2  0  1  2  年     8  月  

《 4日 〜 5日 》    大滝山 ・ 蝶ケ岳

    三郷スカイライン終点 〜 鍋冠山 〜 大滝山北峰・南峰 〜 蝶ケ岳(テント泊) 〜 大滝山北峰 〜 鍋冠山 〜 三郷スカイライン終点  (往復)

   夏山シーズンもピークを迎え、静かな山行が出来る山を選ぶのに苦労する。 日曜日は午後から下り坂という予報(これはハズレたようだ)だったので、北アルプスの中でも比較的アプローチが良い大滝山に行くことにした。 まだ登ったことがない大滝山は以前から気になっていたものの、“登山口からのアプローチが長い割に展望に恵まれない地味な山”というイメージが常に頭に浮かび足が向かなかったが、今回登ってみてその悪いイメージは見事に払拭された。 長野道の筑北PAで前泊し、翌朝登山口となる三郷スカイライン(県道319号線)の終点に向かう。 意外にも舗装された車道の終点には車が5台(3台は地元の松本ナンバー)も停まっていた。 登山口を7時前に出発。 舗装された車道の終点からなおも続く未舗装の細い林道を15分ほど緩やかに登るとゲートが道を塞いでいたが、その先もオフロード車であれば通れるほどの道が続いていた。 登山口から1時間足らずで登山道の始まる冷沢の水場に着いた。 『冷沢/大滝山まで4時間半/標高1722m』と記された真新しい標識があり、林道の脇から登山道に入る。 すぐ先には冷沢の清水がとうとうと流れ、簡易な取水栓の設備があった。 傍らに冷沢用水の由来を記した古い案内板があり、この冷沢用水は江戸時代の初期に当時乾燥地だった安曇野を灌漑するために作られ、現在でも使われているとのことだった。 冷たい清水を水筒に沢山汲み、大滝山までの唯一のチェックポイントとなる鍋冠山(2194m)を目指して登り始める。 前後に登山者の気配はなく、予想どおり静かな山行となりそうだ。 意外にも登山道は良く整備されていて道幅も広く、森林浴を楽しむハイキングコースのような感じがした。 標高の割に背の高い大木が多く展望には恵まれないが、盛夏のこの時期にはむしろちょうど良い。 全般的に勾配の緩やかな登山道は明るく、風も適当に吹き抜けているため、暑さに苛まれることは全くなかった。 冷沢から1時間半で人待ち顔の鍋冠山に着く。 山頂は樹林に囲まれ展望はないが、当初から前山という認識でいたので全く気にならない。 静かな山頂で一休みした後、『八丁ダルミ』と地図に記された平坦地に向かって緩やかに下る。 右手の樹間から時折常念岳が望まれる。 八丁ダルミの最低鞍部までは標高差で120mほどの下りだった。 八丁ダルミは小さな登り下りはあるものの、名前の通り2000mを超える標高にしては珍しいほど長閑で、原始の香りが漂う森のようだった。 30分ほど八丁ダルミの平坦地を漫歩した後、大滝山への登りにさしかかると、早くも地元の日帰りのパーティーが下ってきた。 稜線が近づくとさすがに勾配が増してきたが、決して急登ではなく無理なくジグザグを切って行く。 日帰りのパーティーがまた下ってきた。 稜線に詰め上がる沢の源頭はお花畑になっていた。 花のみならず、新しい大きな熊の糞も見られた。 正午前、登山口からちょうど5時間で稜線に着いた。 昭文社の山の地図では20年前から最新版に至るまでずっと鍋冠山から大滝山までのコースタイムを『登り4時間・下り3時間』としているが、これは明らかに間違いで、多目に見積もっても『登り3時間・下り2時間』に訂正が必要だ。 すでに雲が湧く時間帯だったの展望は全く期待していなかったが、眼前には蝶ケ岳に至る長塀尾根越しに穂高の峰々が頭を揃え、そのユニークで斬新な景観に仁王立ちしたまましばらく動けなかった。 間もなく蝶ケ岳方面から空身の若い女性パーティーがやってきたので雑談を交わすと、今日は私達と同じように大滝山の山頂に泊まる予定でいたが、蝶ケ岳ヒュッテのスタッフから「最近、大滝山付近で熊が頻繁に出没しているため、大滝山での幕営を禁止している」と言われたため、仕方なく蝶ケ岳に幕営してこちらに遊びにきたとのことだった。 女性パーティーに続いて分岐から数分先の大滝山北峰に登る。 這い松を切り裂いた猫の額ほどの狭い山頂はテントが3〜4張れるほどのスペースしかなかったが、目論見どおりここならプライベート感覚で居ながらにして朝夕の穂高を眺めることが出来る。 北峰の直下にある大滝山荘でスタッフに話を伺うと、スタッフの方も何度か熊を目撃しているとのことで、小屋の周囲には弱い電気が流れている電線が張り巡らされていた。 残念ながらやはり当分の間幕営は禁止とのことだったので、水を3リッター(@150円)ほど買い、小屋から数分先の大滝山南峰を踏んでから鍋冠山との分岐に戻り、蝶ケ岳方面へ縦走する。 稜線には池塘も見られ、所々でお花畑が楽しめたが、反面展望は無くなり少しがっかりした。 蝶ケ岳の喧噪を嫌い、幕場に相応しい場所を探しながら歩いていると、鍋冠山との分岐から1時間ほどで三股からの登山道との分岐に着いてしまった。 大滝山から蝶ケ岳の間のコースタイム(1時間45分)も訂正が必要だ。 予想どおり蝶ケ岳周辺は大勢の登山者で賑わい、さながら観光地のようだった。 すでに2時となり、幕場には大小数10張りのテントの花が咲いていたが、幸いにも何故か一番広くて平らな4m四方のスペースがポッカリと空いていた。 幕場の受付を済ませ、“観光地”を適当に散策するが、すでに槍や穂高は雲の中だ。 それでも夕方から雷雨になるという予報は外れたようで、夕焼けショーに期待してテントで昼寝を決め込む。 あいにくその後も槍や穂高の雲は取れず、綺麗な夕焼けは望めなかったが、刻々と変化する雲の形や空の色に一喜一憂しながら久々に夏山の夕焼けショーを楽しんだ。 テントの数は65張にも達したが、蝶ケ岳の幕場のスペースは意外と広く、まだ僅かに空きがあった。

 

舗装された車道の終点から未舗装の細い林道を15分ほど緩やかに登るとゲートが道を塞いでいた


冷沢用水の簡易な取水栓の設備


登山道は良く整備されていて道幅も広い


樹林に囲まれ展望はない鍋冠山の山頂


八丁ダルミへ緩やかに下る


右手の樹間から時折常念岳が望まれる


稜線に詰め上がる沢の源頭はお花畑になっていた


稜線から長塀尾根越しに見た穂高の峰々に思わず息を飲む


大滝山北峰から長塀尾根越しに見た穂高と槍


大滝山北峰から見た鍋冠山


大滝山荘


大滝山南峰から見た槍


大滝山南峰から見た徳本峠方面(遠景中央は乗鞍)


大滝山から蝶ケ岳方面への縦走路では所々でお花畑が楽しめた


蝶ケ岳の幕場には大小数10張りのテントの花が咲いていた


一番広くて平らなスペースにテントを張る


蝶ケ岳ヒュッテ周辺は大勢の登山者で賑わっていた


常念岳


夕焼けの穂高


夕焼けの槍


   ありがたいことに翌朝も昨日の天気を引き継いでくれたようで未明から快晴の天気となり、素晴しい朝焼けショーを堪能する。 今日は往路を戻るだけなので、槍と穂高の展望をゆっくり楽しみ、幕場を6時半に出発する。 昨日同様、大滝山方面に向かう人は殆どいなので、縦走路に入ったとたん蝶ケ岳の喧噪が嘘のように静かになる。 大滝山手前の展望の良い小ピークで最後の穂高・槍の展望を目に焼き付け、大滝山の北峰を踏んでから8時半前に鍋冠山への道を下る。 今日も軽装で登ってくる人と何人かすれ違ったが、いずれも地元の方だった。 天気は良かったが、今日も森の大木のお蔭で暑くなかった。 三郷スカイラインの開通は例年4月からだということを聞き、残雪期に是非再訪しようと心に誓った。 百聞は一見にしかずで、大滝山は地元の岳人に愛されている山だった。 コースタイムを変えず、三郷スカイラインの終点に道標を設置していない理由は、もしかしたら地元の岳人が大滝山や森の静かさを守りたいからなのかと思わずにはいられなかった。 冷沢の清水で顔を洗い、正午過ぎに登山口に着いた。


蝶ケ岳から大滝山越しに見た八ケ岳(左)と南アルプス(右)


黎明の穂高


ご来光


常念岳


朝陽が当たり始めた槍


乗鞍・御嶽方面


穂高



穂高と槍


蝶ケ岳の山頂


今日も静かな大滝山への縦走路


池塘


大滝山手前の小ピークから見た槍


大滝山手前の小ピークから見た穂高


大滝山手前の小ピークから見た常念岳


大滝山北峰から長塀尾根越しに見た穂高と槍


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