2 0 0 9 年  3 月  

《 15日 》    地蔵岳

御座石鉱泉 〜 燕頭山 〜 鳳凰小屋 〜 地蔵岳オベリスクの基部  (往復)

    前日に雨が降り雪の状態が不安定なので、今週も日帰りの登山となった。 鳳凰小屋のHPに『御座石鉱泉から地蔵岳までトレースがある』という最新情報が記されていたので、昨日稜線付近で雪は降っただろうが、この時期としては鳳凰三山の雪は少ないだろうと思った。 登山口の御座石鉱泉の駐車場に前泊し、4時半に出発。 駐車場には他に車はなかった。 無積期であれば私を含め日帰りで鳳凰三山を周遊する人もいるが、雪積期は極端に少ない。 今回は鳳凰三山の周遊ではなく、久々に南アルプスの展望が良い高嶺を訪れてみたいと思った。 余力があれば観音岳まで足を延ばしてみるつもりだ。 登り始めて1時間ほどで東の空が朝焼けに染まり、6時ちょうどに大菩薩嶺の上から見事なご来光があった。 風もなく、予報どおりの良い天気になりそうだ。 その直後、先週の七面山に続き登山道の脇に仁王立ちしていたカモシカと遭遇する。 登山道の雪は意外と早く1400m辺りから見られるようになり、軽量化のため車にワカンを置いてきたことが少し悔やまれる。 陽の当たらない尾根の北側斜面を登るようになり、雪は硬く締ったままで歩き易い。 トレースの歴史はかなり古そうだ。 勾配は次第に急になったが、アイゼンを着ける手間を惜しんで先に進む。 2000mを超えると昨日の新雪が足元に数センチ見られるようになり、登高ペースの目安となる燕頭山に御座石鉱泉から3時間ほどで着いた。 薬師岳・観音岳が並んで見えたが、やはり昨日の雪で真っ白だ。 朝食を食べ、スパッツ・アイゼンを着けて鳳凰小屋へ向かう。 燕頭山までしか登らない人もいるのか、新雪によりここから先のトレースは消失していた。 このルートは無積期に二度歩いたことがあるので大雑把なイメージは掴めているが、やはりトレースがあるのと無いのとでは大違いだ。 樹間から見える甲斐駒や地蔵岳、そして八ヶ岳も新雪で真っ白だ。 高嶺からの展望は最高だろうと、この時は期待に胸を膨らませていた。 燕頭山から1時間ほどは尾根を忠実に辿り、軽いラッセルでコースタイムどおりのペースで登れたが、標高2200m辺りで登山道が尾根の北側を巻くようになると、木の幹につけられた頼りの赤ペンキも雪の下に埋まり、何度も道を見失いがちになる。 所々にあらわれる沢状の地形の所では急斜面のトラバースとなり、雪がとても深い。基本的には膝下のラッセルだが、時々股まで埋まる。 ワカンがあってもとても使い辛い状況だ。 その先も登山道はだらだらとした登り下りとなったが、ここが今日の核心だった。 先週まであったと思われるトレースに新雪が吹き溜まり、とうとう膝上のラッセルとなった。 もちろん交代要員はいない。 腕と膝、そして体全身を使って前進する。 日陰なのが唯一の救いだ。 10mほど進むのに何分もかかり、このままでは山頂はおろか鳳凰小屋までも辿り着けない。 しかしラッセルに焦りは禁物だ。 1時間ほどでようやく一番雪の深い所を脱する。 再び膝下のラッセルとなると、それが普通のような妙な錯覚を覚える。 11時前にようやく鳳凰小屋に到着。 山小屋の屋根には大量の雪が積っていた。 無積期であれば御座石鉱泉から4時間半ほどで着くが、今日はすでに6時間半近くかかった。 時間だけではなく、体力もすでに相当消耗していた。 目標の高嶺はおろか、地蔵岳(オベリスク)まで行くことも無理だろう。 眼前に聳える観音岳がとてつもない高さに見え、“敗退”の二文字が頭をかすめる。 しかし、雲ひとつ無い快晴の天気とあまり上昇していない気温に一旦萎えかけた気持ちを奮い起され、帰路に要する時間を計算して地蔵岳を目指すことにした。 無積期では考えられないが、山小屋からの登山道も分からず、ただでさえ時間がないのにしばらく周囲を徘徊する。 ようやく見つけた赤ペンキを頼りに登り始めたが、やはり膝下のラッセルでペースはあがらない。 時間の制約があるので無我夢中で急登の斜面と格闘する。 最初の1時間で稼いだ標高は僅か150mであった。 さらに30分ほど喘ぎながら登ると樹林が切れ、頭上にオベリスクの岩塔が見えた。 登山道は賽ノ河原に向けて斜上していたが、それを辿っていては時間切れになってしまうだろう。 オベリスクへ直上する標高差200mほどの無木立の急斜面を、雪崩の可能性はないと判断して直登気味に登ることにした。 稜線からの冷たい風が吹き下ろすため新雪の量は少なく、また下部の雪はすでに硬く締っているため膝上まで踏み抜くこともない。 一定のリズムで登ることが出来るようになり、この作戦は功を奏した。 しかし悲しいかな体力が続かず、5〜10歩毎に立ち止まって深呼吸を繰り返す。 正に高所登山に近い感覚だ。 鳳凰小屋を出発する時に設定した時間ギリギリの1時半にオベリスクの岩塔の基部に辿り着いた。 高嶺や赤抜沢の頭に遮られ、南アルプスの主脈の大展望はお預けであったが、新雪を装った眼前の甲斐駒、アサヨ峰、仙丈ケ岳が大きく望まれ、北アルプスや乗鞍もこの時間にしては稀なくらいにはっきりと見えた。 目的の高嶺までは届かなかったが、ラッセルでここまで辿り着けた達成感はそれを差し引いてもお釣りがくるほどだった。 オベリスクのてっぺんに登る時間はないので、写真だけ撮って早々に下山する。 雪の状態が良かったので、登りでは2時間半かかったところを僅か30分で鳳凰小屋まで下る。 あとは自分達のトレースを辿るだけなので気は楽だ。 燕頭山への軟雪の登り返しに苦しめられたが、計算どおり6時ちょうどに御座石鉱泉に下山することが出来た。 


燃えるような朝焼け


燕頭山への登り


燕頭山の山頂


燕頭山の山頂から見た薬師岳(左)と観音岳(右)


樹間から見た甲斐駒


樹間から見た地蔵岳


樹間から見た八ヶ岳


足を踏み抜いた下からあらわれた標識


鳳凰小屋の冬期小屋


オベリスクへ直上する標高差200mほどの無木立の急斜面


オベリスクに向けて直登気味に登る


オベリスクの岩塔を仰ぎ見る


オベリスクの岩塔の基部


オベリスクの岩塔の基部から見た甲斐駒


オベリスクの岩塔の基部から見た早川尾根とアサヨ峰


オベリスクの岩塔の基部から見た仙丈ケ岳


オベリスクの岩塔の基部から見た観音岳


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