2  0  1  1  年     4  月  

《 29日 〜 30日 》    聖岳

   便ケ島 〜 西沢渡 〜 薊畑 〜 聖平小屋(泊) 〜 薊畑 〜 小聖岳 〜 聖岳 〜 薊畑 〜 便ケ島  (往復)

   今年は秋に海外に行くのでGWは暦どおりだ。 毎年のことだが、この時期は季節の変わり目で天候が安定しない。 今年のGWは山に残雪が多いので、以前からの宿題であった下津川山(巻機山から丹後山への縦走)に登るチャンスだったが、やはり新潟で3日間の晴天は続かず、直前に計画の変更を余儀なくされた。 与えられた天気予報から計画を練り直して1泊2日で南アルプスの聖岳に行くことにした。 ルートは秋に一度辿ったことのある便ケ島からの往復ルートだ(この時は大沢岳まで足を延ばした)。 直前に山仲間の西さん&セッちゃんとGWの計画について情報交換したところ、偶然にも全く同じ日程とルートで聖岳に行かれるとのことで驚いた。 GWは交通渋滞の予測がつかないので、西さん&セッちゃんとは現地集合とし、中央道の小黒川PAで前泊して翌朝登山口の便ケ島の駐車場に向かう。 もともとGWに入山者が少ないのか、あるいは震災の影響なのか、広い駐車場には車が5台ほどしかなく、GWという雰囲気は全くしなかった。 先に到着していた西さん&セッちゃんを見送り、8時過ぎに駐車場を出発。 当初の計画では途中の薊畑(2400m)付近で幕営する予定だったが、西さん&セッちゃんはその先の無料開放されている聖平小屋に泊まると言うので、私達もテントをツェルトに換えてそれに従うことにした。 西沢渡まで深い谷となっている遠山川を眼下に見下ろしながら起伏の殆どない林道を45分ほど歩き、痩せ細った川を渡って登山道に入る。 増水時に使われる籠渡しは健在だったが、川の石の上には立派な木の橋が取り付けられていた。 ここからは稜線上の薊畑の分岐まで下りの一切ない標高差1300mほどの登りとなる。 急斜面に稲妻型に切られた登山道を黙々と登る。 植林ではない自然林の中を登るのが唯一の救いだ。 時折樹間から兎岳が見える。 標高1400m地点からは、200m毎に標高を記した新しいプレートが見られた。 急登の連続で重荷が堪えるが、無雪期なら便ケ島から聖岳まで日帰りで往復することが可能なことが頷ける。 間もなく西さん&セッちゃんが私達を待っててくれた。 雪は標高1800m付近から見られるようになり、2000mを超えてからは急に深くなった。 図らずも天気は曇がちで気温も低かったので、雪は締まっていた。 トレースが無ければラッセルが予想された薊畑の手前をスノーシューではなくアイゼンを着けて快適に登る。 ラッセルをせずに済んだので、予想よりもだいぶ早い1時に薊畑の分岐に着く。 生憎の曇天だったが、上河内岳から光岳に続く稜線上の山々が一望された。 ようやく長い登りから解放され、足取りも軽く聖平小屋まで広い尾根を下る。 消えかかったトレースが今シーズンの入山者の少なさを物語っていた。 結局途中で誰とも出会うことなく1時半過ぎに聖平小屋に着いた。 小屋の周囲は積雪が1mほどあったが、1階の入口には庇があり、スコップで掘り起こすことなく中に入れた。 小屋には単独行の人が一人いただけで、私達の到着後も4名しか来なかった。 聖平には過去2回訪れたことがあるが、いずれもテント泊だったので、小屋に泊まるのは初めてだ。 以前は古い避難小屋が冬期小屋として開放されていたが、今は山小屋の別棟が無料で開放されていて有難い。 2階建ての別棟は30名ほどが快適に泊まれそうな広さがあり、床の上には綺麗なゴザが敷いてあるのみならず、その下にもウレタンマットが敷いてあった。 小屋の近くの流水を西さんが見つけてくれたので、西さんと小屋の入口と少し離れたトイレの除雪に汗を流す。 この時期ならではの楽しい?作業だ。


西沢渡の増水時に使われる籠渡し


西沢渡から薊畑の分岐までは下りの一切ない標高差1300mほどの登りが続く


樹間から見た兎岳


天気は曇がちで気温も低かったので、雪は締まっていた


薊畑の手前をアイゼンを着けて快適に登る


薊畑の分岐から見た上河内岳


薊畑の分岐から見た茶臼岳(中央)


聖平小屋まで広い尾根を下る


冬期小屋として無料開放されている聖平小屋の別棟(右手前)


快適な聖平小屋の別棟の内部


小屋の入口の除雪に汗を流す


いつも豪華な西さん&セッちゃんの夕食(の一部)


    翌朝は荷物の整理をして5時に小屋を出発。 すでに周囲は明るい。 夜中には星が見えたが、少し風があるのが気掛かりだ。 間もなく笊ケ岳方面からのご来光を拝むことが出来たが、上河内岳付近には見事な笠雲が浮かんでいた。 薊畑の分岐まで30分ほど登り返し、不要な荷物をデポして聖岳方面に向かう。 体力に勝る西さん&セッちゃんが終始先行し、先行している単独者のトレースを追う。 間もなく森林限界となり、小聖岳の背後に聖岳が大きく望まれた。 小聖岳に近づくにつれて風が強まってきたが、これはまだほんの序の口だった。 薊畑の分岐から45分ほどで小聖岳の山頂に着く。 眼前の聖岳が圧倒的な大きさで鎮座し、私達をその頂に招いているが、それとは反対に吹き付ける強い風は私達の意思をくじかせようとしていた。 天気も予報とは違い、朝方よりも悪くなっている感じで、次々と寒々しい雲が飛来してくる。 風を避けてしばらく休憩し、ダウンジャケットを着込んで聖岳の山頂に向かう。 先行している単独者の姿が豆粒のように見える。 ルートはほぼ登山道どおりだ。 風はますます強まり、期待していたGWらしい優雅な春山登山はもう叶わない。 この時期に予想もしていなかった雪庇を通過し、強風で硬く締まった広い雪の斜面を直登気味に登る。 次第に所々がアイスバーンとなり、煩わしいがそれを迂回して登る。 風は吹き止まないばかりか時折強烈な突風が吹くので、途中から念のためアンザイレンする。 結んだロープが風に流され岩や氷片に引っ掛かって難義する。 山頂直下の岩稜帯で先行していた若い単独者が下ってきた。 甘い期待に反して山頂はここよりもさらに強い風が吹いているとのこと。 頂稜部では傾斜が緩くなったが、逆に風は強まり、間もなく地面を這うようにして西さん&セッちゃんが指呼の間の山頂から下ってきた。 条件が許せば行こうと目論んでいた奥聖岳の頂は遥かに遠く、寒々しい赤石岳と大沢岳が眼前に並んだ。 雪に埋もれている山頂標識のある所まで行こうと思い、山頂の一角から一歩足を踏み出すと、台風並みの強風に煽られて妻がなぎ倒された。 ロープを引っ張るが、なかなか立ち上がることが出来ない。 山頂に辿り着いた安堵感で気持ちが高揚していたが、冷静に考えると極めて危険な状況だった。 急いで写真を数枚撮ってトンボ返りで山頂を辞する。 風は下に行くほど弱まることを実感するが、時折襲ってくる突風が曲者だ。 上部のアイスバーンのある所では念のためスタカットで下る。 もう私達の後から登ってくる人はいない。 この破天荒では入山者の多い山ではきっと何らかの事故が起きるに違いないと思った(正にそのとおりで多くの事故があった)。 風の当たらない小聖岳の手前で西さん&セッちゃんが待っていてくれたので、ようやく一息つく。 上空には数時間前の青空のかけらもなく、山々はまるで真冬のようなモノトーンの世界に入ってしまった。 結局若い単独者と私達だけが聖岳を登り、他の良識ある人達は小聖岳までとしたようだった。 荷物をデポした薊畑の分岐に10時前に着き、まるで敗残兵のように足取りも重く西沢渡を経て便ケ島の駐車場に下った。 中央道の松川IC付近にある町営の『清流荘』で汗を流し、西さん&セッちゃんと山行の反省会を行った。


聖平小屋を出発


笊ケ岳方面からのご来光を拝む


薊畑の分岐への登りから見た聖岳


上河内岳付近には見事な笠雲が浮かんでいた


薊畑の分岐付近から見た光岳


小聖岳への登りから見た兎岳


小聖岳(右手前)と聖岳


小聖岳の山頂直下から風が強くなり始めた


小聖岳の山頂から見た聖岳


小聖岳の山頂で風を避けてしばらく寛ぐ


聖岳には西さん&セッちゃんが終始先行して登る


聖岳への登りから見た小聖岳


例年より積雪が多い


強風で硬く締まった広い雪の斜面を直登気味に登る


時折強烈な突風が吹くのでアンザイレンする


聖岳への登りから見た上河内岳


上部では所々がアイスバーンとなっていた


頂稜部では傾斜が緩くなったが、逆に風は強まった


台風並みの強風が吹き荒れていた聖岳の山頂


聖岳の山頂(右)と奥聖岳(左)


聖岳から見た赤石岳


聖岳から見た大沢岳


小聖岳から見た聖岳


2 0 1 1 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P