2 0 0 9 年  3 月  

《 21日 》    焼岳 <スキー>

中ノ湯 〜 大正池 〜 焼岳  (往復)

    仙ノ倉岳からシッケイ沢を滑る予定でいたが、諸事情により予定を変更して焼岳に行くことになった。 新島々の『村の駅アルプスの郷』に前泊し、6時に釜トンネルの前に着く。 連休中なので、沢渡からのタクシーや近隣の中ノ湯・坂巻温泉からの送迎の車で登山者が次々とやって来る。 妻とスキーを降ろして坂巻温泉の駐車場(@500円)へ行き、約2キロの坂道を小走りで釜トンネルへ戻る。 先行した妻を追いかけるように6時半に釜トンネルを出発。 釜トンネルを歩くのは久しぶりだ。 2年前の同時期に焼岳を目指したが、当日の朝になって天候が急変し、釜トンネルを歩くことなく入口で引き返した苦い思い出が蘇ってきた(その日は隣の安房山で雪崩による死亡事故があった)。 予想どおり釜トンネルの出口からは除雪されていてたので、スキーを担いだまま大正池まで車道を歩く。 梓川越しに焼岳と荒々しく崩壊した下堀沢が目に飛び込んでくる。 天気は予報どおりの快晴だが、少し風があるのが気掛かりだ。 間もなく大正池の手前から待望の穂高連峰が雄大に望まれ心が弾む。 上高地へ向かう登山者と別れ、大正池の湖尻に掛かる橋を渡って左の雪壁にトレースを探しながら林道を100mほど行くが、それらしき跡が見当たらないので、林道が右にカーブする手前から左の雪壁に取り付く。 涸れ沢を渡り中堀沢と下堀沢の間の広い尾根の末端で再びトレースを探しながらしばらく徘徊すると、ようやく複数の古いトレースが見つかり安堵した。 すでに8時になっていたが、ここから山頂までの標高差は1000m弱なので、お昼頃には山頂に着くだろう。 取り付きの勾配はきつく樹林も濃かったので、そのままつぼ足で登る。 雪が締っていて歩き易い。 30分ほど明瞭なトレースを辿ると、傾斜がなだらかになってきたので、シールに切り替える。 次第に明るさを増してくるダケカンバの樹間からは、正面に焼岳、右手には穂高の山々、そして振り返れば霞沢岳が見え、全く退屈しない。 再び斜面が急になってきたが、雪の状態が良かったので、そのままシールで登る。 尾根の末端から1時間半ほどで樹林が疎らになり、再び傾斜が緩んだ。 眼下に上高地や大正池が見え、穂高の山々が遮るものなく望まれる素晴らしいロケーションだ。 間もなく広い無木立の平坦地に着くと、南に乗鞍、十石山、四ツ岳が見えてきた。 展望は良いが風が強いので、短い休憩で先に進む。 所々で岩肌が露出している正面の焼岳北峰の基部の雪壁を左から巻くように斜上していくと、ようやく“ボウル”と呼ばれるカール状の地形が見えてきた。 焼岳の南峰と北峰の間のコルから派生するこのボウルが今日のメインディッシュである。 意外にもボウルの中央にはシュプールではなく、中ノ湯から登ってくる登山者のつぼ足のトレースが見えた。 雪の状態は相変わらず良いので、そのままシールで登り続ける。 上と下に登山者のグループが見えたが、何故かスキーヤーの姿は見られなかった。 一時は焼岳も人気の滑降ルートだったようだが、ブームは終わったのであろうか?。 ボウルの傾斜はそれほどきつくなく、またコルからの吹き下ろしの風もないので、快適な登高となる。 11時半にコルに着くと、ようやく下から一人のスキーヤーが猛スピードで登ってくる姿が見えた。 コルにスキーをデポしてアイゼンを着け、頭上の北峰の頂へ5分ほどで登る。 岩の裂け目から勢い良く吹き上げている噴煙の臭いが鼻につく。 北峰の頂からは先ほどから見えていた穂高や霞沢や乗鞍は言うに及ばず、槍、笠、抜戸、双六、鷲羽、水晶、そして白山も遠望され、その大展望に思わず歓声を上げる。 間もなく山頂に着いた地元の単独スキーヤー氏と写真を撮りあうと、彼はこれから無雪期には登山禁止となっている南峰(こちらの方が標高が僅かに高い)にも登るとのことであった。 コルを隔て指呼の間に見える南峰の頂稜部には古いトレースの形跡はあるものの雪の付きかたが微妙で、雪が腐り始めたこの時間帯では登頂は少し困難なように思えた。 妻は展望の良い北峰だけで充分満足したらしく、あえて危険を冒してまでも南峰には行かないというので、彼の後に続いて2本のピッケルで確保しながら登ることにした。 予想どおり僅か数mほどの核心部のミックスの部分と急斜面のトラバースでは一歩一歩足を深く蹴り込みながらのスリリングな登攀となった。 コルからの往復に30分ほど要した南峰の頂から北峰を見ると、確かにこちらの方が明らかに標高が高いことが分かった。 日本離れしたような南峰の頂からの特異な風景をゆっくりと鑑賞したかったが、下りでの危険性を考えてすぐに引き返す。 コルでゆっくりランチタイムとし、1時半に滑降開始。 すでに単独スキーヤー氏や他の登山者も下山したので、ボウルは私達の貸切りとなった。 斜度は正に中級程度であり、ザラメに近い雪質は私好みで安心して飛ばせる。 コルから標高差で200mほどの上部の大斜面を大きなパラレルで一気に滑る。 その先もボウルは続いていたが、南峰の頂から派生する右手の尾根にトラバース気味にスキーを走らせ、中ノ湯方面へ下る無木立の斜面にシュプールを刻む。 再び細くなったボウルの下部を横切り、少し登り返して自分達の登りのトレースに戻る。 陽射しは暖かいが気温はあまり上がらなかったので、この辺りでも雪質はまずまずであり、樹林帯の入口まで充分滑りを楽しめた。 後は全くの消化試合だと思っていた樹林帯も、雪は重めながらモナカではなかったので、樹間からの穂高の山々を愛でながらそれなりに楽しめた。 今日のように天気さえ良ければ大正池と霞沢岳の山頂が良い目印となり、どこを滑っても全く迷う心配はない。 先ほどの単独スキーヤー氏は下堀沢の梓川寄りを往復されたようで、今日このルートを辿ったのは私達だけのようだった。 釜トンネル入口までの車道歩きと坂巻温泉への車の回収も、良い天気に恵まれた山行の余韻で全く苦にならなかった。  


釜トンネルの出口


梓川越しに見た焼岳


大正池の湖尻から見た朝の穂高連峰


取り付き付近の樹林帯をつぼ足で登る


ダケカンバの疎林を抜け穂高の山々を望む


広い平坦地から見た乗鞍岳方面の山々


焼岳の南峰と北峰の間のコルから派生する“ボウル”


ボウルの中間部をシールで登る


ボウルの上部と噴煙を勢い良く吹き上げている焼岳の北峰


ボウルの上部をシールで登る


焼岳の北峰直下


焼岳の北峰(背景は笠ヶ岳と抜戸岳)


焼岳の北峰から見た穂高


焼岳の南峰


焼岳の南峰直下から見た北峰


焼岳の南峰から見た乗鞍


南峰と北峰の間のコルからボウルを見下ろす


ボウルを滑る


ボウルを滑る


ボウルから右手の尾根にトラバースする


ボウルを振り返る


ボウルから見た霞沢岳

中ノ湯方面へ下る無木立の斜面にシュプールを刻む


少し登り返して自分達の登りのトレースに戻る


眼下の大正池を目標に下る


大正池の湖尻に戻る


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