《 2日 〜 3日 》 大日岳 ・ 奥大日岳
称名滝 〜 大日岳(テント泊)〜 奥大日岳 (往復)
5連休となるGWの計画は、天候不順により二転三転し、結局山中1泊で富山県側の称名滝から大日岳を経て奥大日岳に登ることになった。 北陸道の有磯海SAに前泊し、8時半に称名滝駐車場を出発。 標高はまだ1000mに満たない。 出発直前に日帰りの山スキーヤーが1名先行していった。 称名滝への遊歩道を15分ほど歩き、大日岳への登山道に入る。 所々で登山道に残雪が見られたが、間もなく出会った山菜採りの方の話では、例年は登山口から残雪が豊富にあり、GWでもこのルートを辿る人はあまり多くないとのことだった。 生憎登山道からは称名滝は見えないが、弥陀ヶ原から落ちる称名滝と一対のネハンの滝(こちらの方が細い)が樹間から垣間見られる。 登山口から1時間ほど登った『猿ガ馬場』という標識のある所から残雪が登山道を覆い始め、トレースに従って急な斜面を直登する。 雪はまだ締っているが、雪が緩む明日の下りではザイルが必要となるだろう。 このところしばらく晴天が続いているため、トレースは明瞭で道に迷う心配はない。 急な雪渓を登りきると、『牛ノ首』という標識のある大日平への取り付きとなる顕著な痩せ尾根の末端に着き、ザクロ谷の先に目指す大日岳の雄姿が見えた。 牛ノ首からは僅かな距離であるが急傾斜の痩せ尾根の通過があり、それを登りきると風景は一変し、一面銀世界のだだっ広い大日平に飛び出す。 正面の室堂方面には山スキーに最適そうな天狗山(2521m)と、その左奥に立山、左手には大日岳と中大日岳、背後にはまだ雪をたっぷり冠した鍬崎山が遮るものなく望まれ、素晴らしいロケーションにため息をつく。 明日予定している奥大日岳は中大日岳に隠されて未だ見ることは叶わないが、ここから仰ぎ見た大日岳の頂すらもまだまだ遠く感じた。 GW前の古いトレースは先週の日曜日の雪で全て消され、ここ2〜3日の新しいトレースとスキーの跡が幾つか見られた。 気温の上昇と重荷でトレースを辿っても少し雪に足を取られる。 右手には称名廊下という深く切れ落ちた渓谷を挟んでここよりもさらに広い弥陀ヶ原の大雪原が見え、その奥には薬師岳が堂々と鎮座している。 GWの初日であるが、マイナーなルートゆえ前後には人影が全く見えない。 雪の下には木道が延々と敷かれているという勾配の殆どない単調な大日平を、スケールの大きい雪山の景色に癒されながら1時間ほど歩いていくと、ルート上の一番の目印となる大日平山荘がようやく見えた。 意外にも7月からの営業となっている山小屋の除雪作業を重機を使ってやっていた。 大日平山荘には寄らず、トレースに従ってその手前から90度左方向に折れ、大日岳と中大日岳の鞍部からカール状になっている広い大きな沢を目指して進む。 相変わらず勾配が緩やかで助かるが、なかなか標高が稼げなくてもどかしい。 勾配が少し出てきた所でようやく前方に大日岳から下山してくるパーティーが2組見られた。 1組は称名滝からの日帰り、もう1組は室堂方面からの縦走者だった。 上のルートの状況を教わり、トレースに感謝しながら次第に急になっていく広い沢のほぼ中央を目印のローソク岩を目指して喘ぎ喘ぎ登る。 振り返ると、称名廊下を挟んで手前に大日平と奥に弥陀ヶ原の大雪原が見える。 トレースはほぼ登山道に沿ってつけられていたので、所々に出てくる急斜面ではピッケルを打ち込まないと登れないほどだった。 大日岳の山スキーのメインディシュと思われるこの広い大きな沢にはシュプールが幾つか見られたが、すでに旬は過ぎたようで、今日は日帰りのスキーヤーが3名しか見られなかった。 登山道どおり大日小屋へ向かってトラバースしていくトレースを右に見送り、冬道を大日岳へ直登する。 ようやく大日岳と中大日岳の鞍部に建つ大日小屋が目線の高さになったが、ここも大日平山荘と同様に除雪作業をやっていた。 午後3時過ぎ、ようやく待望の大日岳に着いた。 目の前にはお約束の剱岳の雄姿が大きく望まれ、疲れも一気に吹っ飛ぶ。 山頂の標識はまだ深い雪の下であるが、10年ほど昔の雪庇の崩壊事故の教訓か、剱岳の展望が良い北東に張り出した雪庇の方に行かないよう山頂には旗が立てられていた。 目の錯覚か、明日予定している奥大日岳はここより100mほど標高が高いが、ほぼ同じ高さに見えた。 大日小屋に向かって雪庇の発達した稜線を下り、その少し手前にテントを設営する。 予想どおり他に登山者はいない。 稜線上なので風はそれなりにあり、ブロックを積むのに1時間近くかかった。 休む間もなく水作りをしたが、水分の多い新雪はゴミや黄砂が全くなくフィルターで漉す手間が省けた。 夕飯を食べていると雷鳥が何度かテントの脇にやってきた。 日本海に面しているためか、夜中じゅう風が吹き続け安眠を妨げられたが、ありがたいことに未明にはピタリと止んでくれた。
天気予報では晴か曇か微妙であったが、朝方テントから顔を出すとまずまずの空模様で安堵した。 5時にテントを出発し、予定どおり奥大日岳に向かう。 昨日とは違い、ザックも軽く雪が硬く締っているのでコースタイムよりも早く歩けるのが嬉しい。 僅か10分ほどで中大日岳の山頂に着き、図らずも奥大日岳からのご来光となった。 中大日岳から先には、昨日すれ違った室堂方面からの縦走パーティーのトレースだけが綺麗に印されていた。 雪庇はこの時期なので小振りだが、新雪のお蔭で尾根は白くて美しい。 『七福園』という大岩が散在している(この時期は雪の下)ピークを過ぎると、緩やかな雪稜の登り下りとなる。 深く切れ落ちている称名廊下を挟んで弥陀ヶ原の大雪原が朝陽に輝き、『雪の大谷』が良く俯瞰される。 室堂周辺の山々や薬師、赤牛、水晶、鷲羽、三俣蓮華、双六、笠、槍も遠望され、関東側からの慣れ親しんだ景色とは異なる斬新さに心が弾む。 もちろん剱や立山や毛勝三山の眺めは言うに及ばない。 奥大日岳の基部まで少し下り、最後の登りとなる。 短い急斜面を直登すると一旦傾斜が緩み、前方に稜線を横断するトレースが見えた。 こんな所にヴァリエーションルートがあるのかと思ったが、近づいて良く見るとそれは真新しい熊の足跡だった。 先ほどまではまだ雪が硬かったので、直前にここを通ったに違いない。 熊の足跡に興奮しながら再び勾配を増した稜線を僅かに登ると、ちょっとした平坦地となった。 突然、今度は目の前を白い冬毛のオコジョが右から左に走っていった。 写真を撮ろうとしたが、残念ながら間に合わなかった。 やはり地元の方の言うとおり、ここは人の臭いが薄いのであろう。 間もなく指呼の間に待望の奥大日岳の頂が見え、6時40分に誰もいない山頂に着いた。 山頂のすぐ先には大きな雪庇が張り出し、そちらの方が少し高いような感じがしたが、とても危なそうで近づけない。 山頂にもまだかなりの雪が積っていたが、三角点と標識は不思議と雪に埋もれていなかった。 天気の動向が昨日からずっと気になっていたが、ありがたいことに陽射しはそこそこあり、周囲の山々をくまなく見渡すことが出来た。 当初は山頂からの剱や立山の迫力ある大展望を一番に期待していたが、意外にも純白の大日岳の美しさがそれを遥かに凌いでいた。 30分ほど絶景を肴に寛ぎ、重たい腰を上げる。 下山を始めてからしばらくして後ろを振り返ると、室堂方面から団体のパーティーが登ってくる姿が見えた。 後で下山中に会ったが、山岳部の学生さんのパーティーだった。 美しい雪稜と素晴らしい景観に、テント場までの帰路も全く苦にならない。 奥大日岳までの往復では誰にも出会うことなく、快適な歩みで1時間半ほどでテント場に戻った。 天気が崩れる心配もなさそうなので、のんびりとテントを撤収する。 奥大日岳から室堂に縦走するという単独の登山者がテントの傍らを通り過ぎると、大日小屋からも5人ほど人が出てきて、そのうちの1人がスキーを担いでこちらに向かってきた。 話を伺うと、昨日はボランティアで小屋の除雪作業を行い、これから各々の方法で下山されるとのことであった。 10時にテント場を出発。 大日小屋まで僅かに下り、登山道どおり大日岳の基部をトラバースして登りに使ったトレースに合流する。 雪が腐り始めたのでここからしばらくアンザイレンする。 今日も称名滝からは日帰りの登山者と山スキーヤーがそれぞれ1パーティーずつ登ってきただけで、奥大日岳へ登るパーティーにはその後出会わなかった。 図らずもGWに静かな山歩きが出来て良かった。 午後2時に登山口に下山し、観光客に紛れて称名滝を見物してから駐車場に戻った。