2 0 0 9 年  2 月  

《 15日 》    編笠山 ・ 権現岳

観音平入口 〜 富士見平 〜 編笠山 〜 ギボシ 〜 権現岳  (往復)

    冬の八ヶ岳はヴァリエーションやアイスクライミングの愛好家で赤岳周辺は賑わっているものの、編笠山から赤岳の間は入山者が少ない。 今回計画した編笠山は10年以上前の年末に、山頂直下の胸まで埋まる新雪のラッセルで登頂出来ず、その翌週にそのままの形で残っていた自分のラッセルの跡を踏んでリベンジを果たしたほろ苦い想い出のある山だ。 今回はネットの情報により、先月末に入山者があったことが分かったため、トレースと雪の条件次第では権現岳まで行ける可能性もあると思った。 『道の駅こぶちざわ』に前泊し、未明に車で5分ほどの観音平へ上がる車道(冬期通行止)の入口のゲートに移動する。 今日日帰りで編笠山に登る人は若干いるだろうが、この時間にはゲートの周辺に車はない。 ヘッドランプを灯し、5時にゲートを出発する。 昨日は異常気象で観測史上稀にみる暑さであったが、その影響で気温は7度もある。 風が少しあるので上の状況が気がかりだ。 ゲートからすぐの観音平へ通じる登山道を右に見送り、雪の全く無い車道を1時間ほど歩く。 日の出前に富士見平から登山道に取り付くが、雪のかけらもなく道も明瞭で登りやすかった。 観音平からの登山道が合わさる雲海の展望台の手前から登山道に雪が見られるようになり、押手川の分岐付近(2100m)でようやく雪山らしい風景になった。 雪に印された靴跡の状況から、昨日の入山者は1パーティーの2名のみであり、この先の青年小屋に泊まられていることが推測されたが、この予想は的中していたことが後で分かった。 押手川の分岐には青年小屋への巻き道に古いトレースが見られたので、帰路で使える期待が持てた。 押手川の分岐から先もこのところ雪が降っていないようで、古いトレースとその上に刻まれた昨日のトレースを辿って効率良く登ることが出来た。 以前のラッセルの記憶が嘘のようだ。 樹林帯が終わる手前でアイゼンを着け、予定よりも少し早い9時半前に編笠山の山頂に着いた。 雲一つない快晴の天気に恵まれ、今日の目標の権現岳を右手に、ギボシ・赤岳・横岳・阿弥陀岳の峰々が悠然と頭を揃えて鎮座する素晴らしい景観に、ここまでの疲れも一気に吹っ飛ぶ。 ありがたいことに風はそれほど強くなかった。 写真撮影もそこそこに北側斜面のトレースを確認する。 雪は予想以上に深かったが、ここまでのトレースと同じ主と思われる新しいワカンの跡が眼下の青年小屋方面に続いていた。 正午までに権現岳に着かなければ引き返すことを心に誓い先に進む。 青年小屋周辺の積雪は1mほどで、6畳ほどの冬期小屋へは宿泊者の尽力で1階の入口から入ることが出来るようになっていた。 先ほど押手川の分岐で確認した巻き道のトレースは見つからず、雪も深いので帰路に使うのは諦めざるを得なかった。 昨日ここに泊まったパーティーが出発した時間帯はまだ雪が締っていたようで、次のピークであるのろし場へはアイゼンの爪跡のトレースとなっていた。 時々膝まで埋もることもあるが、ギリギリ雪の腐る時間には間に合った。 雪の腐る帰路にはラッセルは必至だが、下りなので何とかなるだろう。 樹林が切れたのろし場付近からは再び風が少し出てきた。 のろし場から仰ぎ見たギボシの肩は荒々しく標高差以上の高さを感じるが、雪は少なく岩肌がかなり露出していた。 逆に権現岳は指呼の間に望まれ、目の錯覚でギボシを通らずに登れるように見えた。 のろし場からは風の通り道となっている痩せた雪稜をしばらく登り、所々で雪が剥げた登山道どおりにギボシの肩の山腹を巻いてから急斜面を一旦戻るようにして肩に登る。 肩からは再び痩せた雪稜をしばらく登り、肩の通過と同じようにギボシの頂稜部の山腹をトラバース気味に巻いていく。 少し腐りかけた脆い雪の急斜面には新しい踏み跡がしっかり刻まれているが、もしこれがなければザイルでの確保が必要だ。 トラバースの途中で権現小屋の傍らに人影が見えた。 トレースの主に違いない。 トラバースを終えてギボシの反対側の痩せた雪稜と合流したが、山頂方面にはトレースはなく、そのままトレースどおり雪稜を一旦下って権現岳直下の権現小屋に着いた。 小屋の傍らで寛いでいた2名の登山者にラッセルの御礼を言って話しを伺うと、お二人は『船橋勤労者山の会』の猛者であり、このところの陽気で他にも入山者がいるのではと期待されていたようで、昨日・今日とラッセルで大変なアルバイトを強いられたとのことであった。 今日はこれから三ツ頭を越えて天女山方面に下られるとのことで、私も一瞬同じルートで下ってしまおうかと思ったが、車の回収に車道を2時間以上歩かなければならないので思い留まった。 終始このお二人のトレースに助けられ、11時半に権現岳の山頂に到着。 ここはいつでも風が強い。 帰路の雪の状態が心配だったので、写真を撮っただけで山頂を辞したが、ここから見た白いギボシの美しさに惹かれ、山頂まで登ってみることにした。 山腹をトラバースする踏み跡を左に見送り、雪庇に注意しながら痩せた雪稜を慎重に登ると、僅か数分でギボシの山頂に着いた。 猫の額ほどの狭い頂は高度感抜群で、まるでアルプスの山の頂のような錯覚を覚える。 権現岳は風が強かったが、ここは何故か風はない。 ゆっくりと寛いでいきたいところであるが、天気が良過ぎるのが災いし、帰路の雪の状態が心配なので、アンザイレンして早々に下山にかかる。 トラバースを終え、一番やっかいな核心部をスタカットで下り、眺めの良いギボシの肩で大休止とする。 来月の初旬に予定している阿弥陀岳の南稜もだいぶ岩肌が露出し、まるで残雪期の山のようだ。 予想どおり、のろし場から青年小屋までの間は雪が腐って何度も足を取られたが、懸念していた編笠山への登り返しでの雪の状態は午前中と変わらず、労せずして二たび編笠山の山頂に立った。 すでに2時となり山頂に人影はないが、足跡の状況から3〜4名の登山者がいたことが推測される。 編笠山からの下りの樹林帯では陽射しが登山道に届かないため雪は適度に締り、アイゼンが良く利いた。 最後の富士見平からの車道歩きは憂鬱だったが、図らずも道路の端には幅1mほどのふっくらとしたカラマツの葉の絨毯が車止めのゲートの前まで切れ目なく続き、登山道よりも快適だった。 春霞に浮かぶ甲斐駒を仰ぎ見ながら、ゲートには5時前に着くことが出来た。


押手川の分岐


編笠山の山頂


編笠山の山頂


青年小屋付近から見たギボシ(左)と権現岳(右)


のろし場付近から見た編笠山


のろし場から見たギボシの肩


風の通り道となっていた雪稜


ギボシの肩への登り


ギボシの肩から見た阿弥陀岳(南稜)


ギボシの肩から見たギボシ


ギボシの肩から見た権現岳


ギボシの肩と(中)と編笠山(左)


ギボシの山腹のトラバース


トラバース終了地点から見た赤岳


トラバース終了地点から見た権現岳


ギボシから権現小屋へ


権現小屋


権現岳の山頂


権現岳の山頂


権現岳の山頂から見た赤岳(右)・硫黄岳(中)・阿弥陀岳(左)


権現岳の山頂から見たギボシ


権現岳の山頂から見た編笠山


権現岳の山頂から見た三ツ頭


権現小屋前の三叉路


ギボシへの登り


ギボシの山頂


雪の脆いトラバース


ギボシの肩


編笠山への登り返し


2度目の編笠山の山頂


2 0 0 9 年    ・    山 行 の 報 告    ・    T O P