イシンカ(5530m)

  7月25日、前夜はすぐに眠りについたものの、夜中に何度か頭痛で目が覚める。 田路さんは熟睡、栗本さんは寝言を言っていた。 起き上がることまではしなかったが、寝ながら頭痛がなくなるまで深呼吸を繰り返す。 毎度のことで驚かないが、いつも周りの人よりも1〜2日順応が遅い。 今日は4時に出発する予定なので3時前に起床する。 風もなく、星が沢山見える。 隣のテントの妻に声を掛けると、まずまずの体調とのことで安堵する。 今日はイシンカの登頂後H.Cには戻らず、山頂を越えて直接B.Cに下るという計画なので、荷物をパッキングしてからテントを出る。 私達が出発したあとにポーター達がB.Cに荷物を下ろすという仕掛けだ。 外に用意されていたビスケットなどの朝食を立ち食いし、予定より少し遅れて4時半にH.Cを出発。 しばらく湖岸を歩いてから急傾斜の岩稜に取り付く。 明るければ何でもないが、所々に凍っている所やガレ場があり気が抜けない。 頭の大きさほどの落石があり、ヒヤリとする場面もあった。

  H.Cを出発して1時間半ほどで氷河への取り付きに着いた。 取り付きでハーネスやアイゼンを着けていると夜が白み始め、眼前にランラパルカの岩壁が迫っていた。 取り付きからは予定どおりマックスを先頭に私達のパーティーが先行する。 ヘッドランプは不要になり、周囲の状況が良く分かるようになった。 最初は急であった斜面もすぐに傾斜は緩くなり、間もなく眼下にイシンカ湖が俯瞰された。 相変わらず風もなく穏やかな登山日和だ。 重厚なランラパルカの右に秀麗なオシャパルカ(5888m)も見え始めた。 私達のパーティーは絶好調で、所々で足を止めながら後続隊を待つ。 すでに荒々しいウルスの3つのピークも目線の高さだ。 間もなく暖かな朝陽が当たり始め、早くも登頂を確信する。 しかし先頭のマックスは慎重に所々でヒドゥンクレバスを確認していた。 ランラパルカとイシンカを繋ぐ主稜線のコルに上がると、素晴らしい鋭峰が目に飛び込んできた。 下山後に地図で確認すると、3つの頂を持つワンサン(6395m)だった。 ありがたいことに主稜線に上がってからも風はなく、優美な雪稜の先の山頂とそこからの大展望に期待が膨らむ。 意外にも山頂直下は短いが急な雪壁になっていて、上からマックスに確保されながら登る。 10mほどのナイフリッジの先に猫の額ほどの狭い山頂があった。

  プレ登山とは言え、高度感たっぷりのブランカ山群の記念すべき第一峰に登れたことがとても嬉しかった。 田路さん、栗本さんと固い握手を交わして登頂を喜び合う。 後続隊はまだ雪壁の下に着いてなかったので、先に皆で写真を撮り合う。 まだ9時過ぎであったが、残念ながらワスカラン方面には雲が湧き、眼前のトクヤラフも一瞬その頂が見えただけで、すぐに雲に隠されてしまった。 やはりまだブランカ山群の天候は不安定なのかもしれない。 間もなくエロイとアンザイレンした妻と伊丹さん、近藤さん、イセケル、そしてアグリとアンザイレンした三栗野さん、割石さん、エルセリオ、最後に殿(しんがり)の平岡さんがバレンティンと相次いで狭い山頂に到着し、全員の登頂が叶ったことで一同大いに盛り上がった。 山頂は全員が寛ぐにはあまりにも狭かったので、記念写真を撮り合ってから反対側に少し下った安全地帯で休憩する。 上空は青空だが、相変わらずワスカラン方面の雲が取れないことが玉にキズだ。

  今日は縦走形式なので、ウルスを正面に見据えながら昨日昼食を食べた広いカールの底を目指して登りとは反対方向に下る。 正午前に氷河の取り付きに着くと、H.CからB.Cへ下ろす荷物の中からポーター達がトレッキングシューズをわざわざここまで運んでくれていた。 大名登山もここまでくると本物だ。 登頂が叶ったイシンカを眺めながらラウルが作ってくれたランチを食べ、意気揚々とB.Cへ下る。 360度の展望は叶えられなかったが、全員が登頂出来たことで隊のムードはさらに良くなり、次の目標に向けて幸先の良いスタートが切れた。 あとは体調の維持と本物のアンデスの青空の到来を願うのみだ。 B.Cでは再びトクヤラフが見えたが、依然として雲が多い。 夕食はビーフシチューをご飯で食べる。 ラウルが腕を揮って作ってくれたので味は絶品だが、まだ順応が不完全なので、食欲はあるが腹八分目で我慢する。 夕食中、とうとう恐れていた雨がぱらぱらと降り始めた。 この雨を境に天気は快方に向かうのか、それとも下り坂となってしまうのだろうか?。


出発直前のH.C


湖岸から急傾斜の岩稜に取り付く


氷河への取り付きで夜が白み始め、眼前にランラパルカの岩壁が迫っていた


マックスを先頭に私達のパーティーが先行する


ランラパルカの隣に聳える秀麗なオシャパルカ(5888m)


荒々しいウルスの3つのピークが目線の高さになる


風もなく暖かな朝陽が当たり始める(先頭の4人が私達のパーティー)


優美な雪稜の先の山頂とそこからの大展望に期待が膨らむ


重厚な面持ちのランラパルカ


3つの頂を持つ鋭峰ワンサン(6395m)


ザイルパートナーの田路さん、栗本さんと登頂を喜び合う


山頂直下の雪壁を登る女性パーティー


女性パーティーとガイドのエロイ


全員の登頂で大いに盛り上がったイシンカの山頂


ワスカラン方面には終始雲が湧いていたが、下山途中でトクヤラフの頂が一瞬見えた


ウルスを正面に見据えながら広いカールの底を目指して下る


ランラパルカ(左)とオシャパルカ(右)


氷河への取り付き付近


装備を解き、意気揚々とB.Cへ下る


B.Cからは雲が多いながらも再びトクヤラフが見えた


写  真    ・    南アメリカ    ・    想い出の山    ・    T O P