庇の張り出した尾根の斜面は雪が締まっていて見た目よりも登り易かった。 再び樹林帯の中を進むようになると、突然上から雪を踏み込むような大きな音が響いてきた。 熊か?、それとも経ケ岳を越えて縦走してくる猛者でもいるのだろうか?。 すぐにそれは登山者だと分かったが、その方が軽装だったので、まだ狐につままれているような感じがした。 不思議に思ってその方に話を伺うと、経ケ岳へは仲仙寺からのルート以外に北側の三級の滝から黒沢山を経て登るルートがあり、ちょうどここがその分岐点ということで、数メートル先にその方が黒沢山から辿ってきたトレースと雪に埋まった分岐の道標があった。 その方は地元の辰野町にお住まいで、昨夜は黒沢山付近で幕営し、空身で山頂を往復してきたとのことだった。 ここから先も雪が締まっているので、山頂までさほど時間は掛からないという。 もちろんその方の新しいトレースもある。 天気は冴えないが、山頂に届くことが確実になったので嬉しくなる。 それ以上に静かなこの山での同好の士との偶然の出会いが嬉しかった。 樹林帯の中の雪は柔らかく、トレースに助けられて登る。 間もなく9合目(2252m)に着くと、上空には青空が戻ってきた。 9合目から先では傾斜が緩み、間もなく経ケ岳の山頂が指呼の間に望まれた。 僅かに鞍部に下り、登り返しはあるものの最後は気持ちの良い稜線漫歩となり、予定よりも1時間以上早く11時過ぎに山頂に着いた。 木々がびっしり詰まった山頂は記憶どおり地味だったが、初めて登った時よりも登れたことが嬉しかった。 山頂から少し下った日溜りで寛いでから往路を戻る。 8合目のピークでは再び360度の大展望を満喫出来た。 8合目から下でも私達以外のトレースは無く、今日は誰も仲仙寺から登らなかったようだ。 予定よりも早く、まだ陽の高い3時過ぎに登山口の仲仙寺に下山出来たので本堂にお参りする。 羽広観音(仲仙寺)は古くから『馬の観音様』として親しまれているとのことで、本堂には『絵馬』と呼ばれる馬の絵が沢山展示されていて興味深かった。 下山後に明日の天気予報を調べると、冬型が強まり長野県南部の降水確率は30%になってしまったので、計画していた南木曽岳に行くのは止め、少しでも降水確率が低い乾徳山と黒金山に行くことにした。 仲仙寺のすぐ近くには『みはらしの湯』という日帰りの良い温泉施設があるが、連休中で混んでいたので、少し離れた伊北IC近くの『ながたの湯』に立ち寄ったが、この温泉施設も新しく設備が充実していたので連休らしい賑わいだった。