3月7日、零時前に起床して炊事棟に行くと、ベティが朝食とランチ用のサンドウィッチを手際よく作っていた。 意外にも石塚さんが体調が優れないとのことで、アレックスと私と平岡さんで1時過ぎに出発する。 しっかりとした明瞭な踏み跡のある登山道を登るが、この山のルールとして出発時からヘルメットを被らなければならないのが煩わしい。 しばらくは眼下の町の夜景だけを愛でながら傾斜の緩い道を黙々と登る。 先行した団体パーティーと相前後しながら十字架の立つチェックポイントを経て4800mに建つ避難小屋に入る。
避難小屋から先は急峻な岩場になるとのことで、アレックスからハーネスを着けるように指示があった。 岩場の登りは簡単だったが、5000m近い標高のため登高スピードが上がらなくなった。 最初の峠に着くと山頂方面がようやく見え、そのあまりの遠さに一瞬唖然としたが、それを凌駕するほどの素晴らしい景観に心が弾んだ。
最初の峠からは火口の中をトラバースしたりしながら最短距離で進む。 天気は悪くなかったが、ご来光は雲の上からで冴えなかった。 ペニテンテス(氷塔)の手前でアイゼンを着け、凍った急斜面をアイゼンの前爪を蹴り込んでバックステップで下る。 短いがここが一番の難所だった。 下りきった鞍部からはアイゼンを着けたままザレた急斜面を登る。 登り終えた二つ目の峠からはようやく山頂がはっきり見えた。
意外にも団体パーティーはここまでのようで、私達のパーティーのみで山頂に向かう。 アイゼンを外して外輪山の縁を登り下りしながら進む。 風もなく絶好の登山日和となったが、相変わらず登高スピードはアレックスが心配するほど遅くてもどかしい。 登りのコースタイムの上限の8時間ギリギリで誰もいないイスタの山頂に着いた。 山頂はやや広く、それまで見えなかった広大な火口を氷河が覆っている風景が見えた。 ポポはだいぶ遠くなり、マリンチェやオリサバが辛うじて遠望された。
下山は二つ目の峠から避難小屋を通らない下山専用のルートをケルンに導かれながら下る。 所々で踏み跡が薄かったり藪っぽかったりするが、アイゼンを着けるような所はなかった。 一方で長い登り返しが2回あったので、往路を戻った場合と比べて体力的にはそれほど変わらないように思えた。 出発してから12時間ほどで石塚さんが首を長くして待つ登山口の駐車場に戻った。
アレックスとはここで最後の別れとなり、ベティの車でチョルーラのホテルにデポした荷物をピックアップして、今日からしばらく滞在するプエブラのホテル『Marques del Angel Hotel Boutique』に向かう。 夕食はホテルの近くのレストランでチョコレートをソースに使ったモーレ料理を食べたが、味が個性的過ぎて私の舌には合わなかった。