2 0 0 9 年  4 月  

《 12日 》    鳥海山 <スキー>

湯ノ台 〜 滝ノ小屋 〜 伏拝岳 〜 七高山 〜 新山  (往復) 

    鳥海山には山スキーの好ルートが多いが、今回は南側の湯ノ台を登山口とするルートで行くことにした。  前日の夜に湯ノ台周辺で取り付きの下見を行い、家族旅行村のバンガローの先から入山することにして、その駐車場で前泊する。 標高600mほどの駐車場は除雪されていたが、バンガローの脇にはまだ雪が豊富に積っていた。 夜中じゅう強い風が吹き続け、未明には風の圧力で車のドアが開かないほどだった。 周囲が明るくなるのを待って5時前にスキーを履いて出発。 他に車はない。 登山道の標識は雪の下で見つからず、登りのトレースも無かったが、昨日のものと思われる一本の下りのスキーのトレースを辿り、樹林帯の尾根に取り付く。 この標高で自然林なのには驚く。 しばらくは淡々と尾根を辿って標高を上げていったが、途中からトレースは鳳来山(858m)の山腹を右から巻くようになった。 支尾根を何度もトラバース気味に無理やり乗っ越すトレースには閉口したが、ルーファンに時間を費やさずに済んでいるため我慢するしかない。 間もなくご来光となり、その直後に冬期通行止めとなっている滝ノ小屋への車道からと思われる古いトレースが合流した。 更に明瞭となったトレースを辿っていくと、登山口から1時間ほどでようやく鳳来山直下の横堂のコルに出た。 鳳来山の尾根は痩せているのみならず雪庇が所々で崩壊していたので、トラバースは正解だったことが分かった。 横堂のコルからシールではぎりぎりの急登を何とか乗り切ると傾斜の緩いブナ林となったが、未だ登山道を外れているのか、赤布の類は一切見当たらなかった。 30分ほど密度の濃いブナ林をトレースに従って登っていくと大黒台の平坦地となり、柔らかな朝の陽射しに照らされた鳥海山が姿を現した。 未明の強い風も止み、絶好の登山日和となりそうだが、気象条件の厳しいこの山は最後まで油断が出来ない。 ここからは『酒工』と書かれた赤旗が細い竹竿の先につけられ、所々に標識の代わりに立っていた。 間もなくブナ林も終わり、所々に亀裂が入った緩やかな傾斜の雪庇の尾根を1時間ほど辿ると、ようやく湯ノ台からのルートの唯一の目印となる滝ノ小屋(1200m)に着いた。 意外にも滝ノ小屋は雪の上に完全に露出していた。 やはり例年より雪が少ないのだろう。 滝ノ小屋の背後には気持ち良さそうな無木立のオープンバーンがあり、シュプールも数本見られたが、予想どおり入山者が少ないので全然荒れていない。 滝ノ小屋からは積極的にトレースを追わず、目の前の風景と地図を見比べながら、登り易い斜面を登ることにした。 赤旗はスキーのツアー用ではなかったようで、滝ノ小屋からは山頂に向けて真直ぐに伸びている雪の剥げた尾根の方に続いていた。 滝ノ小屋から30分ほど無木立のオープンバーンを斜上しながら登っていくとだだっ広い平坦地となった。 所々で潅木の茂みが露出しているものの、山頂(外輪山)からの長大なスロープは標高差で600mほどあり、まさに春先の鳥海山は山スキー天国であることが分かった。 登山道の右寄りをキープしながら外輪山の一角である伏拝岳を目指して長大なスロープを直登気味に登る。 昨日の月山とは全く違い、前後にスキーヤーの姿は無い。 昨日の入山者も少なかったようで、トレースやシュプールは殆ど見られなかった。 4月の上旬に鳥海山に登れるだけでも嬉しいのに、下りではこの大斜面が待っているかと思うと思わず万歳したくなるような心境だ。 伏拝岳(頂上稜線)に近づくにつれて傾斜がきつくなり、2000mを超えた辺りからスキーを担いでツボ足に替える。 間もなく御浜神社方面からの登山道が合わさる伏拝岳に着いた。 さすがに頂上稜線は風が強い。 眼前には全く予期していなかった(忘れていた)山頂である新山の威容が目に飛び込んできて思わず息を飲んだ。 一昔前の夏に訪れた時とはまるで違う何と神々しい頂であろうか!。 登山口を発ってからすでに7時間近くが経ち、長時間の行動で疲労困憊した妻とスキーを伏拝岳に残し、はやる気持ちを抑えながら単身山頂へ向かう。 西からの風は相変わらず強く、時々飛ばされそうになる。 行者岳を越えた先の大清水からの登山道との分岐には新山へ向かう登山道の標識があったが、もちろんトレースはなかった。 新山へはここから火口に向けて急斜面を50mほど下降し、100mほど登り返すという感じであった。 風が強く雪も硬そうだったので、とりあえず指呼の間となった外輪山の最高点である七高山に登り、様子をうかがうことにした。 山頂直下には大清水から登ってきたという2人のスキーヤーが寛いでいた。 猫の額ほどの狭い七高山の山頂は展望抜群で、東の大清水や北の祓川方面には南の湯ノ台以上に長大なスロープが広がっていた。 七高山の山頂から見た新山は日本離れしたユニークな景観を誇り、登高意欲をかきたてられる。 風は強いが春の風なので厳しくはない。 山頂は爆風だろうが、登る斜面は東側なので風は当らないだろうと判断し、先ほどの分岐に戻って火口への急斜面をアイゼンの爪を利かせながら慎重に下る。 火口から新山への登り返しは見た目ほど急ではなく、予想どおり風も弱かったので、分岐から僅か20分ほどで労せずに新山の山頂に着いた。 意外にも山頂は無風だった。 1人の地元のスキーヤーがいたので話しを伺うと、中島台という所から登山道のない北側斜面を千蛇谷経由で登ってこられたとのことであった。 このルートは地元では良く使われているらしく、新山までシールで登れる唯一のルートであることを教わった。 但し、例年4月の上旬はまだ雪が硬く、今日のように労せずに新山の山頂には立つことは難しいとのことであった。 山頂には雪に覆われた似たような岩塔が乱立し、どこが最高点か分からなかったが、その方に教えてもらい10数年ぶりの嬉しい登頂が叶った。 生憎の春霞で周囲の山は見えないが、新山同様日本離れした外輪山の景色を充分堪能した。 妻を待たせているので早々に山頂を辞したところ、図らずもこちらに向かってくる妻の姿が外輪山の上に見えた。 火口から急いで外輪山へ登り返し妻と合流した。 新山はもう無理なので再度七高山へ妻と登る。 先ほどのスキーヤーが新山の斜面を華麗に滑っていく。 午後2時、伏拝岳に戻って滑走を開始する。 他にスキーヤーはいないので、眼下の長大なスロープは私達だけで貸切だ。 上部から中間部にかけての雪質は申し分なく、あまりの開放感と斜面の心地良い感触にワンターン毎に絶叫しながら滑る。 至福の時とはこういう状況をいうのだろうか。 下部ではさすがに雪が少し重くなってきたが、斜面が荒れていないので快適だ。 だだっ広い平坦地を横切り、滝ノ小屋を見下ろす幅の広いオープンバーンを先ほどの大滑走の余韻に浸りながら滑る。 滝ノ小屋からは、登ってきた自分達のトレースを忠実に辿り、大黒台までの長い緩斜面をあっという間に滑る。 ブナ林を過ぎ、登りで苦労した鳳来山の巻き道は下りでも雪が腐り手を焼いたが、渡渉や道迷いがなかったので午後4時過ぎに駐車場に戻った。


鳳来山の山腹を巻くのに苦労する


鳳来山直下の横堂のコル


大黒台の平坦地から見た鳥海山


所々に亀裂が入った緩やかな傾斜の雪庇の尾根


赤旗に導かれて大黒台を登る


湯ノ台からのルートの唯一の目印となる滝ノ小屋


滝ノ小屋の背後の無木立のオープンバーンを斜上する


平坦地から見上げた外輪山からの長大なスロープ


だだっ広い平坦地から長大なスロープを登り始める


思わず万歳したくなるような明るく開放的な大斜面


僅かにシュプールが見られた中間地点


登山道の右寄りをキープしながら登る(背後のピークは月山森)


伏拝岳手前から見た笙ヶ岳


伏拝岳から見た神々しい新山


外輪山の一峰の行者岳


大清水からの登山道との分岐付近から見た新山


外輪山の最高点の七高山


七高山から見た大清水方面の長大なスロープ


七高山から見た新山


新山の山頂


火口から見た七高山


七高山の山頂


外輪山から見た千蛇谷


伏拝岳から貸切の長大なスロープを滑走する


上部から中間部にかけての雪質は申し分ない


下部では雪が少し重くなってきたが、斜面が荒れていないので快適だ


下部から平坦地へ


滝ノ小屋を見下ろす幅の広いオープンバーンを大滑走の余韻に浸りながら滑る


登ってきた自分達のトレースを忠実に辿り、大黒台までの長い緩斜面をあっという間に滑る


大黒台直下から見上げた鳥海山


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