カラ・パタール(5550m)

   10月21日、今日も早朝から快晴の天気となり、タウツェの山頂に沈む満月が見られた。 今日から2泊3日でカラ・パタール(5550m)の丘へ順応を兼ねたトレッキングに出掛ける。 今日の目的地はロブチェ(4910m)だ。  8時にロッジを出発。 昨日辿ったナガゾンの尾根の末端の峠を乗越し、ようやく新雪が溶け始めた広い谷筋の牧草地をロブチェ・イースト(6119m)を正面に見ながら歩いていく。 ガイドブックの写真に良く使われている景色の所だ。 左手にはタウツェとチョラツェのコンビが終始見え、振り返れば逆光ながらアマ・ダブラムやタムセルクとカンテガの眺めが良い。 昨日辺りから徐々に増えてきたトレッカー達の姿は今日はさらに多くなった。 私たちがルクラに入ってから数日は悪天候で飛行機が飛ばなかったようなので、その後一気に入山者が増えたのだろう。 間もなく眼下の谷にはエベレスト街道の本線とペリチェ(4270m)の集落が見えた。 

   雪に埋もれたカルカ(放牧小屋)を過ぎると、タウツェとチョラツェの形が面白いように変わり、ロブチェ・イーストも徐々に大きくなっていく。 歩き始めてから2時間足らずで早くも神々しい垂涎のプモ・リ(7165m)の頂稜部が見え、思わず歓声を上げる。 トレッキングルートはロブチェ・コーラ(川)の左岸に沿うようになり、間もなく左前方に中間点のトゥクラ(4620m)のロッジが見えた。 寒々しいロブチェ・コーラ(川)を渡り、10時半前にトレッカーで賑わうロッジに着いた。 ロッジの背後に聳えるタウツェは、ディンボチェ付近から見た雄姿とは全く違うものになっていた。

   ロッジのテラスでティータイムとし、11時前にロブチェに向けて出発する。 ロブチェ・イーストを正面に見据えながらトゥクラ・パス(峠)(4830m)へ小さくジグザグを切りながら登っていく。 峠の向こうにヌプツェ(7855m)の頂稜部が見えた。 トゥクラのロッジから40分ほどでタルチョがたなびくトゥクラ・パス(峠)に着いた。 小広い峠はトレッカーのみならずポーター達の憩いの場所にもなっていた。 もちろん私達も一息入れる。 風光明媚な峠の傍らには石を積んだシェルパの遭難碑が多く見られた。

   峠から先では傾斜が緩やかになり、ロブチェ・イーストに代わってプモ・リが正面に見えるようになった。 次々と展開する豪快な山々の景観は本当に素晴らしく、エベレスト街道が人気のトレッキングルートであることが頷けた。 正に百聞は一見にしかずだ。 一方、時折ヘリコプターが飛んで来たり、酸素マスクを着けて馬で下ってくる人も見られ、ここが観光地であることも否定出来なかった。 間もなく左手の雪原にロブチェ・イーストのB.Cと数張のテントが見えた。 いつもであれば、この時期のB.Cには雪はないとのこと。 ルート上の積雪も多くなり、プモ・リがだんだん近くなってくる。 再び右手にヌプツェが見えるようになると、間もなく数軒のロッジがあるだけのロブチェ(4910m)に着いた。 ディンボチェからは休憩を含めて5時間ほど掛かった。

   新しいロッジは想像していたよりも造りが良く室内も清潔だった。 ディンボチェとは標高が500mほどしか違わないが、山深くなってきたので寒さが全く違う。 午後は食堂の隅の薪ストーブに火を入れてもらい、煤臭さを我慢しながらその周りで寛いだ。 パサンから、今日ようやく今までで一番遅い“モンスーン明け宣言”があったことを伝えられた。 体調は良くもなく悪くもなく、夕食後のSPO2は82、脈拍は62だった。


ディンボチェ (4410m) ⇒ トゥクラ (4620m) ⇒ ロブチェ  4910m) ⇒ カラ・パタール (5550m)


タウツェの山頂に沈む満月


昨日辿ったナガゾンの尾根の末端の峠へ登る


峠から見たタウツェとチョラツェ(右)


新雪が溶け始めた広い谷筋の牧草地をロブチェ・イーストを正面に見ながら歩く


トレッキングルートからは左手にタウツェとチョラツェのコンビが終始見えた


エベレスト街道の本線が通るペリチェの集落    背景はタムセルク(右)とカンテガ(中)


放牧小屋付近から見たアマ・ダブラム


チョラツェ


ロブチェ・イースト


プモ・リの頂稜部


ロブチェ・コーラ(川)の左岸に沿うよう歩く


ロブチェ・コーラ(川)を渡る


トゥクラのロッジ    背景はタウツェ(左)とチョラツェ(右)


トゥクラから辿ってきた谷筋のトレッキングルート(中央から左端)


ロッジのテラスでのティータイム


太陽光でお湯を沸かす装置


ロブチェ・イーストを正面に見据えながらトゥクラ・パス(峠)へ登る


トゥクラ・パス(峠)


トゥクラ・パス(峠)から見たロブチェ・イースト


トゥクラ・パス(峠)から見たアマ・ダブラム(左端)とカンテガ(右端)


峠から先では傾斜が緩やかになり、プ・モリが正面に見えるようになった


ロブチェ・イーストのB.Cには数張のテントが見えた


ルート上の積雪も多くなり、プモ・リがだんだん近くなってくる


ロブチェの手前で再びヌプツェが見えるようになった


数軒のロッジがあるだけのロブチェ


ロッジの食堂


ロッジの寝室


昼食のピザ


午後は食堂の隅の薪ストーブの周りで終始寛ぐ


夕食のすいとん入りのシェルパシチュー


   10月22日、モンスーン明けということで今日も早朝から快晴の天気となった。 体調は良くもなく悪くもないが、夜中に頭痛はなく快便も続いた。 起床前のSPO2は80、脈拍は58だった。 妻は私よりも順応が早い(高所に強い)ので今日も元気だ。 今日はカラ・パタール(5550m)への登頂のベースとなるゴラクシェップ(5140m)への半日行程だ。 

   寒々しい食堂で朝食を食べて体を温め、8時過ぎにロッジを出発。 トレッキングルートはヌプツェ(7855m)やプモ・リ(7165m)を眺めながらの緩やかな登りが続き、快晴無風の天気に足取りも軽い。 前方にはすでに多くのトレッカー達の姿が見えた。 1時間ほど歩いてロブチェ・パス(峠)(5110m)の手前まで来ると、今度はゴラクシェップから下山してくる多くのトレッカー達と度々すれ違うようになった。 峠の手前で一息入れていると、私たちの後からも続々とトレッカー達が登ってくるのが見えた。 ここが本当に5000mを超えている場所なのかと目を疑いたくなるような光景だ。 タルチョが張られたロブチェ・パス(峠)を越えると、ますますプモ・リが大きく迫り、その尾根の末端に目指すカラ・パタールの丘が見えた。 降雪によりカラ・パタールの山肌はまだ白い部分が多かった。 その右隣の広大なクーンブ氷河の上流には、チベットとの国境線上のリントレン(6749m)とクーンブツェ(6665m)そしてチベットのチャンツェ(7553m)の三山も見えるようになった。 どこを見ても山、山、山で、カラ・パタールに登る前からもうお腹一杯だ。 

   ロブチェを出発してから3時間ほどで今日の目的地のゴラクシェップ(5140m)のロッジに着いた。 これからカラ・パタールに登る人と下りてきた人でロッジの食堂はごった返していた。 ロッジは汚く宿泊環境も悪いと聞いていたが、一見した感じはそれほどでもなく、以前よりかなり改善されたようだった。 順応が目的のため、カラ・パタールの登頂予定日は明日だったが、風もなく天気が安定してるので、今日のうちに登ることになった。  ララ・ヌードルをすすって、正午過ぎにロッジを出発。 いつの間にかヌプツェも尖った山容に変わっていた。 カラ・パタールへの取り付きは見た目よりも傾斜があって息が切れる。 登り始めて間もなくエベレストが見えた。 意外にも最初の休憩地点で山村さんの知り合いの日本山岳会の広島支部のメンバーと出会った。 これも入山者が多い証拠だ。 登るにつれてプモ・リが眼前に大きく迫り、まるでプモ・リをこれから登りに行くような錯覚を覚える。 足は予想以上に前に進まなくなり、余裕は全くなくなった。 妻や節子さんはここまで上手く順応したようで、しっかりとした足の運びで前を登っている。 他のメンバーも全く問題ない。

   2時過ぎにタルチョが四方に張られた待望のカラ・パタールの山頂に全員一緒に登頂した。 ゴラクシェップから山頂までは通常1時間半ほどらしいが、途中2回休憩したので2時間掛かった。 広く平らな山頂をイメージしていたが、一番高い所は猫の額ほどの尖った岩の上だった。 山頂はこの時間でも多くのトレッカー達で賑わっていた。 眼前にはプモ・リはもちろんのこと、写真集やガイドブックで見たエベレストとヌプツェのコンビが圧倒的な迫力で望まれた。 人が多いのが難点だが、ここからの迫力ある山々の大展望はやはり一見の価値がある。 予想していたよりもエベレストが近くに見えた。 皆で記念写真を何枚も撮りあって喜びを分かち合った。   

   30分ほど山頂に滞在し、足取りも軽くゴラクシェップに下る。 ゆっくり下っても下りは早く、1時間足らずでロッジに着いた。 寝室は寒いので食堂でお茶を飲みながら過ごす。 日没前にロッジ付近から残照のエベレストの頂稜部が僅かに見られた。 夕食はシェルパシチューとモモ(蒸し餃子)。 食堂は混雑のため夕食は交代制になったので、7時には寝室に戻って早々に床に就いた。 就寝前のSPO2は83、脈拍は60で意外と良かった。


トレッキングルートはヌプツェやプモ・リを眺めながらの緩やかな登りが続いた


前方には多くのトレッカー達の姿が見えた


ロブチェ・パス(峠)の手前ではゴラクシェップから下山してくる多くのトレッカー達とすれ違った


タルチョが張られたロブチェ・パス(峠)


ロブチェ・パス(峠)を越えるとプモ・リの尾根の末端に目指すカラ・パタールの丘が見えた


クーンブ氷河の上流の山々    リントレン(左)・クーンブツェ(中)・チャンツェ(右)


クーンブ氷河の下流の山々    タムセルク(右奥)


ヌプツェは次第にその山容を変えていった


ゴラクシェップから見たカラ・パタール(中央手前の丘)


ゴラクシェップのロッジの食堂は多くのトレッカー達でごった返していた


ゴラクシェップからカラ・パタールへ


カラ・パタールへの取り付きは見た目よりも傾斜があって息が切れた


プモ・リが眼前に大きく迫り、まるでプモ・リをこれから登りに行くような錯覚を覚える


ゴラクシェップを見下ろす


登り始めて間もなくエベレスト(中央奥)が見えた


メンバーの足取りは皆しっかりとしていた


アマ・ダブラム(中央奥)を遠望する


カラ・パタールの山頂直下    背景はプモ・リ


カラ・パタールの山頂に全員一緒に登頂した


山頂の一番高い所は猫の額ほどの尖った岩の上だった


山頂から見たエベレスト(左)とヌプツェ(右)


山頂から見たプモ・リ


皆で記念写真を何枚も撮りあって喜びを分かち合った


足取りも軽くゴラクシェップに下る


下山後はロッジの食堂でお茶を飲みながら過ごす


簡素だが清潔だったロッジの寝室


日没前にロッジ付近から残照のエベレストの頂稜部が僅かに見られた


食堂は混雑のため夕食は交代制になった


   10月23日、昨夜は夕食後すぐに寝たためか、夜中は頭痛で1時間毎に目が覚めた。 明日は下るだけなので、深呼吸はせずにそのまま頭痛が無くなるのを待って寝る。 寒いのは高度のせいだと思っていたが、寝袋のファスナーが壊れていて、横が半分くらい開いていた。 鼻が詰まっているようで喉にも違和感があり、少し風邪の症状が出てしまった。 起床後のSPO2は90、脈拍は53で数値だけは非常に良かった。 一つの目標だったカラ・パタールの登頂を終えて気が緩んだのか、体調を気遣うことなく日の出前にロッジの裏手の丘に早朝の風景の写真を撮りに出掛けた。 すぐに戻る予定だったが、刻々と変化する山の表情に魅せられてしまい、薄着のまま小1時間ほど寒い丘の上で過ごしてしまった。 

   早朝から食堂が混雑していたため、ようやく9時前にロッジを出発。 アイランド・ピークの登頂チームの私と妻、節子さん、滝口さん、工藤さん、山村さんの6人と平岡さんはディンボチェに下り、ロブチェ・イーストの登頂チームの泉さん、岩野さん、田口さんの3人は途中のロブチェの先にあるB.Cに入る。 今日も快晴の素晴らしい天気に恵まれたが、朝食のピザを食べ過ぎたことも災いし、歩きながら軽い頭痛がしてきた。 出発して2時間足らずでロブチェ(4910m)に着き、早めのランチとなったが、食欲が湧かず殆ど食べられなかった。 風邪か高度障害か、喉の渇きが取れない。 早朝の散歩を後悔したが後の祭りだ。

   正午過ぎにロブチェを出発。 ディンボチェ方面にしばらく歩いてからルートを右に外れ、全員一緒に広い雪原の中に設営されたロブチェ・イーストのB.Cへ向かう。 B.Cにいたスタッフの話によると、昨日他の日本人隊(日本山岳会の広島支部)がこの先のH.Cに上がったようで、上部の雪の状態は想像するほど悪くなさそうだった。 スタッフの中にはフィンジョの姿も見られた。 B.Cに滞在する泉さん、岩野さん、田口さんに見送られ、アイランド・ピークを目指す私達はディンボチェに下る。 トゥクラ・パス(峠)(4830m)で一休みし、トゥクラのロッジには寄らずにロブチェ・コーラ(川)を渡って谷筋の牧草地を下る。 ここからは神々しいアマ・ダブラムを終始正面に見ながら下る。 二日前に比べると牧草地の残雪はだいぶ少なくなったが、肝心のアマ・ダブラムには相変わらず雪が多かった。 頭痛は治ったが少し寒気がしたので、一刻も早くディンボチェに下りたいと思った。 

   3時半前にディンボチェ(4410m)に着き、2泊3日のカラ・パタールへの順応トレッキングを終えた。 明日はレスト日でロッジに連泊するが、前回泊まったトイレ付の部屋には先客がいて泊まれなかった。 夜には食欲も出てきて、ディンボチェの酸素の濃さをあらためて感じた。 夕食後のSPO2は83、脈拍は63で今朝よりも悪くなっていた。


ロッジの裏手の丘から見たカラ・パタール    背景はプモ・リ


ロッジの裏手の丘から見たタムセルク・タウツェ・チョラツェ・ロブチェ・イースト(左から)


ロッジの裏手の丘から見たチャング・リ(6027m)


早朝からロッジの食堂は混雑していた


ゴラクシェップからロブチェへ


ロブチェから見たタウツェ(左)とチョラツェ(右)


昼食の焼きそば


B.Cに滞在する泉さん、岩野さん、田口さんに見送られる


広い雪原の中に設営されたロブチェ・イーストのB.C


トゥクラ・パス(峠)


トゥクラのロッジ


アマ・ダブラムを終始正面に見ながら広い谷筋の牧草地を下る


牧草地の残雪は二日前に比べるとだいぶ少なくなった


アマ・ダブラムには相変わらず雪が多かった


2泊3日のカラ・パタールへの順応トレッキングを終えてディンボチェに戻る


ロッジの寝室


山 日 記    ・    T O P