2 0 0 9 年  4 月  

《 18日〜19日 》    槍ケ岳 <スキー>

新穂高温泉 〜 槍平避難小屋(泊) 〜 槍ケ岳  (往復)

    先週に続き土日とも晴天の予報が出た。 当初は越後駒へ日帰りの山スキーを計画していたが、先週行かれた友人からのタイムリーな情報により来シーズンに延期し、槍ケ岳(飛騨沢)へ山スキーに行くことにした。 登山口の新穂高温泉から槍ケ岳を往復する飛騨沢のルートは、単独であれば何とか日帰りも可能だろうが、相棒の妻には無理なので、途中の槍平小屋に1泊することにした。 長野道の梓川SAに前泊し、9時に新穂高温泉を出発。 右俣林道に雪はなく、スキーを担いで歩く。 久々の20キロオーバーの荷物とスキー靴でペースは上がらないが、樹間から見える穂高や南岳そして笠ヶ岳や抜戸岳に目を遣りながら黙々と歩く。 穂高平避難小屋から1キロほど先で待望の雪が現れ、スキーを履いてシールで登る。 傍らにはマウンテンバイクが3台置いてあった。 今日も槍や穂高を日帰りで滑る猛者達が何人かいるようだ。 白出沢出合の直前でスノーシューを履いたガイドさんと思われる人がお客さんと下ってきた。 槍の穂先の梯子は完全に雪から出ているとの情報を聞いて嬉しくなった。 白出沢出合で林道は終わり、河原の岩が雪から顔を出し始めた白出沢を渡ると、対岸の登山道の取り付きには雪がなく、面倒臭いが一旦スキーを担ぐ。 すぐにまた雪が現われスキーを履くことが出来て良かった。 登山道に沿って赤布が木々に付けられ、ツボ足のトレースもあったのでこれに従ったが、下に見えている右俣谷の河原に導くピンクのテープも見られた。 渡渉があると嫌なので、安全策をとって登山道に沿っていくことにしたが、しばらくすると小さな起伏が断続し、シールでは登りにくくなったので、思い切って河原に下ることにした。 河原には先週のものと思われる古いスキーのトレースがあったので、それを辿って雪解けが進む沢の左岸を登る。 間もなく日帰りのボーダーとスキーヤーが1名ずつ相次いで下りてきた。 スキーヤーの方に話しを聞くと、4時に新穂高温泉を出発したとのことであり、雪はこの先も山頂までずっと繋がっているとのことで安堵した。 右俣谷の沢はいつの間にか登山道と合流し、半分雪に埋まった滝谷避難小屋のある滝谷出合に着いた。 滝谷出合からは北穂のドームが圧倒的な高さに望まれ、その迫力に思わず息を飲む。 滝谷出合を過ぎると谷は狭まり、ちょうどデブリが旬を迎え、谷を埋め尽くしていた。 今日のスキーヤーの下りのトレースを辿ってデブリ地帯に突入するが、重い荷物のせいで思いどおりにスキーが進まず苦労する。 1時間ほどデブリと格闘した後、喉のように狭まった急斜面をひと登りすると、開放的な槍平の平坦地となった。 背後には穂高の峰々がいつも見慣れた東や南の方角から見た姿とは全く違う山容で望まれ、B.Cとしては素晴らしい景観を誇っていた。 槍平は本当にだだっ広く、昨年の雪崩事故が全く嘘のようである。 休憩を多く取ったせいもあり、新穂高温泉から7時間半ほどで槍平小屋に着いた。 別棟となっている冬期小屋は未だ雪に埋もれていたが、2階の出入口は利用者の尽力で雪の上に出ていた。 小さな窓が一つあるだけで中は暗くあまり快適ではないが、広さは充分あり20人くらいは泊まれそうだった。 休む間もなくインナーブーツを乾かしたり水を作ったりして過ごすが、後続のパーティーは現われなかったので貸切りとなった。


 

登山口の新穂高温泉


穂高平避難小屋


穂高平避難小屋から1キロほど先で待望の雪が現れ、スキーを履いてシールで登る


白出沢出合から見た奥穂方面


登山道から右俣谷の河原に下る


古いスキーのトレースを辿って雪解けが進む沢の左岸を登る


滝谷出合からは北穂のドームが圧倒的な高さに望まれ、その迫力に思わず息を飲む


滝谷出合を過ぎると谷は狭まり、ちょうどデブリが旬を迎え、谷を埋め尽くしていた


槍平からは穂高の峰々がいつもと違う角度で望まれ、B.Cとしては素晴らしい景観を誇っていた


別棟となっている冬期小屋は未だ雪に埋もれていた


    静かな夜を過ごし、翌朝5時に冬期小屋を出発。 風もなく穏やかな朝で安堵する。 しばらく平坦地を進むと再びデブリが現われた。 谷が広く勾配も緩やかだったので大部分は迂回することが出来たが、帰りの滑りを楽しむ区間が短くなってしまうことが残念だ。 背後の奥丸山に朝陽が当たり始め、予報どおりの快晴の天気になりそうだ。 デブリを越えると飛騨沢はようやく美しい沢となった。 勾配は次第にきつくなり、放射冷却で表面が少し凍った硬い雪にシールが利かなくなりもどかしい。 大喰岳の西尾根を右に回りこみ、頭上に飛騨乗越が見えたところでスキーを担ぎアイゼンを着けてツボ足で登る。 7時半に飛騨乗越からのご来光となった。 背後の笠ケ岳や抜戸岳が白く輝き、足元の雪も少し緩み始める。 明るく開放的な飛騨沢は上を見ても下を見ても滑るには最高の斜面で、後で滑ることを想像しただけで心が弾む。 標高が上がるにつれて双六、三俣蓮華、鷲羽、水晶、黒部五郎、薬師などが次々と見えるようになり、疲れも吹っ飛ぶ。 素晴らしい風景に癒されながら長大なスロープを黙々と登り続けていくと、1人の猛者が下から登ってくる姿が眼下に見えた(結局日帰りの猛者はこの方だけだった)。 9時半に飛騨乗越に到着。 さすがにここだけは風が強い。 槍の穂先が大きく望まれ、槍沢越しに常念や蝶ケ岳が見えた。 槍ケ岳ばかりに目が向いていたが、ここから見た大喰岳は山頂から東と北に素晴らしいゲレンデを持っていることが分かり、是非次回の目標にしたいと思った。 予定どおり妻はここでスキーをデポしたが、私は時間が許せば是非槍沢も滑ってみたいと考えていたので、スキーを担いだまま稜線を槍岳山荘に向かう。 GWが近いので山小屋は開業の準備をしているのかと思ったが、まだ全く手付かずの状態で半分雪に埋まっていた。 槍沢からのトレースがなかったのも意外だった。 槍の穂先の雪は少なく、さほど困難なく登れそうに見えた。 ありがたいことに風もなく、冬期小屋の前で休憩してから山頂に登る。 取り付き付近の雪は少し脆かったものの、次第に雪の状態は良くなり労せず登れるようになったが、スキー靴にアイゼンを着けて梯子を登るのは本当にやっかいだった。 山小屋から45分と無雪期の倍以上の時間を要し、11時過ぎに山頂に着いた。 単独の猛者が相次いで登ってきたので話しを聞くと、未明の2時に新穂高温泉を出発したとのことだった。 快晴無風の山頂でお互いの記念写真を撮り合う。 生憎の春霞で穂高をはじめ周囲の山が全て霞んで見えるのが玉にキズだ。 前回の北鎌に続き、槍ケ岳は今回で6回目の登頂となった。 11時半に山頂を辞したが、下りもさすがに40分かかった。 雪が緩む1時に飛騨乗越から滑り始めることを決め、槍岳山荘からノートラックの槍沢へ滑り込む。 断腸の思いで予定どおり僅か5回のターンで切り上げたが、雪質は予想を上回る素晴らしさで、恐らく10回もターンしたら凧の糸が切れてしまい、槍岳山荘に戻れなくなってしまうだろう。 飛騨乗越で先行していた妻と合流し、1時前に飛騨沢の滑走を開始する。 単独の猛者はすでに視界から消え、大斜面は図らずも私達だけで貸切りとなった。 先ほどの素晴らしい槍沢の雪の感触は鮮明に体が覚えていたが、それとはまた一線を画した不思議な感触の精緻な雪質が滑り始めから途切れることなく続き、スキーが下手な私でも自由自在の滑りが出来る。 こんな雪質には今まで巡り合ったことはなく、山の神からの素敵なプレゼントに心も体もすっかり陶酔し、貸切りの開放感も手伝って、1ターン毎に叫び声を上げながら滑る。 さすがに沢が細くなる下部では雪が重くなってきたが、デブリ地帯の手前まではそれなりに滑りを楽しむことが出来た。 デブリ地帯は滑りを潔く諦め、左岸をずっと高巻いて槍平小屋まで斜滑降で滑る。 1時半に槍平小屋に着き、荷物をパッキングして2時過ぎに再出発する。 雪もザックも足取りも重くなり、現実に引き戻される。 さらに滝谷出合までのデブリ地獄の通過では、重い荷物に振られて何度も派手に転ぶ。 体全身の筋力をデブリとの格闘で使い果たしたので、その後も何でもないところでコケまくる始末だ。 先ほどの猛者のスキーのトレースに従い、白出沢出合の直前まで谷の左岸を滑り、沢山のテープや赤布がある地点から20分ほどスキーを担いで登り返す。 白出沢出合からは雪がなくなるまで林道を滑ったが、予想どおり昨日よりも手前で雪が切れていた。 スキー靴と重い荷物でその後の歩みは全く捗らなくなったが、妻はフキノトウの収穫に余念がない。 長い一日を終え、6時半に新穂高温泉に着いた。


翌朝、冬期小屋を出発し、しばらく平坦地を進む


デブリを迂回して登る


デブリを越えると飛騨沢はようやく美しい沢となる(背後は奥丸山)


飛騨乗越が見えてくると飛騨沢も広くなる


飛騨乗越からのご来光


抜戸岳と笠ケ岳(左奥)


明るく開放的な飛騨沢の中間部を登る


飛騨沢上部を登る


双六岳と三俣蓮華岳


鷲羽岳(中) ・ 水晶岳(右) ・ 薬師岳(中央奥)


飛騨乗越の直下を登る


飛騨乗越


飛騨乗越から槍沢越しに見た常念岳


飛騨乗越付近から見た大喰岳


槍岳山荘はまだ開業の準備をしていなかった


槍岳山荘の冬期小屋


槍の穂先の雪は少ない


槍の穂先をスタカットで登る


槍の山頂


山頂から見た穂高


山頂から見た北鎌と独標


山頂から見た裏銀座の山々


山頂から見た大天井岳


山頂から見た槍岳山荘と槍沢


素晴らしい雪質だった東側の『槍沢スキー場』


笠ヶ岳を正面に見ながら貸切りの『飛騨沢スキー場』を滑る


飛騨沢の上部から中間部


飛騨沢の中間部


心も体もすっかり陶酔し、貸切りの開放感も手伝って、1ターン毎に叫び声を上げながら滑る


やや雪が重くなってきた飛騨沢の中間部から下部


デブリ地帯から槍平小屋までは左岸をずっと高巻いて斜滑降で滑る


荷物をパッキングして槍平小屋を再出発する


滝谷出合までのデブリ地獄


雪解けが進む滝谷出合


白出沢出合への登り返し地点の河原


2 0 0 9 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P