2 0 0 9 年 1 2 月  

《 27日 》    富士山

富士山スカイライン 〜 太郎坊(御殿場口新五合目)〜 八合目 〜 長田尾根中間部  (往復)

    来月に登る予定のニュージーランドのマウント・アスパイアリング(3027m)とマウント・クック(3754m)の訓練と装備のチェックのため、それに最も相応しい富士山に行くことにした。 特にマウント・クックはアタック日の行動時間が15〜18時間で、累積標高差が1700mあることに加え、ダブルアックスによる氷壁の登攀と3級プラスの長いクライミングがルート上にあり、私の経験と能力ではギリギリ(不可能か?)の山であるため、冬の富士山を日帰りでこなせる程度の体力は最低限必要だ。 先週片山さんらのパーティーに不慮の事故があった御殿場口からのルートであることが辛いが、この時期に他に相応しい山やルートがないので仕方が無い。 富士山スカイラインから御殿場口の太郎坊へ通じる道路は冬期通行止めになっているので、その分岐にあるトンネル付近の駐車スペースに前泊し、2時過ぎに出発。 今日も先週と同じくここからハーネスを着けヘルメットを被って登る。 ここの標高は1300mほどであり、山頂までの標高差は2500m近くあることになる。 太郎坊の駐車場まで30分ほどゆっくり車道を歩き、そこから10分ほど登山道を登った大石茶屋で朝食を食べて3時に出発。 正月前なので予想通り前後に登山者の姿(ヘッドランプの灯り)はない。 気温はマイナス3度と高く、風も無くて予想以上に暖かい。 出発直後に歩きながらハーネスの増し締めをしたことが災いし、ザックの腰ベルトに通していた小物入れをどこかに落としてしまった。 中身は地図と行動食であり、のっけから行き先が危ぶまれた。 数10メートル毎に建てられている木の杭に導かれて真直ぐに緩い砂礫の斜面を登っていくと、間もなく登山道は雪に覆われるようになった。 気温が高いので雪が柔らかく、また傾斜も緩いのでアイゼンは着けずに登り続ける。 最初は硬く締っていた雪も途中からモナカ雪となり登りにくい。 大石茶屋から1時間40分でようやく最初の目標である二合八勺の避難小屋(1950m)の脇を通過する。 御殿場の夜景がとても綺麗だ。 気温もマイナス8度まで下がり、傾斜も少しきつくなってきたのでアイゼンを着ける。 風が少し出てきて冬の富士山らしくなってきたが、登山道の積雪は下部よりも少なくなり、雪が禿げた登山道に沿って登る。 間もなく東の空が茜色に染まり始めた。 6時50分にご来光となり、その場でしばらく休憩する。 陽射しのぬくもりは万国の山で共通だ。 標高は2750mであり、この先のルートの条件次第では山頂まで登れる可能性も出てきた。 (片山さんらのパーティーはこの辺りにテントを張ったらしい。 六合目付近で唯一テントを張れる場所であったが、風の通り道でもあった。) 安心したのも束の間、その先から急に雪が深まり、雪の締った斜面と軟雪の斜面とのミックスとなって登高ペースが落ちた。 間もなく冬期の測候所の職員のために作られたという転落防止の鉄柵が見えてきたのでその脇を登ることにしたが、七合目の小屋(3050m)が見えてくると何故か頼りの鉄柵は途切れてしまった。 帰宅後にネットで調べたところ、今年の夏に鉄柵を登山道と誤認して山頂から下山した外国人の登山者らが遭難死し、上部の鉄柵は撤去されたようだった。 七合の小屋(日の出館)には寄らず、七合四勺のわらじ館(3090m)を目指して左の方にトラバース気味に登る。 ありがたいことに天気は快晴で風も無い。 再び雪が硬くなりラッセルから解放されたが、滑落防止のためアンザイレンする。 再び山頂まで登れそうな可能性が出てきたが、ここまでの長い登りで妻の登高ペースが落ち始め、9時半にようやく七合九勺の小屋(3300m)に着いた。 予想に反して山頂方面の斜面の雪は少なく、どこを辿っても所々で溶岩が露出していて登りにくそうだった。 御殿場口から登ったのは山スキーも含めると今回で5回目であるが、ここまで登ったことがなかったことに加え、未明に地図を落とし予備の地図しか持っていなかったため、朽ちかけた古い木の杭と所々で雪から露出している錆びた針金を頼りに、そのまま直登することにした(トレースもなくここが登山道だと思わざるを得なかった)。 帰宅後にネットで調べたところ、意外にも御殿場口からの登山道はここから左手の広い沢をトラバース気味に登るようになっていて、私達が登ったのは長田尾根という測候所の職員が冬期に使ったルートだったようだ。 以前はここにも鉄柵があり、登山者が冬期に長田尾根を登ることも一般的だったようだが、上記の理由で最近撤去されてしまったので正確なところは未だに不明である。 頼りにしていた古い木の杭や錆びた針金は途中で無くなり、溶岩の露出が酷くなってきたが、相変わらず夏道(登山道)らしき道形はどこにも見当たらず、ようやくここが登山道ではないことが分かった。 高度計の標高は3600mを超え、ここから先はアイゼンを外して溶岩の上を30分ほど直登すれば、御釜の縁のどこかに飛び出すと思われるが、今日の登りでの行動終了時間と決めていた11時になったので、無理をせずここで引き返すことにした。 訓練とは言え登頂が叶わず残念だったが、また違う機会にここを訪れてみたくなった。 風もなく穏やかだったので、20分ほどゆっくり休憩してから下山する。 風が強く雪が凍っていればスタカットでなければ危ないが、今日はコンテでゆっくり下る。 日本人はアンザイレンが嫌いだ(単独行も多い)が、冬期の富士山の上部では滑り始めたら絶対止まらないだろう。 七合九勺の小屋まで下った時に下から登ってくる登山者が一人見えたが、私達は自分達のトレースを下ったのですれ違うことはなかった。 3時に大石茶屋に着き、装備を解いて4時前に富士山スカイライン脇に停めた車に戻った。


 

御殿場口の起点となる太郎坊


御殿場の夜景がとても綺麗だ


二合八勺の避難小屋(1950m)


登山道の積雪は下部よりも少なくなり、雪が禿げた登山道に沿って登る


ご来光


2750m地点(六合目付近)でしばらく休憩する


冬期の測候所の職員のために作られたという転落防止の鉄柵


七合九勺の小屋(3300m)と長田尾根(右)


最終到達点となった長田尾根中間部(稜線上のコルの先が御殿場口の山頂)


八合目付近を下る(右下に見える黒い山が宝永山・その下の白い山が二ツ塚


七合目付近を下る


六合目付近を下る


雪の少ない大砂走りの上部を下る


大砂走りの中間部はモナカ雪だった


標高が低くなるほど積雪が多い


二ツ塚


2 0 0 9 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P