カヤンベ(5790m)

   12月29日、決められた11時半に一斉に起床し、パンやチーズを食べ持参したスープを飲んで零時半に出発。 疲れが溜まっていたのか熟睡してしまったが、不思議と頭痛は全く無かった。 満天の星空で気温も低くないが、山小屋の前でも風が吹いていたので、オーバーパンツの下に薄いダウンパンツを履く。 山小屋から山頂までの標高差は1200mほどあり、順応途上の体には結構きつい。 氷河の取り付きまで1時間ほどで着くと思われたが、順応不足や風が強かったことでペースが上がらず1時間半を要し、そこからアイゼンを着けアンザイレンして出発するまで2時間以上掛かってしまった。 

   取り付きからのパーティー編成はセバスチャンに私と妻、ドメニカに哉恵さんとOさん、平岡さんに朋子さんとIさんとなった。 氷河は風で硬く締まり登り易かったが、斜度がそこそこあったので息が切れる。 前を登る妻は順応が上手くいっているようで、私が必死に登らないとついていけないほどペースが速かった。 後続の哉恵さんと及川さんのパーティーとの間隔が開いてしまうほどだったので、時々ロープを引っ張ってペースを落とすように促す。 暗闇の中、風はますます強くなり不安が募るが、上方に揺れている先行パーティーのヘッドランプの微かな灯りに勇気づけられる。 

   取り付きからほぼ1時間半毎に休憩し、6時前にようやく周囲が明るくなった。 頭上には頂稜部の巨大なセラックが威圧的に立ちはだかり、山頂はまだ遠そうに思えたが、風はどうにか収まり青空も広がってきたので、登頂の可能性は高まった。 セラックの真下まで来た時、セバスチャンからあと1時間ほどで山頂に着くが、上空の風が非常に強いので到着後は後続を待たずに引き返すとの指示があった。 最後の力を振り絞って急斜面を駆け登りセラックの中に入ると、上からロープをフィックスしてクライムダウンしてくるパーティーを待つことになった。 セラックの状態が悪いのか、長い間待たされた。 この核心部をクリアーして上に抜ければ待望の山頂が待っていると思ったのも束の間、下りてきた知り合いのガイド二人から上の状況を聞いたセバスチャンから「山頂直下のクレバスが5mほど開いて渡ることが出来ないため、ここで引き返します」と、突然の下山指示があった。 想定外の衝撃的な出来事に気持ちが萎えてしまい、上に登ってクレバスを見ることなく下山指示を受け入れてしまったことが今となっては悔やまれる。 少し離れた所で待機していた哉恵さんとOさんに身振りで合図し、断腸の思いで下山を始める。 強い風と順応不足の体にムチ打ってここまで登ってきたことに加え、深みを増した空の青さが悔しさに拍車をかける。 セラックの入口で平岡さんと登ってきた朋子さんとIさんのパーティーを待って造り笑顔で記念写真を撮った。 

   登りでは暗くて分からなかったが、氷河は広く凹凸も少なかったので、スキーをするには絶好の斜面だった。 雪はまだ締まったままだったので下山のスピードは速い。 取り付きには10時に着き、1時間後の11時に山小屋に戻る。 車は1台しかないので先発隊の女性陣を見送り、しばらく食堂で寛いでから平岡さんご夫妻とドメニカと一緒に車道を歩いて下る。 運良く途中で他の車の荷台に乗せてもらい、下からUターンしてきたセバスチャンの車に拾われる。 途中で乗り換えたバスの中では今日も皆爆睡だ。 今日の宿泊先のパパジャクタ温泉に向かう途中、デポした荷物をピックアップするためにグアチャラの宿に立ち寄ったが、私達の落胆度合いがとても大きかったため、宿のテラスでセバスチャンがわざわざ山に登れなかった理由について、「山頂直下のクレバスには以前から丈夫なスノーブリッジが架かり、一番信頼している先輩のガイドから3週間前には問題なく渡れたという話を聞いていたが、今日上で会った知り合いのガイド二人からスノーブリッジが崩壊し、渡ることが出来なかったという話を聞いて安全性を第一に考え下山を決めた」と丁寧に説明してくれた。

   キトの東30キロ位に位置するパパジャクタ温泉には夕方になって到着した。 山の中の湯治場くらいに考えていたパパジャクタ温泉の施設は予想以上に素晴らしく、まるで4ツ星級のホテルのようだった。 小雨が降ってきたので中庭の温水プールには入らずに室内の内湯で済ませる。 夕食は周囲にレストランがないのでホテルのレストランを利用したが、メニューが豊富で非の打ちどころがない。 注文した料理はどれもみな美味しかった。 館内は年末年始ということもあり大勢の宿泊客で賑わっていた。


ガイドのドメニカ


零時半に山小屋を出発する


氷河の取り付きを出発するまで2時間以上を要した


氷河は風で硬く締まり登り易かった


6時前にようやく周囲が明るくなった


妻は順応が上手くいっているようでペースがとても速かった


頂稜部の巨大なセラック


風は収まり青空も広がってきたので登頂の可能性は高まった


セラックの中に入る


後続の哉恵さんとOさんのパーティー


後続の朋子さんとIさんのパーティー


最高到達点となったセラックの入口で記念写真を撮る


氷河の取り付きに向けて下る


予想以上に大きかったカヤンベの氷河


氷河の取り付き


パパジャクタ温泉


中庭の温水プール


写  真    ・    南アメリカ    ・    想い出の山    ・    T O P